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【入賞】 |
●自然との共生を目指すモノづくり |
沖縄工業高等専門学校 生物資源工学科 5年
高宮 聖奈
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1.はじめに
人間は、太古の昔から自然と共に生き、その恩恵に与ってきた。自然から得たものを生活の糧とし、それが文化や産業の発展へと繋がっていった。産業革命以降は、生活を豊かにするための様々な技術が開発されてきた。電気や車だけでなく、船や飛行機など、様々な技術の発展とともに、産業も発展していった。そして、科学技術の発展は、国や経済の成長に非常に貢献してきた。
しかし、技術の発展は、「環境問題」という形で悪影響も与えた。工場から排出される煤煙や汚水、生活排水による河川の汚染、自動車からの排ガスなど、現代までに様々な環境問題が報告されている。そして、それらは、自然を通して私達人間にも悪影響を与えている。その代表例として挙げられるのが、「地球温暖化」である。近年、各国において地球温暖化による悪影響が深刻化してきており、早急な解決が求められている。
2.日本における地球温暖化対策とその問題点
日本における地球温暖化対策は、現在までに様々な政策がとられてきた。CO2排出削減のため、エコポイント制度を導入し環境に優しい「グリーン家電」の普及促進を行ったり、ハイブリッドカーや電気自動車の普及などに力を注いできた。
しかし、それらを製造するためのエネルギーはどこからきているのだろうか。
2009年におけるエネルギー発電供給量の割合は、そのほとんどが石油や石炭を原料とした火力発電やウランを原料にした原子力発電である。水力発電も含めた再生可能エネルギーに関しては、10%にも満たない。つまり、私達の生活を支えているエネルギーのほとんどが、CO2を排出する火力発電や原子力発電によって賄われているのである。よって、現在販売されているグリーン家電やハイブリッドカーなどのエコ製品のほとんどが、「環境に優しい」と謳いながら、その開発に関わる全ての工程を火力発電や原子力発電に依存しているのである。
しかし、原子力発電に関しては、2011年に起こった福島原発での事故の影響から、原子力発電の稼働休止や開発中止の意見が相次いでいる。また、火力発電に関しても、大気汚染や燃料枯渇などの問題から、それほど長い間使用することはできないだろう。従って、将来、火力発電や原子力発電から再生可能エネルギーへのシフトは避けられないであろう。
そして、これからの科学技術は、人や社会のためだけでなく、人の生活基盤となる自然との共生を目指すモノづくりにシフトしていく必要があると思われる。そのためにも、製品計画・製造・出荷の全ての工程において再生可能エネルギーを利用し、本当の意味での「環境に優しい」モノづくりを目指すべきである。環境から得たエネルギーで環境に優しいクリーンな製品をつくり、その製品を使うことによって環境問題の解決に繋がることで、自然エネルギーの「循環型社会」を実現することができると考える。
3.自然との共生を目指す
前項で述べた自然エネルギーの「循環型社会」を実現するためには、再生可能エネルギーの発電・供給を増やさなければならない。
ここでは、再生可能エネルギーの普及率増加に力を入れている、「環境先進国」ドイツを例にとって説明する。
ドイツでは、政府が積極的に環境問題に取り組み、また国民一人一人の環境問題への意識が高い。それは、政府の政策へも現れている。
ドイツ政府がもっとも力を入れているのが、再生可能エネルギーの発電・供給量の上昇である。ドイツでは、国民の強い希望から、比較的早い段階で原子力発電から再生可能エネルギーへの移行が実施された。火力発電に関しても、資源の枯渇や大気汚染が問題視され、ことらも比較的早い段階から再生可能エネルギーへの移行が決定された。そして、エネルギー消費量における再生可能エネルギーの割合を増加させるため、政府は様々な政策を行ってきた。その中で私が注目したのが、環境税と再生可能エネルギー法である。
環境税は、化石燃料(主に石油)にかけられる税であり、政府はそこから得た税を新たな再生可能エネルギーの開発や環境保全の資金として利用している。この環境税は、毎年税が上がってきているが、そのことに関して国民からの不満はほとんどないという。そもそも、ドイツ人と日本人では環境問題へ取り組もうとする意識が全く異なり、ドイツ人は子供の環境教育を徹底して行っているため、環境保全に対する意識が非常に高いのだ。これに関しては、日本も子どもに対する環境教育をさらに徹底して行うべきであろう。
再生可能エネルギー法は、企業や個人における再生可能エネルギーの発電を促進するための法律で、電力会社が再生可能エネルギーを積極的に買い取る義務があるのである。このことにより、人々の再生可能エネルギーへの関心を高め、消費エネルギーに占める再生可能エネルギーの割合の増加へとつなげたのである。
ドイツの政策はこれらが全てではないが、この2つを取り入れるだけでも日本におけるエネルギー問題解決への糸口となることができるであろう。そして、燃料枯渇や大気汚染が問題視されている火力発電や安全性に大きな不安が残る原子力発電への依存が軽減され、再生可能エネルギーの普及率(発電及び供給)が増加すれば、自然から得たエネルギーだけを利用して、本当の意味での「環境に優しい」製品をつくりだすことが可能となる。
4.まとめ
本稿を書くにあたって、私が疑問に思ったことが「私達技術者は、何のために技術を開発するのか。」という点である。人、国、経済、自然など、人によって様々な考えがあるだろう。しかし、この中から一つを選ばなければならないとするなら、どれを選ばなければならないのか。そもそも、なぜ必ず一つを選ばなければならないのか。そのような疑問から私が導き出した答えが、「人と社会と自然のため」だった。人は自然に依存し、生活の向上によって社会が発展し、社会が発展すればさらなる生活の向上が実現できる。しかし、人や社会の発展のためだけに行動すれば、いずれ自然に悪影響を与える。人は自然に依存しながら生きているため、自然がなければ生きてはいけない。かといって、生活の向上のためにも技術の発展を止めるわけにはいかない。つまり、人と社会と自然は互いにリンクし合い、どれか一つでも欠けてはならないのだ。
人は、産業革命以降様々な発展をとげ、自然を顧みない技術がどのような悪影響を及ぼしてきたのかも学んできたはずだ。環境への意識も高まっている昨今、あとは行動するのみである。今起こる不利益を避けるのでなく、今後起こりうる不利益を想定し、それをいかに回避して利益へと繋げていくかが、私達技術者に求められるモノづくりだと考える。そして、人と自然がうまく共生し合う社会をつくる手助けをすることが、今後の科学技術に最も求められていることだと私は思う。
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