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2012年(第13回)

【優秀賞】
食を通して育む学際的理科教育
東京農工大学 農学部生物生産学科 4年
光山 拓実
光山 拓実

1章:料理を教育の場に生かす方法( introduction)
 「料理の上手い人は実験もうまい」という格言がよく言われる。この格言は以下のような含蓄を含んでいるだろう。料理とは@プロトコルをきちんと守るべしA供試材料・道具を丁寧に扱うべし、Bプロトコルにアレンジを加える創造性を発揮すべし。
 すなわち自然科学(science)の基本的な哲学を料理は内包していると言える。
 このように捉え直すと科学とはやたら難しい実験室でしかできないわけではなく、料理という身近な行為を通しても行えるものであるといえる。
 自然科学は抽象的すぎて難しいため理科離れが進むという論調もある。しかし、科学することは本来創造的で楽しい行為のはずである。それを阻む要因抽象さは題材の工夫で克服できないだろうか。
 そこで、本論文では料理のような日常生活の営みと科学をリンクさせて科学する楽しさと学際的に理科を学ぶ方法を提案する。また、高校の学習指導要領改訂における変化にも言及して具体的な教材提案を行う。

2章:具体的な方法(material and method)
 1物理・化学的なアプローチ
 フランスの物理化学者エルヴェ・ティスによって分子調理学(Molecular Gastronomy)という学問分野が登場した。これは分子レベルで料理をとらえ直すものだ。いわば最先端の学問分野においても料理を科学しよう!という考えがでてきている。その試みを参考にしていくつか方法論を提案したい。

1.1 <結晶の生成とアイスクリームのおいしさを体感せよ>
 宮城大食品学部の石川伸一先生がブログで提案されているものを引用する。 「アイスクリームの舌触りは、アイスの中の氷の結晶の大きさと密接な関係にある。

 結晶のでき方というと、「高校地学」の中で火成岩と深成岩の結晶の大きさなどでも扱われる。(図1)ゆっくり冷えると大きな結晶で深成岩ができると記載されるが多くの生徒さんには通じにくいだろう。
 これを体験する実験は次の通りである。液体窒素を用いて短時間で冷えてできたアイスクリームと冷蔵庫でゆっくり冷やしたものを食べ比べるのである。
 液体窒素を使ったものは結晶が小さく、舌触りが滑らかであるとなると結晶の生成についても強い印象を与えるだろうし、地学の深成岩にもより理解が進むのではないだろうか。

1.2  <食品のレオロジーや熱力学について>
 エルヴェ・ティスは料理を表1に示すように物理化学式であらわすことができると提唱した。このように料理という具体的なものも抽象化して考える姿勢は物理学と似ている。 例えば、物性物理で用いる難解な物理の式も料理を通して考えてみると意味のあるものになるのではないだろうか。肉の焼き加減と硬さを題材にしよう。

 肉を焼くとタンパク質は変性する。筋肉とは筋繊維と呼ばれる糸が寄り集まってできているが(図2)、これが加熱によりからまってしまう。糸がからみ密になったらLは小さくなる。その結果、ウェルダンよりレアの焼き方のほうが柔らかいことになる。これは実際の感覚でも明らかであろう。このように物性の観点でも料理は考えられる。
1.3  <食品の保存を観察して>
 味噌を保存する際にはどうしているだろうか??実は味噌は冷凍庫に入れるのが正しい。 味噌は100gあたり水が40g、約12gのNaClを含む。この溶液の凝固点降下を計算する。
<計算式>

