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2015年(第16回)

【優秀賞】
既存の動画共有サイトを用いたエンジニア育成モデルの提案
東京理科大学 理学部第一部 応用化学科 3年
久保 祐介

はじめに
 理工系人材、いわゆるエンジニアは技術立国である日本に不可欠な存在である。したがって、いかに次世代エンジニアを育成するかという問題はこの国の大きな課題であると考える。私はここ10年で発達したインターネットメディア、特に動画共有サイトと呼ばれるwebサービスに注目しこれを次世代エンジニア育成のための教育環境に利用する方法を提案する。

エンジニアは学校教育だけでは育たない
 エンジニア、とりわけ独創的なアイデアで商品を生み出す人間をどのように育成するか。今までこれは学校教育の課題とされてきた(ここで言う学校とは学習指導要領に基づき教育を行う小学校、中学校、高等学校を指す)。これは産業界が教育界に対し「エンジニアの資質のある子供を育てて欲しい」という要望を出したからに他ならないと私は考える。その結果、「独創性」や「創造性」という言葉は教育界で広く用いられ評価基準として受け入れられてきた。確かに「独創性」や「創造性」はエンジニアに不可欠な要素である。しかしここで私が疑問に思うのは「誰がどのようにそれを評価するのか」ということである。専門性のある大学等の機関ならともかく、学習指導要領に基づいて教育を行う学校が産業界の求めるエンジニアの素質を評価するのには限界がある。かといって外部の人間に生徒を評価させることは難しい。結果として、産業界が求める人材と学校が育てる人材に評価のズレが生じているのではないだろうか。この「評価のズレ」は私がエンジニアは学校教育だけでは育たないと考える理由の1つである。
 学校がエンジニア育成に向かないもう1つの理由として、発表の場が限られるということが挙げられる。学校教育の性格上、学生が自身の作品を発表する場は部活動などの課外活動を除けばほとんどない。技術系部活動はエンジニアを育てる上で有効であるが、体育会系の部活動に比べればまだまだマイナーであり、学校によってはそもそも技術系部活動が存在していないことも珍しくはない。この問題は、すでにエンジニアを目指している学生が機会を失うだけでなく、エンジニアを目指すきっかけそのものが学校から失われていることを意味している。
 上に挙げた2つの理由からエンジニアは学校教育だけでは育たないと私は考える。つまり、エンジニア育成には学校とは別の場を用意する必要がある。そこで私は動画共有サイトを学校に代わるエンジニア育成の場とすることを提案する。このモデルでは学生が自身の作品についての動画をアップロードすることで「発表」し、それを見た視聴者がコメントや投票で「評価」する。同時に企業も視聴者として学生の作品を「評価」し、動画作成者として自社の製品の「発表」を行う。このように「発表」と「評価」を学生と企業が同時に行うことによって次世代のエンジニアが育成されると私は考える。

動画共有サイトの特徴と現状
 動画共有サイトとは利用者が動画をアップロードしそれを皆で共有するサイトのことである。具体的な例としては「YouTube」や「ニコニコ動画」等が有名である。私が動画共有サイトに注目した理由は3つある。
 まず第1の理由は動画メディアの利便性である。動画は完成した作品のみならずその制作過程、動作する様子を短時間で紹介することができる。また、近年スマートフォンが普及したことにより誰でも簡単に動画を撮影することができるようになった。無料で使える動画編集ソフトを使えば、スマートフォンとパソコンだけで動画を作成しアップロードすることが可能である。学生は自宅に居ながら自身が作成した作品等を他人に「発表」することができる。これは作品を出展するコンテストにはない利点である。
 第2の理由は、動画共有サイトの利用者の大半が中高生を含む若者であることである。一般に、新しくwebサービスを用いてプロジェクトを行う場合、新規利用者を集めることは大変である。しかし既存の動画共有サイトであればターゲット層を集めずともエンジニア教育の場として活用することができる。
 第3の理由は、エンジニアが自身の作品を「発表」するジャンルの動画(ニコニコ動画では「作ってみた」動画と呼ばれる。)の投稿者のほとんどが現在アマチュアであるということである。音楽系ジャンルの動画ではプロが投稿した作品が多数を占めるためアマチュア音楽家が動画を投稿しづらい雰囲気があるが、エンジニアはそのような心配をする必要がない。
 以上3つの理由から、スマートフォンが広がり動画共有サイトを利用している今こそ若手エンジニアの「発表」と「評価」の場として既存の動画共有サイトを活用すべきであると私は考える。そのためには動画共有サイトの管理者だけではなく、そこへ参入する企業の協力が不可欠である。

エンジニア育成モデルの具体的提案
 動画共有サイトを用いるエンジニア育成モデルの基本は、上でも述べたとおり「発表」と「評価」の場をネット上に創りだすことである。したがって、まずはエンジニア向けの動画がまとめられたプラットフォーム型のページを作製する必要がある。このサイトは既存の動画共有サービスへリンクを貼るだけでも問題ない。そしてそのページ上で作品に対する意見交換やアイデア募集を行えるようなサービスを展開する。企業も学生と同様、自社の製品について「発表」を行うことが望ましい。このサービスの目的はエンジニア育成であるから製品のPRや宣伝ではなく、どのようにその製品を開発したか、新しいアイデアは何か、といったエンジニアの視点から製品を解説する動画が適切である。こうした企業の動画を見た学生たちがインスピレーションを受け、エンジニアとして自ら作品を作り発表するようになればこのモデルは成功したと言えるだろう。以下に挙げるのはこのモデルが成功した上での発展形としてのエンジニア育成プログラムの例である。

(1)企業をスポンサーとしたアイデアコンテストの開催
 これはエンジニアを目指したいがモノ作りをするには資金も機材も無い学生に対して、企業がアイデアを募集しサイト内の投票によって選ばれた学生のアイデアを企業が製品化するというプログラムである。学生と企業が共同開発を行う機会はなかなか無いので、学生にとっては社会で評価されるアイデアがどのようなものか知ることができる。また企業にとっては、自社の技術力をアピールすると同時に優秀な人材を発掘できるチャンスとなる。
(2)エンジニア向け専門教育の配信
 大学や高等専門学校の授業の一部を動画として配信することによって、エンジニアに興味をもった学生に必要な知識を提供する。学生はその知識を用いてよりより作品を作ることができ、大学や高等専門学校は将来有望な学生に対して自らをアピールすることができる。
(3)寄付もしくは広告による収入モデルの導入
 作品を発表した学生がサイトを通して収入を得る仕組みを導入する。具体的には視聴者からの寄付もしくはサイトの広告収入の一部を還元する形になるだろう。自分が作った作品を発表することで収入が得られるとなれば、多くの学生エンジニアが動画をアップロードするようになると思われる。

最後に
 今までの優秀なエンジニアは、自分でモノを作りそれを周りに発表して評価を得られる機会に恵まれた環境下で育成されてきた。しかし技術立国としての日本の地位が危ぶまれる現在では、その方法では十分な数の優秀なエンジニアを育てることは難しいだろう。ただ単に大学の工学部の数を増やすだけではもはや問題は解決しない。学生がモノ作りに興味をもち、エンジニアとしての素質を得ることこそが日本の将来を決める鍵となるだろう。