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2015年(第16回)

【最優秀賞 文部科学大臣賞】
自治体間ネットワークの構築による
 社会と科学技術のかかわりが見える教育へ
埼玉大学 大学院 理工学研究科 博士前期過程 2年
高橋 尚也

1.はじめに
 現代社会において科学技術は社会に複雑に関わっておりその関係性を理解することは容易ではない。一方で社会に科学技術が大きく影響を与えてきたことに伴い、市民の科学リテラシーの促進が重要視されている。特に就学中の理科教育・環境教育は、成人後の科学技術・環境リテラシーにも大きな影響を与えるが、日本においては学生の「理科科目への苦手意識の増加」や「なぜ理科科目を学習するかわからない」と生徒が感じていることから、課題点が残っていることが伺える。1)
 本論稿では理科教育に関する問題を「教員が実社会との関連を伝えられていないこと」と、とらえその解決策として実社会と科学技術の関連の情報の場を整えれば、教員も社会と科学技術のつながりを容易に認識することができ、同時に効果的な教育を行うことが可能になるのではないかと考えた。
 本論稿ではその手法の一つとして教育者が利用可能な「自治体間ネットワークを用いた社会と科学技術のかかわりを認識できる情報サイト」を提案する。

2.環境教育の現状と課題点
 小・中学校の学習指導要領理科では「科学技術の発展と人間生活との関わり方、自然と人間への関わり方について多面的、総合的にとらえさせる」ことが目指されている。しかし現状では生徒が「理科科目をなぜ学習するか分からない」と感じていることからも「実社会との関わりが十分理解できていない」いう課題点が残っている。1)
 一方、教育者側は「予算面で難しい」、「適した教材が見当たらない」などの問題を抱えており、充実した教育を提供できていないことが伺える。2)
 これらのことから、教員が適した(社会や環境とのつながりを示すことに適した)教材を準備することが難しいという現状が、生徒に「実社会との関わりを十分に伝えられていない」問題の原因のひとつであると考えられる。
 では、どのような教材が関連を表現することに適した教材となりうるのだろうか。

3.現代社会における科学技術の役割
 実社会に目を向けると、現代社会において科学技術は社会の基盤となり、同時に社会の発展にも影響を与えてきた。また自然環境に関わる問題を引き起こした歴史及び、それを解決してきた実績をもつなど、その関わり方は多岐にわたる。そして実社会でその科学技術に関わる主体も、企業や自治体、NGO団体など多様である。
 それぞれの活動や製品の開発にはそれに対応した意図がある。例えば、信号機がLEDを用いた新型信号機に替えられているが、これは電力供給不足や環境問題から、LEDの特徴である省エネルギーが求められているという理由がある。3)
 このような実社会にある科学技術の意図を読み解くことは、社会と科学技術の関連を認識することに重要なことである。
 そこで私は、その情報や意図を閲覧できる体系的な場があれば、容易に環境や社会の中の科学技術を認識でき、それこそが適した教材になり、教育者の効果的な教育を支えうるのではないかと考えた。
 では、このような多様な形で様々な主体がそれぞれ意図を持って関連していることをどのように公開すればよいのだろうか。

4.教育者が容易に情報を取得できるネットワークシステムの提案
 そこで私は、
「自治体間ネットワークを用いた社会と科学技術のかかわりを認識できる情報サイト」
を提案する。
 これは各主体(企業や自治体、NGO団体など)が取り組みや製品について「いつ、どこで、だれが、なにを、なんのために 行ったのか」を紹介する、自治体が主体となるコミュニティサイトである。
 それを閲覧することで、取り組み及びその意図を容易に認識できることが狙いである。
例えば、
○投稿者:自治体 A市
 LEDが普及して後2004年に(いつ)、A市の交差点で(どこで)、A市が(誰が)、旧型信号機を新型LED信号機に(何を)、電力供給不足による省エネのため(なんのために)、変更した。
備考:青色LEDに関して2014年に日本人研究者がノーベル賞を受賞した。
    青色LEDに関する情報 http/;www.○○○○○/ ○○○/ ○○
キーワード:電気 LED ノーベル賞 生活,,,,,,
といった情報をそれぞれ載せることで、取り組みの意図及びそれを支える科学技術が容易に理解できる。
 私は教育者側が「実社会との関わりを十分に伝えられていない」ことが問題であると述べたが、ではこの取り組みによりどのような変化が期待できるのだろうか。

5.期待される効果と留意点
 まず、サイトを公開することで、教育者側は各科目の単元に合わせた事例を検索し、情報を容易に取得することが可能となる。その結果、様々な理科科目において「社会と科学技術の関連」の事例を授業に組み込めることが期待できる。
 また、教師の授業の変化に伴い、生徒が「理科科目を学ぶ」意味を認識することが期待できる。特に地元地域の事例を用いることで、その理解がより促進されるのではないだろうか。
 期待される効果は教育者側だけではなく、企業やNGO、自治体の活動理解にも及ぶことが予測される。その地域の発展に関わってきた自治体や企業、NGO団体は、取り組みを紹介することができる。特に、学生は将来その企業のCSR(企業の社会的責任)の理解の担い手となるためこれは企業側にとっても取り組む意味が生じる。しかし、自治体も含め、地域の歴史の中の失敗例(科学技術の進出による環境破壊など)も同時に載せることが重要となる。
 特に、その正確性を保つために自治体がこのサイトのとりまとめとなり、その地域と活動内容の歴史など正確性を確かめながら運営することが望ましい。さらに公開される情報は多くの住民が閲覧可能となるため、より正確でなければならない。そのため、専門家の意見や確認が必要になることがある。その際は企業や大学教授など専門家の協力を求めることが必要となるだろう。

6.多様な環境・社会に対応する科学技術を理解するために
 この取り組みは将来的に各々の自治体によって展開され、全国の自治体間で、ネットワークを結ぶことが望ましい。特定の地域だけではカバーできない分野や、多様な自然環境に対応した事例を紹介することは、より実社会と科学技術の関連の認識を促進するものと考えられる。日本は多様な自然や歴史に恵まれ、それに伴い様々な科学技術と社会の関係を続いてきた。その情報を生かせば、科学技術と社会の関連を多面的に捕らえ、認識できるようになるのではないだろうか。

 例えば、奈良県のある地域では景観を保全するために建築物に高さ制限が設けられている4)。また同様に沖縄県でも建物は低いがこれは、この地域の台風の数が多いためその対策である5)。

 前者は人間生活・社会にあわせた科学技術の例、後者は自然環境にあわせた科学技術の例、と読み取ることができる。このように科学技術が様々な影響を受け社会に関連していることは多様な地域と比較することで容易に認識することが可能となる。特に多様な自然や人間生活に科学技術がどのように関連してきたのか考察することで、「関わり方について多面的、総合的に」考える力の教育に効果的であると考えられる。

7.まとめにかえて
 本論稿では効果的な環境教育を行うための手法の一つとして「ネットワークを用いた社会と科学技術のかかわりを認識できる情報サイト」を提案した。また、それを教育に利用した際、期待できる効果として地元地域の情報を用いた、生徒の「社会と科学技術の関連の理解」の促進、及び他地域との連携を通した「日本の多様な社会に対する様々な科学技術の関連の理解」の促進に分けて論じた。「社会と科学技術の関連」を理解することは容易ではないが、様々な形で社会と関わりあう科学技術を伝えるために、教育関係者だけではなく、それ以外の多くの取り組みに参加する団体と連携し、充実した教育が地域全体で行われていくことを望む。

参考文献
1)日本の理科教育の課題
https://www.nier.go.jp/symposium/H19Symp/1_Arima.pdf
2)一人一人の環境保全行動の実践に向けて
http://data.nistep.go.jp/dspace/bitstream/11035/1715/1/NISTEP-STT062-22.pdf
3)特定非営利活動法人 LED照明推進協議会
http://www.led.or.jp/led/features.htm
4)奈良市の景観対策
http://www.city.nara.lg.jp/www/contents/1233617040932/
5)ぶらり・オキナワ・ what’s this?
http://www.asahi-survey.co.jp/bangai/okinawa/vol-3/oki-vol3.html