過去の入賞論文
・2016年(第17回)
・2015年(第16回)
・2014年(第15回)
・2013年(第14回)
・2012年(第13回)
・2010年(第12回)
・2009年(第11回)
・2008年(第10回)
・2006年(第8回)
・2005年(第7回)
・2004年(第6回)
・2003年(第5回)
・2002年(第4回)
・2001年(第3回)
・2000年(第2回)
・1999年(第1回)

































































































2014年(第15回)

【特別賞】
国産技術が日本を照らす−光触媒と知財戦略−
大阪大学 基礎工学部 化学応用科学科4年
山村 修平
松永啓詳

1、 はじめに
 昨年のノーベル物理学賞に日本人3名が受賞したことは記憶に新しい。20世紀中の開発は不可能とさえまで言われた青色発光ダイオードの開発によって、我々の身の周りにはまばゆい光を放つLEDランプやエネルギー消費量の少ないディスプレイで満たされることになり、我々の生活を明るく照らしてくれている。その一方で、本発明の製品化に大きく貢献した中村修二氏と、氏が所属していた会社に対して彼が起こした特許に関する裁判も再び話題に取り上げられることになった。一会社員の立場であった中村氏が訴訟を起こしたこともさることながら、その裁判で発明の対価として支払うべきと下されたその額200億円という莫大な金額が示されたことも特筆すべきところであった。実際、特許権というのは一度大本となる技術の要を申請すればあとはその製品が製造されるたびに使用料が流れ込んでくるので企業にとっては魅力的なビジネスモデルとなる。一方、日本国内の市場は少子化の影響などもあり、ものを作って国内で売るというビジネスモデルは既に飽和しているとの見方もある。
 そこで今回私は現在私の研究テーマである酸化チタンによる光触媒の技術と、その特許政策によって日本が国産の技術で「稼ぐ」ということについて考えてみた。科学技術立国日本が将来その活路を見出す施策の選択肢の一助にでもなればと思い提言させて頂きたい。

2、 酸化チタンとその驚くべき機能について
 1972年、日本の科学者である本田・藤嶋両名は酸化チタンに光を当てることにより水を酸素と水素に分解できることを発見した。ちょうど時代は第一次石油ショックの頃であり、太陽エネルギーの獲得手段として大いに注目を集め世界中でこの物質が研究されることになった。その後世界各国との切磋琢磨により日本では酸化チタンの光触媒反応に関する多くの技術が開発されることになった。
 ここで簡単に光触媒反応について説明する。酸化チタンは半導体の一種であり光のエネルギーを得ることによって価電子帯の電子が伝導体へと励起される。この励起電子は比較的還元力、すなわち他の物質に電子を与える力が強い。他方、電子が元々いた価電子帯には非常に酸化力、すなわち他の物質から電子を引き抜いてくる力が強いホールが生成する。これにより伝導体では水を水素と水酸化物イオンに還元し、また同時に価電子帯では水を酸素と水素イオンに酸化するほどの酸化還元能を示す。つまり、水を酸素と水素に分解できるということである。また、分解される物質が水の代わりに有害な物質であれば光を当てるだけで有害物質を水と二酸化炭素にまで分解できる。この反応を応用した製品が日本では数多く発明されてきたのである。

図 酸化チタン光触媒の作用機構
(出典:石原産業株式会社ホームページより
http://www.iskweb.co.jp/products/functional05.html )

 そして現在、テレビや新聞では光触媒という単語を聞く機会も増えてきている。今や光触媒は住宅、電気製品、衣料、道路、車両、農業、そして空気や水処理といった非常に多くの分野で用いられており、今後もさらなる応用研究および製品化が期待されている。将来的にはこの光触媒市場は一兆円産業にまで発展するとまで言われていて、これは光触媒のコーティング技術などで数多くの技術とそれに関する特許を保持する日本にとっては大いなるビジネスチャンスがあることを示唆している。今後、世界中へさらに光触媒の技術を用いた製品が普及すれば日本に多大なる特許使用料が入ってくると予想されるからだ。  

3、 日本における特許政策の課題
 他方、こうした「特許(パテント)」に関する日本の認識は欧米諸国に比べるとまだまだ低いと言われている。特許だけでなく著作権なども含めた知的財産権に関する日本の取り組みは遅れをとっている面が多い。数年前にノーベル医学生理学賞を受賞した山中伸弥教授が開発したiPS細胞に関する技術も、製薬会社との特許戦争に関わる攻防を辛くもくぐり抜けて特許権を獲得した。これが仮に海外企業に特許権が奪われていたなら、使用料に莫大な金額を支払うことになっていたのである。それは開発国の日本でさえである。こうした事態を避けるために大切なのが、官民が一体となった知的財産権をベースにしたモデルを構築していくことである。幸いにも光触媒はその技術開発の初期から特許重視の戦略が取られてきたので国際的に比較してみても日本の特許権は欧米に比べて非常に強い地位を占めている。けれども、近い将来光触媒の技術及び製品が国際的にさらに注目されるに従って予期していなった特許に関する問題が起きるかもしれない。それはちょうど開発国である日本が、iPS細胞の使用に莫大な金額を払うことになっていたかもしれない未来図と重なるものである。

4、まとめと今後の日本が取るべき施策について
 こうした事態を踏まえて、これから日本はさらに特許に対する認識を深めるだけでなく、普段そうした法律的な業務に関わることの少ないかもしれない科学者や技術者、ひいては一般社会に対しても特許に対する啓蒙活動をしていくことが重要になる。少子高齢化という喫緊の課題に直面している日本はその国際競争力を維持するためにも、自国の科学技術を基盤とした新しい産業を創出していくという取り組みは重要な戦略の一つになりうる。知財に関する理解が深まり広がった社会では発明を市場に送るスムーズな流れが構築されているだろう。法と技術がうまく橋渡しされた環境だ。そのような国では科学技術の開発に強いインセンティブが存在するので新たな技術革新も促されるであろう。また今はまだ実用化には至っていない酸化チタンを用いた水の完全分解によるクリーンエネルギーである水素を得る研究も夢物語としてではなく、貴重な日本の特許資源としてさらなる研究開発が促進されていくはずだ。
 国産技術とその使用による新たな市場開拓は将来の日本を照らす希望の光になることを信じている。


【参考文献】
1.iPS細胞、知られざる“特許攻防”と科学立国への課題
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20121102/238981/
2.藤嶋昭・橋本和仁監修「図解 光触媒のすべて」(工業調査会)