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2010年(第12回)

【入賞】
ICT の発展と超高齢社会における情報バリア
立命館大学産業社会学部
現代社会学科人間福祉専攻国際福祉プログラム 2年

岡本 修
 

〈1〉はじめに
 日本の高齢化率は2009 年10 月1 日現在で22.7%に達し、超高齢社会に突入した。そ して、2035 年には高齢化率が33%を越え、全国民の3 人に1 人が65 歳以上の高齢者になると推計されている。今後も高齢者ケアの充実と十分な社会保障制度が必要となる。そのような日本社会において、ICT(情報通信技術)が急速に発展している。日本国内におけるインターネット普及率は78%である。また、4 人に1人がデジタルコンテンツ (映像や音楽、ソフトウェア等)の入手を目的とし、インターネットを利用していることがわかった。先進国をはじめにICTの発展が世界的に見られ、日本国内においてもま すます発展していくに違いない。本論文では、超高齢社会におけるICTが引き起こす問題を浮き彫りにし、その解決策を提言していく。

〈2〉情報社会の実態
 情報社会の歴史的変遷は大きく4 段階に別けることができる。第1 段階が“言語の発生”である。人々は言語を用いて集団行動を営むようになり、対人コミュニケーションが行われるようになった。そして第2 段階は各々が経験してきたことなどを文章化することである。つまり“文字の発明”である。第3 段階は“活版印刷術の発明”である。印刷術が発明され、文章化された情報を複製することができるようになり、広域へと伝達できるようになった。最後に、第4 段階が、電気通信機械や写真、動画等の映像技術、またそれらを配信するために使用するテレビやラジオの放送技術、そしてコンピュータの発明である。すなわち“情報手段の多様化”である。
 ではそもそも情報社会とは何か。情報社会とは「情報の価値の生産と利用を中心として発展する社会」(増田,1986,pp.26)である。
 日本社会は、このような“情報”の歴史的変遷を遂げ、その“情報”に依存する社会、つまり情報社会へとなったのである。そして、情報社会において、人々の暮らしはとても利便的になったと言える。インターネットを利用したオンラインショッピングや電子メールにより、人々の暮らしは効率化されてきた。しかし、その背景に“デジタルデバイド”という新たな問題が浮上している。

〈3〉デジタルデバイド;超高齢社会に顕在する情報バリア
 デジタルデバイドとは、アメリカ合衆国商務省が報告した”Falling Through the Net: Defining the Digital Divide”(1999)において、「デジタルデバイド-新技術へのアクセス を持つ者と持たない者の間に生まれる差 (The “Digital Divide”-­‐ the divide between those with access to new technologies and those without)」と定義されており、新技術とは「電 話、コンピュータそしてインターネット (telephones, computers and the Internet)」を 指す。前途のように、オンラインショッピング等のICT 利用により、人々の暮らしは随 分便利になった。しかしICT へのアクセスがない者の暮らしはどうだろうか。<2>に おいて、情報社会とは「情報の価値の生産と利用を中心として発展する社会」と述べた が、デジタルデバイドは情報社会における厖大なバリアとして捉えることができる。
 図1は世代別携帯電話及びコンピュータの普及率を示したものである。20代のコンピ ュータの普及率は91.7%であるのに対し、60歳以降の普及率が歴然として低く、70歳以降では1 割程度となっている。このデータから、ICT アクセスの世代間格差が明確に なった。(財)日本チャリティー協会「バリアフリーパトロール隊による高齢者の快適 なデイリー・ライフの調査研究報告書」(2000)によると、60 歳〜74 歳では5 割強、 75 歳以上では4 割がインターネットや電子メールに興味があるという回答をしている。 5 割以上がインターネットに興味があると回答しているにもかかわらず、実際は60 歳以 降の普及率は極めて低い。情報社会におけるICT 普及率の低さは、ソーシャルエクスク ルージョン(社会的排除)を意味する。ICT へのアクセスが困難な者は必然的に社会的 排除に遭うのである。つまりICT へのアクセスが困難な高齢者は極めて不利な立場に陥 ることを示唆している。そのため、このような情報バリアを取り除くことが、日本の将 来に必要なことではないだろうか。

