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2015年(第16回)

【特別賞】
子どもの学習意欲を伸ばすクロス・カリキュラムIT教育
沖縄工業高等専門学校 メディア情報工学科 5年
正木 彩花

1.はじめに
 私は、工業高等専門学校に入学するまで「IT」という言葉の意味をよく知らなかった。
 「IT」を辞書で引くと、最初に「インターネットなどの通信とコンピューターとを駆使する情報技術」という意味が出てくる。中学生の私は言葉の意味をそのままに受け止め、パソコンを触るのが好きだからという漠然とした好奇心で工業高等専門学校に入学した。しかし実際にプログラミングや制御回路について学ぶようになると、IT技術は至る分野で活用されていることを知り衝撃を受けた。
 たとえば農業では生産物や栽培をコンピューターで管理し、作業日誌をスマートフォンで記録するなどの取り組みが行われている(1。また、道路交通においては道路の車両情報を感知する「光ビーコン」という機器を活用し、カーナビに渋滞情報を送信するという取り組みや、道路の信号を制御し、人命救助などの救急業務に用いられる車両が迅速に現場に到着できるように優先的に走行できるような取り組みが行われている(2。このように、現在は世界中で様々な分野にITが活用されており、情報化社会として発展し続けている。
 その事実を知った私は「IT」というものはそれだけで完結するひとつの業種ではなく、様々な分野と合わされば更に利便性が発揮されるものだということを学んだ。そこで、このIT技術を、次の情報化社会を担う次世代の教育に利用できないかと考えたところ、クロス・カリキュラムを用いてIT技術を学ぶカリキュラムを設立できないかと思い至った。

2. クロス・カリキュラムを通してIT技術を学ぶ
 「クロス・カリキュラム」とは、複数の科目を特定のテーマについて複数の教科・科目の内容を相互に関連づけて学習するカリキュラムである。このカリキュラムによって、各教科の専門性と特徴を生かし、特定テーマに対する関連性を明確にして学習効果を上げることができる(3。イギリスやフィンランドでは総合的な学習として活用されており、環境教育の一貫として用いられることもある。
 ITについて技術的な教育を施すとなると、まず情報技術の基礎知識や初歩的なプログラミングを教えるのが一般的である。この時点では関数を自分で作成して計算問題を解き、構文を用いて文字列を制御するなどの技術を学ぶが、このようにただプログラミングを学ぶだけではどのようにITが活用されているのか学ぶことはできない。
 例えば、数学の科目でただ計算式を解くだけではその知識がどのように利用されているのか知ることはできないが、微分積分学は砲弾の弾道計算に用いられており、世界初のコンピューターである「ENIAC」も最初は弾道計算のために発明された計算機であった。つまり、数学がなければ現在のインターネットやコンピューターは存在しなかった可能性があるのだ。
 私がITの多様性について実感したのは、制御装置にプログラミングを組み込む「組込みソフトウェア開発」を学んだ時だったが、小学校や中学校などのもっと早い段階からIT技術が様々な分野と密接に関わっていることについて学ぶことができれば、ものづくりやIT分野についてより具体的な興味や目標を持つことができるのではないかと考えた。また、これから自分達がITという技術を用いてどのような事ができるようになるのか、どのような分野に活用していけるか等といった創造力の育成が期待できる。

3. 技術や知識を実際に活用する場にできる
 クロス・カリキュラムを用いてIT技術の知識と利用方法について教育を受けた後は、実際に得た技術を活用できる場が必要であると考えた。ヨーロッパの北部に位置するエストニア共和国は人口が約130万人、面積が日本の9分の1と同程度である4.5万平方キロメートル(4でありながら、IT先進国として注目されている。エストニア共和国では、幼少期から論理的思考力や技術力を高めるためにIT教育が実施されており、小学4年生の教育科目にプログラミングが組み込まれている(5。またエストニア共和国以外においてもアメリカやシンガポール等の海外諸国でもIT教育が進められている。このような教育現場では玩具メーカーであるLEGO社が教育用として開発したロボット「マインドストーム」や子ども向けのプログラミング言語である「Scratch」などが用いられており、子供達が親しみやすい教材として活用されている。このような教材を全国の教育現場で積極的に取り入れていくことで、よりIT技術に興味を持つのではないかと考えた。
 一方でこのようなカリキュラムを取り入れるにあたって、教師のIT技術に対する知識不足が問題になるが、イギリスではその問題点を踏まえて教師を対象としたプログラミングの教育訓練事業を開始すると発表した。(6日本でも平成25年に発表された成長戦略に「義務教育段階からのプログラミング教育等のIT教育を推進する」(7とあるが、イギリスのようにまず教師のIT教育から始めるべきであると思う。

4. おわりに
 IT教育の実用例として海外諸国の例を具体的に挙げてきたが、日本でも一部の教育現場でプログラミングが教育科目として取り入れられ(8、またプログラミングの出張授業を行う会社も存在する。しかし全国的に普及しているかと問われればやはり達成には至っておらず、IT教育の普及に向けての取り組みはまだ必要であると思われる。
 日本がものづくり大国と讃えられたのはすでに昔のことであるが、情報化社会において進化し続ける世の中の技術をうまく取り入れ、いつか世界を豊かで便利にする技術者が日本から生まれることを心から願っている。また、私もそのような技術者になれるように臨みたいと思う。


【参考文献】
1)農林水産省 - 農山漁村におけるIT活用事例等 (H27.08.04)
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/it/itkanren.html
2)警察庁 - 平成24年版警察白書 (H27.08.04)
http://www.npa.go.jp/hakusyo/h24/honbun/html/o4430000.html
3)武蔵工業大学環境情報学部佐藤研究室 - オンライン環境教育関連用語データベース(H27.08.04)
http://dbee.miyakyo-u.ac.jp/2007_sato_lab/jirei1_2.php?s3=201
4)外務省 - エストニア共和国基礎データ (H27.08.04)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/estonia/data.html
5)東洋経済オンライン - バルト海の小国が「IT教育」に懸けるワケ (H27.08.04)
http://toyokeizai.net/articles/-/69550
6)Tech Crunch Japan - イギリスは義務教育(5-16歳)公式カリキュラムにプログラミング教育を導入–9月施行にさきがけYear Of Codeキャンペーンを助成 (H27.08.04)
http://jp.techcrunch.com/2014/02/05/20140204uk-government-backs-year-of-code-campaign-boosts-funds-to-teach-code-in-schools/
7)首相官邸 - 第11回 産業競争力会議 配布資料(素案)(H27.08.04)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai11/siryou1-1.pdf
8)INTERNET WATCH - 佐賀県武雄市、小学1年生へのプログラミング授業、2年生でも継続 (H27.08.04)
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20150611_706327.html