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【入賞】
高度な技術発展のためのπ型人材の育成の必要性
沖縄工業高等専門学校 生物資源工学科 5年
比嘉 康貴
 

はじめに
 近年、医学、工学、農学などの各分野高度に発展しつつある。また、ここ20年でコンピューターが急速に普及し、それにあわせて情報技術も急速に発展した。それぞれの分野がこの先どのような発展を遂げていくか想像したとき、これから先は異なる分野の融合が進むのではないかと私は考える。例えば、遺伝子の解析とその遺伝情報の処理においては生物学と情報処理が融合している。医学においては人工心肺、人工心臓、人工透析、人工関節などが工学の分野と関わっている。農学においては植物工場が工学と関わっている。この様に今現在でも異なる分野の融合によって新たなテクノロジーが生み出されている。これをこれからさらに発展させていくには、融合する異なる分野の両方の知識と技術を持った人材が必要となってくるであろうと考える。このような複数の専門的な知識と技術を有する人材はπ型人材と呼ばれている。本論文では異なる分野が融合した結果、π型人材が必要とされた事例と異なる分野の融合によって造り出されたものを挙げることでπ型人材育成の必要性を求める。

人材の種類
人材の種類としてI型、T型、π型で表されることがある。I型は専門分野一辺倒の人材のことを指し、T型は専門分野に加え幅広い知識を身につけた人材のことを言う。本論文で扱うπ型人材とは複数の専門的知識と幅広い知識を持ち、高い応用力の発揮が期待される人材のことを言う。

バイオインフォマティクスからみるπ型人材の必要性
まず、バイオインフォマティクスについて簡単に説明する。バイオインフォマティクスとは応用数学、統計学、応用物理学、コンピューターサイエンス、計算機科学などの技術応用によって生物医学の問題を解こうとする学問で、生物情報科学とも言われる。 主な研究対象分野に、遺伝子予測、遺伝子機能予測、遺伝子分類、配列アラインメント、ゲノムアセンブリ、タンパク質構造アラインメント、タンパク質構造予測、遺伝子発現解析、タンパク質間相互作用の予測、進化のモデリングなどがある。特に遺伝子工学の分野については発展が著しく、単に生物のDNAを読み取りデータを蓄積するだけでなく、統計化、データベース化がする段階まで来ている。また、医療への応用も期待されており、DNAの読み取りによって患者ひとりひとりに合わせたオーダーメイド医療の実現が期待される。しかしバイオインフォマティクスをさらに発展させていくには生物学者、医学者だけでなく情報処理技術を持つ人材も必要となってくる。DNA情報を処理する際にプロセスごとに役割分担を行い、それぞれが得意とする分野で仕事を行えば良いと思われるかもしれないが、バイオインフォマティクスは生物学の領域に情報科学が入り込んでおり、どちらかと言えば生物学の色が強い。そのため、生物学の深い知識を持ち、かつ情報科学の知識も持った人材であるとひとりの人間が情報を処理するため個人間の齟齬が発生しない。だからこそバイオインフォマティクスにおいては生物学と情報科学両方の知識を持ったπ 型の人材が必要とされるのであると考える。事実、バイオインフォマティクス技術者認定試験が実施されており、その試験の目的も試験対策の過程で生物学と情報科学の知識を身につけることを要求しており、生物学と情報科、両方の知識を持った人材の育成を目的としている。

医学と工学の融合-生体医工学-
医学と工学は人口心肺、人口心肺、人工関節、人工骨などに代表されるように密接に関わり合っている。医学と工学が融合した分野である生体医工学にもπ型人材は必要であると考える。なぜ生体医工学にもπ型人材が必要であるか考察する。人工骨の製造を例に挙げ、医学と工学の連携が必要であるか考えてみる。まず、人工骨の製造プロセスを示す。
① X線CT(X線コンピューター断層撮影)で、患者の骨の欠損部を撮影
② 像を三次元CAD(computer aided design)に取り込み、スライスデータに変換
③貯蔵槽・造形槽にリン酸三カルシウムの微粒子を入れ、インクヘッドに硬化液を入れた三次元インクジェットプリンターにスライスデータを入力
④貯蔵槽からローラーで造形槽に薄く引いたリン酸三カルシウム微粒子の層に、インクヘッドノズルから硬化液を吹き付けて、リン酸三カルシウムを再結晶化させることを繰り返し、人工骨を成形
こうすると数cmから数十cmの人工骨を造ることができる。
このプロセスを見るとCADや三次元インクジェットプリンターは工学領域から生み出されたものであるから操作するのも必然的に工学系の人材であると考える。また、人工骨は自然発生した骨ではないので強度を測定する必要も出てくると考える。このため医学と工学に通じた人材が必要となるのではないかと考える。人工骨の製造、強度を測定するのは工学側の人材で良いと考えるが、実際に作られた人工骨を使うのは医学側である。作る側と使う側で齟齬が発生する可能性もありうるため医学と工学、両方の領域を学んだπ型人材が必要なのではないかと考える。
人口関節に関しても医学と工学の融合により優れた人口関節が開発された。人工関節は股関節部分で多用されている。だが、問題が全くないわけではない。股関節の骨頭には大きな荷重がかかり、5年、10年経つと摩擦により摩耗して再手術で新しい人口関節と置換しなければならない。しかし、骨頭部分に細胞膜と同じような構造をしたポリマーをコーティングすると摩擦による摩耗が大幅に抑えられ、耐用年数の伸びたものが臨床治験で使用されている。これは医学分野の研究では成し得なかったことだと私は考える。医学にインスパイアされ作られたコーティング剤とそれを用いてコーティングを行う工学的技術が組み合わさった結果が従来の人口関節に比べて耐用年数の長い新しい人工関節の実現であると考える。

まとめ
生体医工学分野における新しい人工骨、人工関節を例に挙げた他分野とのコラボレーションの結果から、これからの日本は他国には追随することが難しいテクノロジーを展開し続けていくことで国際的な競争力を高めていくことが望ましいと考える。そのためには複数の分野が融合することが必要で、それに対応することのできる複数の分野の専門知識を持つπ型人材の育成が重要になってくると考える。これを裏付けるのがバイオインフォマティクスにおける生物学と情報科学の知識を兼ね備えたπ型人材の必要性である。一方だけの専門知識を持った人材同士が手をとりあっても、どこかで齟齬が発生する可能性があると考える。よって、複数の分野がコラボレーションする際にはコラボレーションする分野両方の専門的知識を持った人材、すなわちπ型人材の育成が必要不可欠であると考える。そのためには産学官が連携してπ型人材の育成に向けたプログラムを拡充していくことが必要である。

【参考文献及び引用文献】

日本バイオインフォマティクス学会
http://www.jsbi.org/
Global COE ニューズレターNo.7
http://www.u-tokyo.ac.jp/coe/japanese/pdf/GCOE_newsletter7.pdf
文部科学省「産学連携による実践型人材育成事業」パンフレット
http://gp-portal.jp/material/refMaterial/28_文科省パンフ(学生向け).pdf
Nature Japan jobsインクジェットプリンター技術による人工骨のカスタムメイド造形を実用化
http://www.natureasia.com/japan/jobs/tokushu/detail.php?id=322