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2015年(第16回)

【優秀賞】
ITで学習のモチベーションを上げるには
奈良工業高等専門学校 情報工学科 5年
齊藤 裕介

はじめに
 近年,ITの普及に伴い,学校教育や個人の学習にITを導入する機会が増えている。しかし,ITを用いて学習を便利にしても,それが利用されるかは学習者のモチベーションに左右されてしまう。
 本論文では,ITの導入や授業形式の変革によって学習者のモチベーションがどのように向上するか,心理学の観点から考察する。そして,ITの導入によって学習のモチベーションを上げる手段を検討する。

ITで変わる教育・学習スタイル
 本章では,教育現場および学校以外での自学自習(以下,個人学習)に導入されつつあるITで,モチベーションを向上させる手法をいくつか紹介する。

教育現場に導入されるIT
 文部科学省は,学校教育分野の情報化に関して,多くの取組みを実施している[1]。教育の情報化により,コンテンツのデジタル化やネットワークを利用できるメリットが得られる[2]。
 しかし,単に教育を情報化するだけでは,モチベーションが低い学生に学習を続けさせることは難しい[3]。そこで,教員による一方向の授業形式を変革し,学生が能動的に授業に参加するアクティブ・ラーニングが提案されている。モチベーションが低下している学生は,教室や授業の中で自分の存在が他者に認められたり,自己実現(自分の存在意義や価値を求めて成長)できる能動的な学習が成立すれば,授業に対するモチベーションが向上し参加するようになる[4]。
 生徒指導が困難である学校においては,このような授業を実施して改善した例もあるため[4],ITの導入だけでなく授業形式の見直しが必要である。

個人学習に導入されるIT
 学校以外でも,スマートフォンアプリやWebサイトを使った個人学習の機会が増えている。SNS機能で同じ目標を持つ仲間と繋がれるもの,入試過去問といった教材を提供するもの,暗記シート等の教材を自作するもの等,様々なサービスが使われている。
 それらのITサービスでも,学習者のモチベーションを上げる工夫が可能である。例えば,zuknowというアプリでは「他の学習者と比較するランキング機能」「学習記録のグラフ化」といった工夫で,学習者のモチベーションを上げている[5]。

外発的動機付けと内発的動機付け
 本章では,心理学の観点から前章で紹介したモチベーション向上の事例を分類し,その特徴を述べる。

モチベーションの分類
 モチベーションとは,「目的に向け行動を起こし,その達成まで持続させる心理的なエネルギー[6]」で,大きく「外発的動機付け」と「内発的動機付け」に分類される[7]。外発的動機付けとは賞罰,強制,義務といった外部からの働きかけによるモチベーションで,「親にほめられるから勉強する」等が該当する。内発的動機付けとは好奇心や興味,関心によるモチベーションで,「面白いから勉強する」等が該当する。
図1にモチベーションの分類を示す。外発的動機付けは自律性の高さによって4段階に分類され,自律性が高いほど内発的になる。

 外発的動機付けによる学習の目的は賞賛や報酬であるため,その目的を失えば勉強しない。しかし,内発的動機付けでは学習すること自体が目的であるため,自発的に継続して学習できる。すなわち,内発的動機付けが学習者にとって理想的なモチベーションである。

事例で考えるモチベーション
 次に,「アクティブ・ラーニング」「ランキング機能」「学習記録のグラフ化」の3つの手法を例に,それぞれの手法が与えるモチベーションの種類を説明する。
 アクティブ・ラーニングを導入すると,自分が他者から認められることに外発的動機付けの取り入れ的調整が働き,自己実現できる能動的な学習は統合的調整が働く。「ランキング機能」は他者との比較によって有能感を持たせるため,取り入れ的調整である。「学習記録のグラフ化」は自分の学力を高めたい学習者には統合的調整だが,大学合格といった別の目標がある学習者には,自律性が低い同一化的調整が働く。
 紹介した手法は全て外発的動機付けを与えるため,学習そのものに対するモチベーションを上げられない。次章では,内発的動機付けを与える手法について考察する。

ITで学習モチベーションを上げる手法
 本章では,学習者に内発的動機付けを与えるITの導入について,学習者の理解度,外発的動機付けの併用,ITへの依存という3つの観点から考察する。

