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2014年(第15回)

【優秀賞】
大学グッズを活かした次世代の育成
京都大学 工学部 物理工学科 3年
松野 友樹
友利 萌

 工学技術の発展によって生活が豊かになるにつれて、若い人が工学に興味を持つ機会が失われつつあると感じる。本論文では私自身の経験をもとに、これから工学を志す人材を確保するための対策を考え、その1つとして大学グッズの活用を提案する。

・父の世代と私の世代
 理工系である父と、同じく理工系である私には大きな違いがある。それは小さいころに工学に触れたか否かである。彼にとってパソコンや携帯電話、ロボットは「発明品」であり、それらの登場に際して工学の存在を強く感じたはずである。彼はアポロ11号の月面着陸のニュースも見ており、そのとき工学技術の進歩を肌で感じただろう。一方、私が生まれた時には携帯電話もパソコンも存在しており、また人間が月に行けることも私にとっては当然なのである。つまり私は工学技術から父が受けたような衝撃を受けていないのだ。もちろんスマートフォンの登場や、小惑星探査機はやぶさの帰還のニュースは私にとって興味のある話題だった。しかし携帯電話や月面着陸を当然と感じる私が受けた衝撃は、父が子供のころに受けたものほど強くはなかったと思う。
 工学に触れる機会が少なかった中高生にとって、工学はものづくりを連想しやすい。しかし実際はものづくりに限らず、基礎研究や性能検査方法の確立、シミュレーション精度の向上など研究対象は様々である。このことを知らずに数学や物理学を学んでいると、カリキュラムで指定されている科目が工学にどのように用いられるのかがわからなくなる。3回生になって専門的な内容を学んで初めて、初年時の科目の重要性を実感するという話をよく聞くが、これは工学研究の本来のイメージを持った工学部初年時の学生が少ないことを意味している。入学段階で工学研究についての正しいイメージを持っていれば、初年時教育の重要性に早く気づくことができるはずである。

・工学への関心を高めるために
 理工系離れ、特に工学離れを防ぐためには中高生が工学に関心を抱くことが重要である。具体的には大学の工学研究科が行っている研究に興味を持つ人を増やすことが必要であり、これは先に述べたように、工学部に入ったばかりの学生が初年時科目をより真剣に学ぶことにもつながる。
 ではどのような対策が考えられるだろうか。講演会や学術書などによる広報活動は工学をある程度学んだ人間にしか研究内容を伝えることができない。講談社ブルーバックスのような専門知識を必要としない本の執筆も考えられるが、すでに工学に興味を持った人が対象となる。専門知識を持たない中高生が大学での工学研究にはじめて興味を持つきっかけが必要なのである。
 ここで私の経験を参考に考える。私が京都大学の工学部物理工学科に入るきっかけとなったものが2つある。1つは京都大学のオリジナルグッズである「エレメンタッチペン立て」であり、もう一つは本学卒業生である高橋智隆さんが出演したテレビ番組である。
 「エレメンタッチペン立て」は京都大学の前野悦輝教授が研究成果を還元するために考案したグッズであり、元素周期表を立体的に表現でき、かつペン立てとしても使える製品である。このグッズを中学時代の恩師に見せてもらったことがきっかけとなり、私は京都大学に興味を持ち始めた。
 高橋智隆さんは京都大学工学部物理工学科の卒業生であり、在学中からロボットクリエイターとして斬新なロボットを製作してきた方である。工学に触れる機会が少なかった私だが、テレビで彼のロボットの動きを見て感動した。その後、彼の著書「ロボットの天才」を読んで物理工学という学問が存在することを知り、入学に至ったのだ。
 この2つのきっかけを参考にして大学の工学部に興味をもつ若い人を増やすことができないかと考え、1つの案が生まれた。工学部の各研究科がそれぞれの研究成果を反映したオリジナルグッズをデザインするのである。

・大学グッズによる中高生へのアピール
 各大学生協で販売されている大学のオリジナルグッズはその大学の受験生に限らず、中高生に人気がある。遠足や修学旅行で大学を訪れた際に購入する学生が多いため、工学研究科の研究成果を反映したグッズを作れば、中高生が専門的な研究に触れるきっかけとなる。また、グッズに研究成果を反映するという行為は、大学側が研究成果を広く国民にアピールするための手段でもあるため、グッズを手にする人だけでなく大学にもメリットがある。具体的には研究内容への国民の理解が高まることや、グッズをデザインした研究科を志望する学生の増加、産学連携への発展が期待できる。
 研究成果を反映したグッズの簡単な例として、実験装置や数値シミュレーション結果をプリントしたクリアファイルやマグカップ、ポストカードが考えられる。実用化が難しい研究分野であってもデザインが可能であり、開発コストもかからない。
 また、私が所属する物理工学科宇宙基礎工学コースの研究成果を反映した例として、芒星折のインフレータブル構造を用いた折り畳み式のペン立てが考えられる。この技術は京都大学の泉田啓教授が考案した展開方法であり、宇宙に大規模構造物を輸送するための技術である。
 オリジナルグッズのデザインを大学院生が行えば、自分の専門知識を活かした製品化を経験することができ、工学研究のみでは得られない横断的な知識・経験の獲得にもつながる。優れた製品ができた場合には大学発のベンチャーとして新たな市場の開拓も期待できる。研究成果適用の場を開拓する動きは実際に京都大学に見られ、デザイン学大学院連携プログラムという複数の研究科が協力したプログラムが発足している。新たな市場の開拓という点で、日本はアメリカに大きな遅れをとっている印象を受けるが、大学側のこういった動きは日本がリードできる分野を開拓するために有効であり、大学グッズのデザインは適した題材と思われる。

・最後に
 本論文では工学研究に興味を持つ中高生を増やす方法として、大学院生による大学オリジナルグッズのデザインを提案した。工学研究の成果を多くの人が感じられるような取り組みに大学側が力を入れることで、工学を志す人がより一層増えることを願うとともに、私自身がその活動の一端を担いたいと思う。

参考文献
1.ロボットの天才、高橋智隆、2011/5/31、株式会社メディアファクトリー、p58-59
2.元素の立体周期表 http://www.ss.scphys.kyoto-u.ac.jp/elementouch/index.html
3.Kyoto University Design School http://www.design.kyoto-u.ac.jp/
4.京都大学航空宇宙力学講座 インフレータブル構造に関する研究  http://space.kuaero.kyoto-u.ac.jp/?page_id=150