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2013年(第14回)

【優秀賞】
レシピサイトにおける科学的背景知識の提供
東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻 修士2年
大川 真耶
大川 真耶

1.日本の科学技術(序論)
 戦後から現在に至るまで、日本の経済発展は科学イノベーションによって牽引されてきた。科学技術の発展は、それを担う理工系人材の確保に成功してきた証である。例えば、高度経済成長期には理工系拡充を求める世論の高まりを受け科学技術者養成拡充計画が講じられ、1957 年度から4 年間で8000 人の理工系定員を増加させる「8000 人計画」、1961 年度から3 年間で2 万人の理工系定員を増加させる「2 万人計画」が実施された。これらの政策は日本の科学技術者層の拡大に貢献し、経済成長の一翼を担った。現代においても、天然資源の乏しい日本の国際競争力は、科学技術、ひいてはそれを担う科学技術者の叡智によって支えられている。
 しかし近年、理工系人材の確保に関する問題が深刻化している。いわゆる「理系離れ」である。「理系離れ」は「子供の理数系科目に対する関心の低下」「国民全体の科学技術に対する理解の低下」「理工学部志願者数の減少」等、複数の現象を含むが、これらの問題は互いに深く関連している。「子供の理数系科目に対する関心の低下」に関連して、教育機関での取り組みについて述べる。日本の初等・中等教育は、機会均等と高い教育水準の両立に成功しているという点で、一定の成果を挙げている。私たちは、理数教育・技術教育を受ける機会を平等に与えられている。また、自ら手を上げれば、発展的な数理学習を受ける事もできる。例えば文部科学省は「学校教育段階における科学技術人材育成支援」と称して、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の設置、国際科学技術コンテストの開催等、発展的数理学習機会の充実を積極的に進めている。しかし、上述のような取り組みは全て「機会の提供」であり、生徒側からある程度積極的に選択する必要がある。今後の課題は、積極的に手を上げる生徒に学習の機会を与えるだけでなく、積極的に手を上げる生徒の数を増やす事である。
 本論文では「理科離れ」対策の一例として、「レシピサイトにおける科学的背景知識の提供」を提案する。

2.レシピサイトにおける科学的背景知識の提供
2.1 目的
 レシピサイトという身近な媒体を通して調理に関連した科学的知識を提供し、10 代の若 者、特に小学生・中学生・高校生の科学技術への好奇心を喚起するきっかけを作る事で「理 科離れ」、特に「子供の理数系科目に対する関心の低下」という社会問題の解決を目指す。

2.2 具体案
 具体的には、レシピサイトに投稿された調理レシピに含まれている情報(基本的な調理操 作と調理器具、食材の成分と変化、出来上がりの評価方法等) について、科学的背景知識を添える。
 広範な人材にアプローチできるというインターネット上のサービス特有のメリットを活かすために、潜在的な需要を取りこぼさない工夫を行う。具体的には、知識の幅と難易度によっていくつかの段階を設け、利用者の興味・関心と前提知識に応じた情報を選択してもらう。例えば、(1) 分野の多様性(化学、生物学、物理、生物工学、応用化学、農学等) (2) 難易度(求められる前提知識の程度) の2種類の指標を考慮する。(1) 分野の多様性を考慮する意義について、詳述する。理工系科目は多種多様な学問を内包しており、1つの命題に対してそれぞれの学問がその数だけ異なる解を提供する。潜在的理工系人材の興味・関心の向かう先も多様であるため、広範な知識を提供する事で人材確保の効率を上げる。それに加え、初等・中等・高等教育課程では通常学ばない融合分野の学問に触れる機会を与える事ができるという付加的なメリットも持つ。
 また、調理工程、食材に関する科学的知識だけでなく、出来上がり(「おいしさ」等) の科学的解釈に関する知識の付与も重要である。それにより、理論の学習(基本的な調理操作と調理器具、食材の成分と変化の知識)、実験(調理)、結果の評価と考察(「おいしさ」の科学的評価) という科学実験の基本的プロセスを家庭内において気軽に疑似体験する事ができる。これは、理工系科目への興味・関心を喚起するという当初の目的を超える大きな付加価値である。
 なお、記載する科学的知識については、科学技術者、理工学系学生の協力のもと編纂を行う。

