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2014年(第15回)

【特別賞】
太陽の、人類による、地球のための科学
東京理科大学 理学部 応用化学科 3年
依田 祐輔
松永啓詳

1.はじめに
 今世紀、人類の科学技術が行き着くであろう究極のエネルギー、それは太陽光エネルギーである。これは同時に日本が強く世界を牽引できる研究領域である。太陽光を利用したサスティナブルなエネルギー社会の実現、それが出来なければ、枯渇しゆく資源を利用し技術の発展でもって人類の繁栄が達成されてきた時代の流れに終止符が打たれるのも時間の問題である。

2.太陽がもたらしてきたもの
 なぜ太陽光なのか。地球に降り注ぐ太陽光エネルギーは約27TJ/km2day、これが地球が誕生してから46億年間、太陽活動の変動こそ多少はあれど降り注いできた。太陽光エネルギーを人類が有効に活用することが出来れば、限りある地球上のエネルギー資源に対する無尽蔵なエネルギー資源として、現在の人口爆発に伴うエネルギー獲得競争に対する究極のブレークスルーを達成することが出来る。
 太陽光をいかに利用するか。太陽光の力を最も享受しているのは植物である。植物が太陽光を利用するシステム、誰もが知る光合成である。酸素のなかった原始地球において原子微生物が光合成微生物を生み出し、植物を生み出した。その植物が酸素を蓄積させ、二酸化炭素濃度を減少させることで人類が暮らすのに快適な世界を何億年もかけ作り出した。
 その植物の光合成には明反応と暗反応と呼ばれるものがある。この二段階光励起反応と呼ばれる反応の中の明反応で、植物は光エネルギーを駆使して水を酸化分解し酸素を作り出し、暗反応で二酸化炭素を還元し種々の糖を作り出す。このZスキームとも言われる二段階光励起のシステムは今日に至るまでの長い年月をかけ構築してきた生態系のバランスを維持する役割を担ってきた。しかし、昨今の報告では、世界的な森林の伐採および発展途上国を初めとした二酸化炭素排出量の加速的な増加により空気中の二酸化炭素濃度は増大の一途を辿っている。地球がまさしく今から1年前に生まれたと縮尺して比較するならば、人間は今から15分前に生まれたに過ぎない生物である。たかが15分のうちに人類は、地球が364日かけて作り上げた世界を取り返しのつかないものにしようとしているのである。
 米海洋大気局によると、2013年5月10日、空気中の二酸化炭素濃度が初めて400ppmを超えたと発表している。この現状からさらに600ppmを超えると世界的に洪水、干ばつなどの異常気象が起きると言われているのだが、1985年から2010年までの25年間で二酸化炭素濃度は340ppmから400ppmという急速な勢いで増加しているというのだから、看過できない非常事態がまさしく起きているという認識を持たなければならない。そしてこの状況の救世主と成り得る日本が誇る科学技術こそ人工光合成である。

3.究極の反応 ~人工光合成~
 人工光合成はその目的により大きく二つに分かれる。しかし方針こそ違えど、その最終目的は同じくサスティナブル社会の実現である。  
 一つ目は二酸化炭素の再資源化である。植物の光合成のように、明反応で酸素を生成し、暗反応で二酸化炭素から有機物を生成するような光エネルギーに応答する、複数の物質を組み合わせた触媒を探し出すことが求められる。研究成果の一例として、豊田中央研究所は2011年9月20日、世界で初めて太陽光を利用して水と二酸化炭素のみからギ酸を作り出すことに成功したと発表した。大気中の二酸化炭素の増加を阻止することが危急のテーマである中、その減少に貢献するばかりか、再資源として二酸化炭素を活用できる、一石二鳥の研究と言えるのである。  
 二つ目は無尽蔵資源からの水素の生産である。単一の物質から成る触媒を利用する場合と、複数の物質を組み合わせた触媒を利用する場合とがあるが、今回は後者について詳細に説明する。反応のシステムとして、明反応では二酸化炭素の場合と同じく水を酸化分解することであるが、暗反応において水を還元して水素生成を目的としている点が異なる。東京大学の堂免教授や東京理科大学の工藤昭彦教授の研究グループなどでは、太陽光に反応し、水を高効率で分解できる触媒の発見に向けた研究がなされ、世界的にも注目を集めている。
 水と、エネルギー源としての太陽光、反応を仲介する光触媒があれば反応が進行することから大規模化が容易で、実用化に至ればエネルギー問題を解決に導くばかりでなく、枯渇しゆく有限資源からのエネルギー生産に代わり、水からエネルギー源としての水素を安定かつ大量に生産出来るようになるのである。その恩恵は、身近な例では、農業に必要不可欠なアンモニアを水素と窒素から安定に生産することが可能となることが挙げられ、長期的な観点から食糧問題の解決へ道を開くことにもなるのである。さらに、天然資源の乏しい日本にとって、輸入に依存している現状から、エネルギー源としての水素を自国で安定に生産できるようになる。その結果、水素市場が拓かれ、新たな産業の創出にも繋がるのである。
 水から水素を得る、二酸化炭素を再資源化する、日本がこの人工光合成を含めた光触媒分野で世界をリードできるのには理由がある。日本人として光触媒分野の研究者のパイオニアでホンダ・フジシマ効果を発見した藤嶋昭先生の存在がある。

