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2012年(第13回)

【最優秀賞 文部科学大臣賞】
「科学技術と社会のつながり」
大阪大学大学院 工学研究科生命先端工学専攻生物工学コース 1年
安本 周平
安本 周平

1.科学技術と社会
現在,世界中で多種多様な科学技術が利用され,人々の生活を支えている。 科学技術は日々急速に進歩しており,今後も,技術の高度化が進むと考えられる。そう なるとその技術について理解する事が出来る人間が一部の専門家に限られてくる。その際, 一般の人達はその専門家がいう説明に耳を傾け,その技術がどういう物であるのか,社会 に必要な物であるのか等を判断する必要がある。また,専門家は一般の人にも分かりやす く説明する必要がある。この科学者・専門家と一般人の考えの乖離が近年大きくなり,一 般の人達が科学技術に対して不安・不信を感じるようになり,問題となってきている。今 後日本がさらに科学技術を発展させるためにはこの問題を解消する必要がある。なぜなら ば,このまま科学者 (専門家) と一般人 (非専門家) の乖離が進めば,将来,科学者・専門 家になろうと志す子供が減少したり,科学技術振興事業に対する理解が得られなくなり, 科学技術の進展が鈍化したりする危険性があるためである。資源が少ないと言われる日本 にとって,科学技術進展の遅れは重大な問題となる。専門家と社会一般の人達の意思の乖 離の例として,現在問題となっている原子力発電と,遺伝子組換え作物について簡単に記 し,その原因について簡単に考察し,最後に私が考えた問題の解決策について提案する。

2.科学技術に対する不信・不安の例
〈原子力発電〉
原子力発電はウラン等の放射線元素が核分裂する際に放出される熱エネルギーを利用し て電気を起こす発電様式である。核分裂の際に放射性核種が生成される一方,単位重量か ら取り出せるエネルギー量が大きく,また,発電時の二酸化炭素排出量が火力発電と比較 して小さいため,クリーンな発電方式であると言われ,日本ではオイルショック以降,エ ネルギー政策の一環として利用が推進されてきた。しかし,2011 年 3 月 11 日に起こっ た東日本大震災に伴って発生した福島第一原子力発電所の事故以降,原子力発電の大きな リスクが広く認識されるようになった。この事故以前までは,原発は「科学的に安全であ る」と言われていたが,想定を超える事態が起こった際に甚大な被害が生じる事が分かり, 社会に大きな不安を与えた。事故以降,テレビやインターネット上で原子力発電の専門家 が原発の安全性に対して様々に意見を述べた。その話はとても複雑であったため,一般の 人達が簡単に理解できるような物ではなく,また,複数の専門家が異なる観点から主張を 行ったため,論点・問題点が分かりにくくなり,一般の人達の原発への理解を妨げる原因 の一つとなった。
〈遺伝子組換え作物〉
遺伝子組換え作物は,遺伝子組換え技術によって元々の作物が持たない有用な形質が導 入された作物である。現在世界 20 カ国以上で栽培されており,栽培品種,耕地面積共に 今後も増加すると予想されている。組換え作物は除草剤や病害虫に耐性を持たせる事で生 産者に対して利便を与える第一世代組換え作物, 微量栄養素や医薬品を生産するように改 変され,消費者に直接利便を与える第二世代組換え作物などに分類される。組み換え作物 は世界中で生産量・消費量が増大する一方,日本での生産量,消費量は伸び悩んでいる。 例えば,スーパーマーケットで販売されている納豆のほとんどは「遺伝子組換え大豆を含 まない」と表示されている。「遺伝子組換え大豆を含む」納豆は消費者受けが悪く,ほとん ど市場に流通していない。現在日本で流通可能な遺伝子組み換え食品は最新の科学的知見 に基づき安全性が確認された物であるが,消費者は遺伝子組み換え食品に対する不安感を 持っているため,このような現状となっていると考えられる。

