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2013年(第14回)

【特別賞】
身近な‘科学する’場としての環境問題 科学的合意による都市づくり
東京農工大学大学院
農学府農業環境工学専攻耕地栽培システム学研究室 修士課程

松橋 輝明
濱野 太宏

Key word 科学と社会、環境影響評価、都市計画、風力発電

§1 本論文の問題意識について

 昨年に開催された2012年度理工系学生科学技術論文コンクールにおける安本周平氏の論文「科学技術と社会のつながり」において、科学的素養のある者による普及啓発活動により科学に対する不信感を減らすことが提案されていた。筆者もこの考えに賛同している。一方で、より具体的に‘科学’の普及活動とは何だろうかと考える余地も感じた。
 したがって、本論文ではこの提案をさらに推し進め、科学技術を扱える者がより社会でどうあるべきかを具体的に考察して提案しようという問題意識から作成した。

§2 テーマ設定
 科学技術の普及は例えば、学校教育の改善という方法でも可能であるが、本論文では地域コミュニティの合意形成のプロセスに注目する。理由は下記の通りである。
 3.11以降、地域レベルでの合意形成と科学技術に対するしっかりした理解が必要となった。そして、正しい前提なくして議論はできない。このような時代のコンテクストを踏まえると地域レベルでの‘科学的素養のある人材’の果たすべき役割が重要となる。

§3 科学する場としての環境影響評価
 私はより‘科学的な素養のある人’が参画できる余地のあるものとして環境影響評価を取り上げる。
 環境影響評価※1とは、大規模公共事業など環境に大きな影響を及ぼすおそれのある公共事業もしくは民間主体の事業について、その事業を実施する事業者自らが環境への影響を予測評価し、その結果に基づいて事業による環境影響を低減・回避していくプロセスを環境アセスメント(環境アセス)という。
 住民は地域で行われる事業に一定の意見をして地域計画に主体的に参画できる制度である。
 しかし、そのような理想的な制度ならばここで取り上げるまでもない。実態としては環境影響評価は「アワセルメント」等と蔑まれてしまうこともある。これは形式的に意見をだせるが、それにより開発計画が変わることが少ないためである。
 これは、端的に言えば事業者側も住民側もこの制度を積極的に利用しないからだと考えられる。逆にいえば、まだ機能を発揮する伸び代があることを意味する。次の章で具体的事例を元に環境アセスの課題と解決策、さらにこの国全体での科学技術と住民の合意形成について述べたい。

§4.1 風力発電施設を題材にして考える都市計画
 近年の環境アセスに関する事例として風力発電を取り上げたい。
 風力発電はクリーンエネルギーで環境に優しいという印象が強く、町のシンボルになるということで受け入れられている地域も多い。一方で、図1※2で示すように種々の問題が指摘されており、愛知県田原市では風力発電施設由来の騒音を根拠に操業停止の裁判の申し立てまで起きている。

§4.2 上記のケーススタディの分析と考察
 風力発電所は結局どのような位置づけの発電なのか答えをだすことは難しい。これは科学でなく行政の問題であり解は一見すると一意的でないからだ。だが地域の実情というのをもっときちんと反映させられたら近似的に解が求められると思われる。
 実際の環境影響評価の評価書を閲覧してみると、風力発電施設で問題の生じている例も含めて下記のような対立が生じている。

 つまり、お互いに相手のことを考えてないために不幸な事態に陥っている側面がある。 お互いに一定の歩み寄り(譲歩)を科学的に成立させる方法はすでに研究されている。 騒音問題に関しては、千葉工業大学の橘秀樹氏を中心にした研究グループが実証を行い、行政(環境省)が取りまとめた報告書「平成24年度風力発電施設の騒音・低周波音に関する検討調査業務報告書」※3からの記載の要点は以下の通りである。

 このような自然科学的研究がされており、例えば、風力発電実施主体者が一定の住民に風力発電からでる利益を還元するなどの取り決めをすることで苦情が減る可能性がある。また、効果的な騒音の防止法、医学的見地からの苦情者への説明など多くの可能性をもっている。
 だが、実際の報告書は非常に分厚く難しい。とても一般の人間が納得感をもって読めるものでないのが問題だ。わだかまりを減らせる可能性があっても伝わらなければ実現はしない。
 そこで私は環境影響評価のような地域の住民が考える機会を見直して、地域の‘科学する力’を涵養することが最も効果的と考える。
 住民と事業者だけが話すだけでは議論が平行線であった場面に科学をきちんと介在させることが大事であると考える。住民のわからない部分、どのレベルまでの要求ならば事業者が可能なのかをわかりやすく伝える人、もしくは問題の前提となる問題点を解決してしまう人が必要である。これをきちんと導入することで地域住民が一体となって都市計画をできりばかりでなく、科学する習慣をつけるのに最適な習慣だと考えられる。 例えば、上記にあげた性質のステークホルダーは下記のような人々が担えないだろうか。
 地域レベルでの何か合意をとる際に、このようなメンバーがコアとなって議論に参画することでよりよい形を目指せるだろう。
 さらに欲をいえば、地域の企業が特定の問題をきっかけにしてよい商品・研究のアイデアにつながると社会全体での効用はさらに増す

§5 まとめ
 公共設備の更新の時期などの関係で日本をもう一度デザインする時代に突入している。その際に科学技術が発展した日本ではおそくらかなり幅広い選択肢がとれる。どのような地域であるかに応じてその選択は変わってくる。
 この時に、住民の意思がきちんと反映される必要がある。ここで重要となるのは正しい前提の共有と感情論にならないことだろう。その時に必要なのは、理科系の素養をもったもの、きちんと伝える術だろう。
 正しい知識を伝えて不安等を解消することからさらに一歩進み。自らの運命を選び取るという‘科学的な生き方’を日本国民が得れば日本もまだまだ捨てたものではないと思う。 環境問題を今回取り上げたのは、将来的に起こる外部不経済を内部化して処理する、自然科学・経済学・もしくは観光や文化遺産といった分野横断的な課題であるという利点があったからだが、多くの場面で科学の素養をもった人間が地域のハブ人材となって、単に科学技術をもっているだけでなく、その知識が人と人との合意形成までとりもてることが科学の価値をさらに上げると考えられる。

§6 おわりに
 昨年度の優秀論文に対してフォローするという形式で論文を書かせて頂いた。これは理工系といえども、多くの専門分野があり、私のような農学を背景にした者は意見を示せるためである。
 科学の本質は議論し、よりよいモデルなりを求めることにある。その意味で、先行者の発案に対して意見をだし、‘国民が科学できる国NIPPON’というものを目指して提案させていただいた。 こういう議論のバトンリレーのチャンスをくださったこの企画に大変感謝しております。

【参考文献】
・環境法 第4版 (有斐閣ブックス) 阿部 泰隆 (編集), 淡路 剛久 (編集)
 P163〜p188 「環境の保全と環境計画」
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=13908
平成23年6月21日:環境省:「風力発電施設に係る環境影響評価の基本的考え方に関する検討会」報告書の取りまとめ及び報告書(案)対する意見募集(パブリックコメント)の結果について:図1の出典
※3 http://www.env.go.jp/air/report/h25-01/index.html
平成24年3月:環境省:「平成24年度風力発電施設の騒音・低周波音に関する検討調査業務報告書」: