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2012年(第13回)

【特別賞】
アイデアデータベースを活用した学習モデルで人のつながりを知る
東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻 1年
下田 裕平
下田 裕平

<情報化社会が抱える社会問題と日本の現状>
 IT、情報化社会などの用語を耳にすることが多くなり、パソコンやスマートフォンなど、新世代の情報媒体の製品開発が急速に進んでいる。情報通信白書によれば、平成22年度の日本のインターネット利用者数は9,462万人とあり、その数は年々増加傾向にある1)。情報のインフラストラクチャー構築によって、情報が多様化され、その価値観も刻々と変化している。その環境下で、情報媒体の利用者は、誤った情報や怪しげな情報に流されないよう、情報リテラシーや倫理観を持って、情報から自身を守るために必要とされている。それが未熟だと、発信される情報の膨大さに翻弄され、正しい情報も見出せないために、自分に都合のよい情報のみ過信することや、あるいはインターネットを利用したコンピュータウイルスや詐欺行為の被害者となり兼ねない。
 その一方で、インターネットの世界に浸りすぎ、現実社会に戻れなくなってしまう「インターネット依存症」といった現代病も、情報化社会が抱える大きな問題となっている2)。 この社会問題は、日本の科学技術の発展にとっても大きな障壁となる。理工系を含む自然科学を学ぶ人は、その専門分野や興味の対象がインターネットなど情報に関する学問を中心とした情報工学と近く、一般の人に比べてインターネット依存症の体験者となりやすいためである。また、知識や倫理観がまだ未熟な小学生や中高生が、興味本位でパソコンなどの情報媒体に触れたときに、情報の正しい使い方や捉え方を知らないとしたら、間違った情報や偏った情報に困惑されて、科学技術への興味や科学者になる夢を無くしてしまうことも大いに起こり得る。これは別の社会問題である「若者の理科離れ」とも並行した、現在の日本が改善に向けて取り組むべき重要課題である。
 そのため、将来の日本の科学技術の発展には、著者を含む若い技術者や研究者が、複雑で多様な情報の中から価値のあるものだけを選別し、新たな知識や発見を得る分析力、発想力をもつことだけでなく、インターネット依存症や理科離れといった社会問題を解決するための新たな学習体系を構築していかなければならない。

<アイデアデータベースを活用した学習モデルの提案>
 そこで現代の情報化社会の仕組みを通じて、情報を効率よく効果的に利用できる、新たな学習モデルとして「アイデアデータベース」の活用を提案する。元の語源であるデータベースとは、IT用語でデータの集合体を意味し、アイデアデータベースは新製品の発明や新たな科学技術の手法をまとめたアイデアの集合体である。アイデアデータベースは、独立行政法人 工業所有権情報・研修館3)によって作成され、実際の運用がされているが、ユーザーであるアイデアデータの送受信者が、企業の技術者や大学等の研究機関に所属する専門家であるため、規模が限定的で、データベースの知名度の低さとあわせて一般的な認知度が低いのが現状である。
 アイデアデータベースを活用した学習モデルの概念図を図1に示す。アイデアデータベースを教育分野で利用することで一般家庭や教育機関への周知ができ、データベースを普及させる上での課題であった知名度の低さが改善される。これにより、学生や一般家庭の人々がユーザーとなってデータベースを利用することで、科学への興味、関心が向上して、子供の理科離れが改善されるだけでなく、家庭内でのコミュニケーションが増える話題を提供する(図中U)。また、企業や研究機関、教育機関が提供する問題や課題が、学生の発想力を鍛える教材となり、やがてそれが新たなアイデアとしてデータベースに出力され、次のアイデアを生む題材となる(@)。また、学生の柔軟な発想力、思考力から生まれたアイデアは、技術者や研究者にフィードバックされ、彼らの新たな知識や発想となる(A)。科学技術に詳しい企業や研究機関と、教育に詳しい家庭や教育機関が連携して、学生に提供する問題や課題を検討することで、理科離れなど社会問題の改善に向けた意識の共有や、文理の系統によらない新研究領域への開拓も可能となる(V)。更に、企業や研究機関が提供する最新科学に関連した課題は、学校で学ぶ机上の学問では実感できない、現代社会で使われている高度な科学技術を、学生に間近で体験させる機会となる。その体験を通じて、学生はものづくりへの関心を高めるだけでなく、社会で活躍する技術者や研究者と課題解決に向けた目標を共有することで、将来の科学技術者への夢を強く意識する機会を与える (T)。このようにアイデアデータベースは、情報を集め、知識や発想として利用者に与えるだけでなく、データベースを通じて利用者同士が直接的に交流することで、人のつながりを築く土台となる。利用者は人のつながりを実感することで、インターネットの情報通信越しでない、現実社会で人々と出会い、助け、助けられることで人の優しさを知り、その行いに感謝することで、誰かの為に社会貢献しようとする動機付けとなる。特に人生経験が少なく、他者との交流が限定的な学生は、多くの人と交流し、多くの価値観を知ることで、自分の価値観を考える動機付けとなる。その過程で、倫理観や情報リテラシーを学んでいくことで、インターネットに広がる、多様な情報に振り回されることは少なくなるはずだ。

<おわりに>
 情報化社会の発展に伴い、人々は情報を容易に得るようになった。同時に、止め処なく現れる大量の情報は、人々にその処理に多くの時間を費やすことを必要とした。その時間の制約とともに、SMSの普及によって、容易に他者とのコミュニケーションが可能となったことで、人が直接出会って、交流する機会は少なくなった。そうした環境がインターネット依存症という現代病を生んだというのは言うまでもないが、インターネットが普及することで、私たちの現実の社会に生きる人間としての感覚が麻痺されていることも留意しなければならない。新聞を見ていて、仮想世界の事象を模したような出来事や事件の記事を目にすることがある。その度に、これらの首謀者は自分や他者を仮想世界のキャラクターと捉え、現実と仮想の区別がつかなくなっているのでは、と思う。画面越しでは実感できない、生きた人間を実感することは、人が協力しあって社会が成り立っていることを知る上で、大切なことだ。アイデアデータベースは、知識を構築し、アイデアを発想する学習ツールであり、そして人のつながりを実感する認知の支援ツールである。アイデアデータベースの利用者には、多くの人と協力し合い、画期的な新製品や新技術を創造し、その過程を通じ、データに残せない良好な人間関係を築いていてもらいたい。


【参考文献】

1. 「情報通信白書」
 http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h23/html/nc341110.html
2. 「インターネット依存に関するわが国の現状」
 http://www.kurihama-med.jp/tiar/pdf/20120403_no1_workshop_report1.pdf
3. 「アイデアの塊」
 http://plidb.inpit.go.jp/idea_root/html/index.html