図1 世代別携帯電話及びコンピュータの普及率
(総務省:「平成21年通信利用動向調査の結果」に基づき自己作成)

<4>情報バリアフリーの動向
 現在、様々な携帯電話会社が高齢者向けに携帯電話を発売している。音声読み上げ機能が搭載されていたり文字表示が大きく設定されていたりする。また、日々の健康状態を記録できるような健康管理アプリケーションが搭載されている機種もある。しかし、携帯電話ショップでの契約時の説明や携帯電話の説明書、料金プラン等の複雑さは完全 に“バリアフリー”になっているとは言えない。むしろ、携帯電話本体のバリアフリー が可能になったからと言って、真の情報バリアフリーの実現とは言えない。
 その他、高齢者を対象としたパソコン教室などがある。しかし、そのようなレッスンの講師は若年者である。また、家族内でパソコンの使用方法を教わる場合も、必然的に当事者よりも年齢が若い者に教わることになる。これは、役割コンフリクトが引き起こる一因と言える。役割コンフリクトとは、社会的地位を地位群、各地位に結びつく役割を役割群と定義し、異なった地位群から複数の役割を担う時に発生するコンフリクトのことである。例えば、親としての地位にいる当事者はこどもに対して親という役割を持 つが、こどもに教えてもらう場合、こどもの役割が教師になり、当事者の役割が生徒というような二重の役割関係が成り立つ。役割コンフリクトは、そのような場合に起こる可能性が極めて高い。すなわち“高い地位の者”が“低い地位の者”に教わるときに起こりうる弊害である。そのため、そのような高齢者の精神的な面を考慮した解決策が必要だ。

<5>まとめ
 ここまで、わが国における情報社会と情報バリアについて述べてきた。最後に、情報バリアの解決策を提言していく。<4>で述べた通り、様々な企業が、携帯電話をはじめ、高齢者をターゲットとしたICT の“ツール”の開発及び販売を行っている。しかし、ICT へのアクセス時に使用する“ツール”のバリアフリーが必ずしも“情報”バリアフリーの実現に至るとは限らない。そして、高齢者をいかにICT アクセスへと誘導することができるかが今後の課題になると考えている。
 機能性を重視し、操作が簡単且つ高齢者のニーズに対応できる携帯電話やコンピュータの普及が必要になる。例えば、デスクトップにメールの送受信や電話、検索などの使用用途が明確なシステムのボタンのみを表示させた“ツール”により、“ツールのバリアフリー”が可能になると考えている。そして、それらのハードウェアを入手するときの“容易化”が必要になる。この際の“容易化”とは、簡単に入手できるようにすることではない。店頭での“ツール”の説明や契約プランの解説等をシンプル且つわかりやすくするという意味である。それにより“情報バリアフリー”が可能になるだろう。また、役割コンフリクトを避けるために、高齢者同士が使用方法を教え合えるような機会が必要になってくるのではないだろうか。今後さらに高齢化が進む日本において、高齢者の“ICT アクセス権”たるものの重要性がますます必要になると考えている。

【参考文献及び引用文献】
1)

「平成21 年通信利用動向調査の結果」, 総務省, 2010 年4月

2)

「高齢者に対する情報バリアフリーへの提案-プレゼンテーションの必要性-」『静岡福祉大学紀要 第2 号』, 加藤あけみ, 2006 年1 月, 静岡福祉大学

3) 「平成22 年度版高齢社会白書」, 内閣府政策統括官高齢者社会対策, 2010 年5 月
4) 『社会福祉情報論アプローチ』, 生田正幸, 1999 年6 月, ミネルヴァ書房
5) 『原典 情報社会̶機会開発社の時代へ-』, 増田米二, 1985 年11 月, 阪急コミュニケーションズ, pp.26
6) NTT ドコモ(らくらくホンシリーズ) http://www.nttdocomo.co.jp/product/foma/easy_phone/index.html