理解度に対応したシステム
 内発的動機付けを与えるには,映像や音声,ゲーム要素などITを活用した教材によって,学習行為を楽しくすると効果的である。しかし,学習内容を理解できない学習者は,学習を楽しむことはできず,モチベーションの向上も見込めない。
 例えば学校において,学生に内発的動機付けを与えるためには,学生の理解に関するサポートが必要不可欠である。しかし,実際には教員による居残り学習等のサポートは困難である[8]。
 そこで,ITを使って「理解度に応じた教材をいつでも利用できるシステム」を構築し,学生が自主的に復習できるようにすると良い。また,理解度が高い学生は他人と比較した内容,理解度が低い学生は過去の自分と比較した内容に基づいてフィードバックを与えられると,有能感を得てモチベーションが上がる[7]。従って,図2に示すシステムが効果的である。

 ただし,理解度の判定基準やフィードバックの具体的な内容については,教育現場やITサービスでの実践と検証が必要である。

外発的動機付けとの併用
 
理想的なモチベーションである内発的動機付けに,学習の第一歩に与えるモチベーションとして外発的動機付けを組み合わせると,より高い効果を発揮する。 例えば学校教育では,楽しく学習できるIT教材を用意しても,授業にやる気を持てない学生は利用しない。そこで,最初にアクティブ・ラーニングを導入して授業に参加するモチベーション(外発的動機付け)を向上させる。加えて,理解度に応じた教材をITで楽しく学習できる(内発的動機付け)と,より多くの学生に内発的動機付けを与えられる。 個人学習で使われるITサービスでは「ランキング機能」等の外発的動機付けによって,利用者数を伸ばすことができる。しかしそこで満足せず,学習者に内発的動機付けを与える手法を導入することが重要である。

ITに依存する動機付け
  タブレット端末等のITで学習行為を楽しくすると内発的動機付けを与えられる。ただし,学習者が学習行為ではなく,タブレット端末の教材で楽しむことに内発的動機付けを持つ可能性がある。そのような学習者は,ITを使わないアナログな学習(九九を覚えるために家の壁に九九表を貼るなど)にモチベーションを持たない。
 デジタルとアナログ,それぞれにしかできない学びがある[2]ため,ITを使わない学習も必要である。例えば自分で工夫した勉強法を発表し,評価される場を用意すれば,ITの楽しさに依存しない学習のモチベーションも上がるだろう。学びを楽しくするITには,成績の向上や授業の満足度を高めるといった効果が期待できる[1]が,多様な学習に対するモチベーションもまた必要である。

結論
 内発的動機付けが学習者にとって理想的なモチベーションである。しかし,授業形式の変革やITサービスにおけるランキング機能等はいずれも外発的動機付けを与える。
 ITを使って内発的動機付けを与える際には,学習者の理解度に対応するシステムの構築,外発的動機付けとの組み合わせ,およびITに依存しない学習モチベーションの提供が重要である。
 私は,ITという科学技術を用いて教育が豊かになれば,日本の将来に必ず良い影響があると考えている。本論文の提案を契機に,ITを用いた学習に内発的動機付けを与える手法が導入され,その効果が実証されることを期待する。

参考文献
[1] “学びのイノベーション事業”(http://jouhouka.mext.go.jp/school/innovation/),2016年2月9日閲覧
[2] 「デジタル教育宣言」,石戸奈々子著,2014年12月10日,株式会社KADOKAWA,P164〜P169,P179
[3] “「教科書デジタル化」というデジタルを取り違えた残念な政策”(http://www.huffingtonpost.jp/yujun-wakashin/textbook-digitization_b_7152204.html),2016年2月7日閲覧
[4] 「変わる学力、変える授業。」,高木展郎著,2015年4月10日,三省堂,P146
[5] “友だちと競える暗記帳アプリ「zuknow」運営メンバーインタビュー”(http://studyhacker.net/columns/zuknow-interview),2016年2月12日閲覧
[6] “【コラム】モチベーションとは?@:動因と誘因”(http://www.hm-consul.co.jp/topics/ コラム/【コラム】モチベーションとは@:動因と誘因/),2016年2月14日閲覧
[7] 「行動を起こし,持続する力」,外山美樹著,2011年12月15日,新曜社,P74〜P81,P102,P186
[8] “学力保障〜学校の荒れを防ぐための最優先事項”(https://edupedia.jp/article/53233f94059b682d585b64a7),2016年2月14日閲覧