2.3 利点
 本提案に至った背景と本提案の利点について、「調理と科学の親和性」「レシピサイトを取り巻く現状」という2つの観点から議論を行う。

2.3.1 調理と科学の親和性
 理数系科目は、身の回りの現象を解明したいという知的好奇心、探究心に根ざした学問である。「科学を進めるもっとも基本的なものは人間の知的な好奇心といえる」という朝永振一郎の言葉は、この精神を端的に表している。身の回りに溢れる科学のうち、今回は衣食住の「食」、特に調理に注目した。調理は、化学、生物学、物理、生物工学、応用化学、農学等の幅広い科学技術分野と深く関連している。調理に対する科学的アプローチは、20 年以上前から行われてきた。1984 年にアメリカで出版されベストセラーを記録した「キッチンサイエンス」がその先駆けである。最近では、調理にまつわる科学的背景知識をふんだんに取り入れたエンジニア向けのレシピ本「Cooking for Geeks」(2011 年出版) がベストセラーに迫る勢いで売上げを伸ばしている。また、日本では調理を科学的に研究する「調理科学」という学問分野があり、その研究蓄積は書籍等で一般に向けて発信されている。ただし、これらは科学者、技術者側からの調理へのアプローチに端を発するものである。調理をする人(ここでは小学生・中学生・高校生を含む一般人) 側からの科学技術へのアプローチは一般的に敷居が高い。それを乗り越えるには、高い敷居を越える原動力となる知的好奇心を意識的に喚起する必要がある。つまり、科学技術への知的好奇心を喚起する情報を、積極的に提示するサービスが求められている。

2.3.2 レシピサイトを取り巻く現状
 現在、私たちは本、テレビ、インターネット等様々な媒体から食材やその調理方法について知識を得ることができる。近年特にインターネット上のレシピサイトの人気が高まっており、2013 年度に行われた意識調査によればレシピの入手先として最も広く利用されている。この傾向は特に20 代以下の若年層で顕著である。例えば、レシピサイトで一番のシェアを誇る「クックパッド」は月間約2600 万人に利用されているが、このうち約7 %は10 代、約35 %は20 代の若者である。若者にとって身近なレシピサイトという媒体を利用する事で数多くの人材にアプローチする機会を得る。

2.4 課題
インターネット上のサービスの最も大きな課題は、情報の多くが断片的で、信頼性が低いという点である。掲載する情報について、科学技術者の監修を受ける事でこの課題を解決する。

3.まとめ
 科学技術と日本の将来という大きなテーマに対して、特に「理科離れ」に注目し、その打開策の一例として「レシピサイトにおける科学的背景知識の提供」を提案した。本提案は、考えられうる数ある対策の1つにすぎないが、多様なテーマに応用可能であるという大きな利点を持つ。本論文では科学と調理の親和性、若者の利用率という2つの観点から「レシピサイト」を採用したが、例えば「ニュースサイト」「コミュニティサイト」等インターネット上の種々のサービスについても類似の議論をする事ができる。また、既に単体で成立しているサービスに新たな付加価値を与えるという本提案の性質上、比較的手軽に実現する事ができるという点も、大きなメリットである。いつかこの提案を実現できる日が来るなら、その際は是非、科学技術者としてサービスの開発に貢献したい。

【参考文献】
[1] 科学技術白書〈平成25 年版〉, 文部科学省, 2013=06, 松枝印刷, p.129-140, p.153-155, p.210-217
[2] McGee on Food and Cooking: An Encyclopedia of Kitchen Science, History and Culture, Harold McGee, 1984=11, Hodder & Stoughton Ltd, p.82-84
[3] IMD releases its 25th Anniversary World Competitiveness Rankings
http://www.imd.org/news/World-Competitiveness-2013.cfm
[4] Cooking for Geeks ―料理の科学と実践レシピ, Jeff Potter, 2011=9, オライリージャパ ン, p.24
[5] 食材と調理の科学―食べ物と健康, 今井悦子, 吉田真美, 香西みどり, 2012=10, アイ ケイコーポレーション, p.63-65
[6] クックパッド株式会社料理に関するアンケート結果
https://cf.cpcdn.com/info/assets/wp-content/uploads/20140306000000/pr130723-survey.pdf
[7] 国立教育政策研究所理系文系進路選択に関わる意識調査
http://www.nier.go.jp/kaihatsu/pdf/zokuseichi-report.pdf