4.ホンダ・フジシマ効果
 水を分解するには電圧にして1.23ボルトのエネルギーを掛け、電子を励起させる必要がある。この分解に必要な電気エネルギーを二酸化チタンという触媒を用いることで光エネルギーで代替したもので、光がエネルギーとして利用できることを世に示した効果なのである。1968年にその効果について発表した論文は、エネルギー問題に直面する今、再び大きな脚光を浴びている。論文に対する期待度の高さは被引用件数に表れるのだが、被引用回数とは、自身の研究論文が他の研究者にどれほど読まれ参考にされているかを示したものである。ウェブ・オブ・サイエンスによればホンダ・フジシマ効果を発表した論文は発表当初はその常識外れな効果にあまり信用されなかったが、現在は被引用回数にして6000回以上を数えている。1000回引用されるだけでも異例というのであるからその注目度の高さが並はずれたものであるということがうかがい知れる。

5.日本が世界をリードする
 今、国家レベルでこの人工光合成の研究が盛んである。東京工業大学の辰巳敬教授をプロジェクトリーダーとする経済産業省主催の人工光合成プロジェクトにおいて、10年間で総費用150億円を投資し、全国の大学の研究機関及び研究所が共同で人工光合成の実用化に向けた研究を進めている。
 また民間企業も動き出している。特に水素社会の普及を見込んだ大手自動車メーカーはガソリンに代わる燃料電池車の開発を進め、2011年、自動車3社とエネルギー事業社10社は「燃料電池自動車の国内市場導入と水素供給インフラ整備に関する共同声明」を宣言している。
 さらに2013年8月、安倍首相が議長を務める総合科学技術会議における地球温暖化対策に向けた2050年までの技術開発の工程表を盛り込んだ「環境エネルギー技術革新計画」中においては、二酸化炭素などから有機物を製造し2021年度に光触媒変換効率を今の0.3%から10%に引き上げる、という長期目標が採択された。
 2010年にノーベル化学賞を受賞された根岸英一先生が「人工光合成こそ、日本が世界に先駆けて実用化すべき分野である」と提言したのも記憶に新しい。
 これらが意味するところは、既存のエネルギー社会は既に限界に来ているということである。待ったなしなのである。

6.最後に
 産業として通用するレベルの光触媒を発見すること、宝探しのような点も多くチャレンジングな課題であることは間違いない。しかし人類は幾度と知恵を絞ることで文明を発展させ、夢を現実のものとしてきた。人工光合成が実現するとき、人類の夢も実現する、と私は確信している。そしてまた私自身、その一端を担うものとなりたいと願っている。


・参考文献
1.~中国の今の科学技術を考える~Science Portal China 2010年4月2日
 http://www.spc.jst.go.jp/hottopics/1005photocatalyst/r1005_kudou.html
2.PRESIDENT Online 世界が注目!水素エネルギー新市場 2014年4月30日
3.日本学術振興会科研費NEWS 2014vol.1
 P10「人工光合成機能を有する光触媒システムの開発」
 http://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/22_letter/data/news_2014_vol1/p10.pdf
4.スマートジャパン「自然エネルギー:水素もガソリンも供給、水素社会の前触れか」
 2013年4月26日
5.株式会社 豊田中央研究所 代表的な研究成果
 http://www.tytlabs.co.jp/comp/history02/history02_2011.html
6.日経ビジネスONLINE 「人類の夢! 「人工光合成」研究が加速」 2013年10月7日
7.東京理科大学 工藤研究室HP  http://www.rs.kagu.tus.ac.jp/kudolab/
8.東京大学 堂免・久保田研究室HP
 http://www.domen.t.u-tokyo.ac.jp/index/index_framepage.html
9.トムソン・ロイターINTELLECTUAL PROPERTY&SCIENCE
 ~21世紀を支える光触媒技術。広がる応用に期待~  2013年10月
 http://ip-science.thomsonreuters.jp/interview/fujishima/
10. 国家プロジェクトとしての人工光合成 人工光合成NAVI
 http://www.artificialphotosynthesis.net/kokka/
11.気象庁 地球全体の二酸化炭素の経年変化
 http://ds.data.jma.go.jp/ghg/kanshi/ghgp/co2_trend.html#co2_global_trend