3.科学技術への不信・不安を取り除くために
以上,一般の人達が,科学技術へ不信・不安を感じている 2 つの事例を挙げた。これら 不信・不安の原因として (1) 科学者・専門家の説明の難解さ,(2) 科学技術の高度化に伴う, 理解の困難さ。などが考えられる。これらの原因を取り除く方法として,理工学系学生に よる一般人へとの討論の推進を提案する。具体的には,理工系の大学,あるいは大学院の 学生が,自分の研究や専門分野について話し,一般の人達と討論を行う。 将来的に専門家となる学生は,専門知識をほとんど持たない一般の人達にどうやれば分 かりやすく話を伝えられるのかを学ぶ機会が得られる。現在の日本の大学教育では人に何 かを伝えると言う事はあまり重視されておらず,これが科学技術への不信の原因の一つで ある (1) 科学者・専門家の説明の難解さ。の要因となっていると思われる。私の提案を実 施する事で,学生である間に,分かりやすく,伝わる説明を行う事が出来る専門家が増え ていくと思われる。また,自分の研究活動が社会に対してどのような影響を与えるのかを 考える一環となり,研究活動へのモチベーションが上昇するかもしれない。さらに,一般 の人達からの疑問や質問を聞く事で,専門家だけでは気付く事が出来ないようなアイディ アが創出できたり,見落としていた科学技術の危険性に気付く事が出来るかもしれない。 一般の人達は科学技術に対して日頃感じている疑問を専門家の卵である学生に直接訪ね る事が可能となる。インターネットが発達した現在では,確かに個々の技術がどういう物 なのかは簡単に知ることができる。しかし,専門家に直接話を聞く事で,その技術の背景 や特徴等をより詳しく理解する事が出来る。大切なのは情報が双方向に流れる事である。 一方的に情報を読み取るだけでは,知識として頭に入ったとしても,理解する事は難しく, また,ネット上に溢れる情報から正しい情報のみを選択する事は困難である。しかし,疑 問となる事を聞く事で,高度な科学技術に対しても理解しようと思う事が出来るかもしれ ない。この双方向の情報伝達によって (2) 科学技術の高度化に伴う,理解の困難さ。をあ る程度克服できると思われる。専門家あるいは専門技術を学ぶ学生と話し合う事で,技術 に対する理解が少しでも進めば,科学技術に対して感じる不安感を軽減できると考えられ る。また,今まで知らなかったような科学技術に触れる事で,科学者や専門家を志す子供 が増える事も期待される。 この提案の問題点として,(a) 未熟な学生が一般の人達に対して意図せずに嘘を話す,(b) 科学技術に元々興味のある人のみが学生による話を聞きに行く事になり,元々科学に興味 の無い人達は参加しない,等が考えられる。これらの問題の対策として,(a) の問題に対し ては,学生と一般人との討論の際に大学の教員が同席し,誤った情報の伝達を防ぐなどが 考えられる。(b) の疑問に関しては,日本は社会全体に科学技術が浸透しており,日々の生 活の中で科学技術に触れる場面が多く,少なくとも,科学に興味はあるが,どのように科 学技術と付き合えばいいのかが分からない人達への科学への窓口になる事は間違いなく, 科学技術を理解する (理解しようとする) 人の裾野は確実に広くなると思われる。

4.まとめ
科学技術に対する不信・不安を取り除く方法として,理工学系学生による一般の人との 討論とそれによって生じる相互理解の推進を提案した。これにより,専門知識の少ない人 にも分かりやすく説明できる専門家の育成と,高度科学技術に対する一般人の不安の低減 が可能となると思われる。この提案の実施には物質的には特に何も必要としないため,例 えば,大学の講義として,学生と一般の人達を集めれば,すぐに実行する事が可能である。 討論の後,一般人にアンケートを記入してもらえば,学生へのフィードバックとなり,科 学技術の説明がより早く改善されて行くと思われる。今回の提案が現実化し,科学者と一 般の人達がより近い存在になる事を期待している。