 味噌は約−19°より低い温度でないと凍らない。冷凍庫の設定温度は−18°なので凍らないのである。試にやってみてもらうとよい。このような高校化学の知識を実際に使えて、利益を得られるときっと勉強が楽しくなるのではないだろうか??
2数理統計学なアプローチ
 平成24年から施行させる高校数学の新課程においては数学T・Aにおいて「データ分析」という項目が追加された。また‘生きる力’が強調されている。これは文系理系問わずに数理的なリテラシーを学ぶことが必要とされていることが背景にある。統計学の基礎をただ学ぶだけでなく、身近な題材での具体的探究こそが新課程で強調される‘生きる力’を養うのに最適だ。私の提案したいものは食を通じた統計学である。
2.1  <健康食品は本当に健康に寄与するのか?>
 ある食品を食べて健康に寄与するかは人によってばらつきがある。それが食品によるものなのか有意差があるのか??というのを学ぶいいチャンスである。科学的な思考のもとでモノを考える習慣を得ることは詐欺まがいの商品が減ることにもつながる。
2.2  <安全基準とはどういう意味か?>
 日本人は食の安全に関して厳しい。残留農薬や最近では放射性Csの問題がいい例だ。またzero riskを求めてしまいがち声が大きい。zero riskに近づけることはできても実行は不可能であり対費用効果も考えなくてはいけない。そこで統計学の考え方が必要になる。 人間が摂取する化学物質(食品・薬)に対しては、100倍等の特段厳しい安全率(安全係数)が用いられる。例えば、人体実験をする代わりに動物実験の結果で得られた毒性の知見を元に種による誤差(種差)が10倍、人間の間でもお年寄りや乳幼児のような弱者と健康体の間での誤差(個人差)が10倍あるとすると、動物実験から得た毒性に100倍をかけたものを実際の基準値とする(種差×個人差=安全率)。(図3) このように安全基準とはいくつもの条件を考慮していることや個人差などをきちんと認識することで過剰に恐れたり、無暗に摂取したりせずに適切なrisk managementをできるようになるのではないだろうか。 日本人は食に関してギスギスしやすい。そういう意味では食における統計学と安全というのは重要である。
3章 まとめと考察(result and discussion)
 元科学技術庁長官である有馬朗人の目指したゆとり教育とは上記のような教科の壁を取り払い勉強していこう!という趣旨だったと言われる。 現在の新課程ではゆとり教育への批判のもとに各教科とも扱う内容は増した。しかし、私は新課程が単に量を増やすだけでなく、時間数などの関係でできなかった本来の意味でのゆとり教育を実現してほしいと願う。そこで調理学・食品を食べるという日常的な行いは上記の5つの事例からも導入の余地があると思われる。理屈(理科の知識)とその実践としての調理を家庭で生徒が行う習慣がつけば、科学する習慣、実験操作のための基礎の向上、自立的精神の涵養につながるものと考えられる。
4章 最後に
 私は理科が好きであったが、知識だけあっても大学に入っていざ実験をやってみるとなかなか苦労したものだ。しかし、身近な料理などを通して理科系に必要な要素の基礎を身に着けていたらもっと実験を楽しめたかもしれない。浅学非才の身ですが、私の人生の反省から得た産物で少しでも、日本の理科教育に還元できないかという想いのもと本論文の作成に励んだ。科学技術こそが日本の強みであり、科学を楽しめる余裕のある先進国で日本があり続けてほしいと心から願うばかりだ。

【参考文献】

<書籍>
1. 「フランス料理の「なぜ」に答える」、エルヴェ・ティス(著)・須山泰秀(訳)、1999年5月13日、柴田書店、§27アイスクリームとシャーベット p190〜199
2.  「食品化学」、鬼頭誠・佐々木隆造編、1992年4月10日、文永堂出版、§5.食品成分と物性 p172〜184
<WEB>
3.石川伸一(宮城大食糧産業学部准教授)「夜食日記」 2009年12月24日記事 http://d.hatena.ne.jp/yashoku/20091224/p1
4.啓林館 ユーザーの広場 生物U(生体を動かすタンパク質)、地学T(火山活動と火成岩の生成)
http://www.keirinkan.com/
5.マルコメ  「お味噌汁の保存法」
http://www.marukome.co.jp/marukome_omiso/save/index.html
6.文部科学省 高等学校学習指導要領解説 http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2012/06/06/1282000_5.pdf(数学)
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2010/01/29/1282000_6.pdf(化学)
7. 三重県 食の安心・安全の広場  残留農薬の安全性のグラフについて
http://www.pref.mie.lg.jp/SHOKUA/HP/kininaru/nouyaku.htm