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2012年(第13回)

【特別賞】
地中熱利用によるエネルギー問題解決への貢献
信州大学 工学部 土木工学科 4年
濱野 太宏
濱野 太宏

1.はじめに
 近年のエネルギー問題の解決方法として、現在のところ世間ではエネルギーの生産(発電)の分野が注目され、そのうち原発の代替案として最も注目されているのは太陽光エネルギーや風力を活かした発電であるが、これらは天候や地形などに左右されやすいため、安定した電力供給が課題となっており、現在のところ原発に替わるものとしては不十分である。しかし、場所さえあれば取付けが容易であり、一度に大量の装置を地上に設置するため、大量発注による産業の活性化が期待されるだけでなく、装置が並んだ様子は世間への環境問題を認識させるには十分な程のアピールができている存在であることも事実である。このことから、代替案が限られた現在では問題の解決にはまだまだ時間がかかりそうである。
 そこで私はエネルギー問題の視点を変えて、エネルギーの生産量を増やすのではなく、従来の設備よりもエネルギーの消費を抑えるような技術のアプローチを地下水工学の立場から述べたい。

2.エネルギー消費の傾向と解決方法の一提案
 エネルギーの消費を抑えることが問題解決に貢献できるかを知るために、昨今の日本のエネルギーの消費形態について述べる。
 近年、国内の家庭・業務などの民生部門における最終エネルギー消費は、全体の3割強を占め、産業、運輸部門に比べて増加が著しい。さらに民生部門におけるエネルギー消費の内訳は、冷暖房・給湯用の熱エネルギーが家庭部門で6割、業務部門で5割を占めており、このことから消費エネルギーの大半を占める空調設備のエネルギー消費を抑えることが、エネルギー問題の解決に大きく貢献できるものと考える。
 空調設備のエネルギー消費を抑える方法として2通りの方法が挙げられる。ひとつは現在のシステムの改良の努力を行うという一般的な方法である。これは現在、どの企業も行っていることであり、今後も改良を重ねて行ってほしいと思う。そのような中で、地下水工学に携わる者としてできることは何かを考えた。私はもうひとつの方法として、空調設備の利用時に必要な熱源を従来とは異なるルートから得ることで、エネルギー消費を抑えることを提案したい。その具体策として、自分たちの足元にある地下のある特性を利用した地下熱利用ヒートポンプ(Ground Source Heat Pump、以下GSHP)システムがある。

3.地中と地下水の特徴
 地下15m以下の浅い地層の特徴的な性質として以下が挙げられる。
@地上の天候や太陽の日射による温度変化の影響を受けにくい。
A地下の構造は主に土と水と空気で構成されており、土と水の熱伝導率は高いが、空気の熱伝導率はそれらに比べると大変低いため、高い断熱性がある。
B水は熱を蓄える能力に優れた物質であるため、一度蓄えられた熱は逃げにくい。
これらの性質によって地層内は高い断熱性を有し、蓄熱性が備えられた自然の魔法瓶のような役割をする。これは古来より利用されており、その例が氷室や竪穴式住居などである。
このような性質を持つ地中内に存在する地下水の温度は年間を通して約13〜15℃と一定の温度を保っている。そのため、地下水にあたる井戸水や湧水は同じ地下水温でも季節間の利用形態がことなるため、真夏に利用した時は冷たく感じ、逆に真冬の場合は温かく感じられる。

4.GSHPシステムの特徴
 地中や地下水の恒温特性と季節間のエネルギー利用形態に着目することによって、GSHPシステムは空調運転時に安定した熱源を確保できることが特徴である。これはエアコンと呼ばれる空気を熱源に利用した従来の空調設備に比べて季節や天候の変化に起因する熱源温度の変動が小さい。
 従来システムは外部から取り入れた空気熱源を設定温度にするためにフロンガスを媒体に使用するが、GSHPシステムの場合、地中から取り入れた熱源をフロンガスなど仲介することなく熱エネルギーとして直接温度調整に当てることができるため、エネルギーの変換効率が高い。
 この特徴からGSHPシステムは従来型に比較すると消費電力の削減することができる。都内のあるオフィスビルに従来の空調設備とGSHPシステムと導入した空調設備の両方を設置し、それぞれの年間消費電力を比較すると、GSHPシステムの方は従来型よりも約49%の削減に貢献することが確認されている。
 このシステムは地下の熱を利用するため年間を通じて安定した熱源を確保することができるため、外気温が−15℃以下となるような寒冷地も含め、設置環境を問わず、冬は暖房、夏には冷房に利用することができる。
 また、消費電力が抑えられる他に設備運転に伴う排熱を大気中に放出せずに地中との熱交換を行うため、ヒートアイランド現象の対策へも有効であるという特徴がある。そのため、このシステムは従来ならば大量にエネルギー消費をしていた24時間常時稼働するような大規模施設だけでなく、都心部のオフィスビルにも普及していくことでその特徴を発揮し、環境問題にも大きく寄与することが期待される。
 このシステムは地下水が豊富にある日本では、その運転効率が向上すると言われており、次世代型空調設備として今後、全国に普及促進活動を行う必要性は十分にある。

5.課題
 現在このシステムは北海道などの寒冷地で積極的に導入されているが、都心部では最近東京スカイツリー導入などがあるが、まだ全国規模でみると普及率は低いままである。地下熱先進国であるアメリカやスウェーデンなどの欧米諸国のシステム導入台数は日本の100倍〜1000倍と桁違いであり、日本はこの分野において遅れをとっている。この原因として、国を挙げての推進運動が活発ではなかったことなどもあるが、世間への認知度が低いことも挙げられる。一般の認識では地盤・地下水というと地盤沈下や地下水汚染といったネガティブな認識を持つ方が多く、資源としてのポジティブな利用方法があることがあまり知られていない。その原因として、対象となるものが地中にありその実態が見えにくいため、日常の人々の生活と密接なかかわりがあるものの、その実感が得られにくく、その理解のために受け手側にある程度のイメージを要求するからである。そのため、地下水関連分野では利用者に直観的に理解出来るように地下水分布地図の作成や地下水利用形態の図示化などの工夫がされている。
 今後の課題として、新規参入者でも容易に理解でき、かつ導入ができるように、伝達方法の工夫とシステム導入時の初期費用の削減のための現状の方法のさらなる改良などが必要である。また、このシステムは前述のとおり大規模施設でその効果を発揮するため、公的施設への積極的な導入を促すために攻めの姿勢も必要もある。

5.おわりに
 昨今のエネルギー問題に対して地下水工学分野ができることはまだまだ多くあると考えている。ここではひとつのアイデアとして従来と見方を変えてそれぞれの事業が本来得意とする分野に注目することによって可能であるということを事例としてあげた。土木は社会基盤を整備することが主な事業であるため、その影響力は大きい。今後このシステムの普及によって大きな問題解決の方法の一つとして貢献し、その結果日本が明るく前向きに考えられるようになることができれば良いと思う。そのために私は大学で学んだこの経験を活かし、システムの普及のための努力を今後も継続していきたい。

【参考文献】
・(財)日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済統計要覧」
 http://eneken.ieej.or.jp/
・資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」
 http://www.enecho.meti.go.jp/
・地中熱利用促進協会
 http://www.geohpaj.org