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2010年(第12回)

【入賞】
日本から世界へ発信する宇宙開発
東京大学 工学部 航空宇宙工学科 4年
大谷 翔
 

〈はじめに〉
 2010年は日本の宇宙事業があげた多くの成果に喝采が送られる、歴史に残る一年となった。小惑星探査機はやぶさの奇跡的な地球帰還をはじめ、野口宇宙飛行士のISS長期滞在、そして山崎宇宙飛行士との日本人複数滞在は日本全体を歓喜に包み込んだ。同時に、後退的なニュースが飛び交った一年でもあった。事業仕分けでの予算見直し、広報施設JAXAiの閉鎖決定は宇宙開発規模を縮小に向かわせた。さらに世界に目を向けると2011年にはスペースシャトル退役を迎え、2020年にはISSも運用が停止される見通しであり、宇宙開発の方向性が大きく変わることは確実である。  このような状況下で宇宙開発を継続するためには経済効果と国際進出の軸を協調していく必要があるように思う。この宇宙時代に日本が国際舞台でどのように貢献できるか。さらに日本社会に適した宇宙開発とはどんなものなのか。工学的強み、国民感情、平和的利用の3点から論じていきたい。

〈宇宙開発議論〉
 人類はこれまで、宇宙進出によって通信システムの整備や大幅な科学技術発展を可能にしてきた。また宇宙技術は地上においてもスピンオフとして転換され利用が進んでいる。しかしその華やかさの一方、宇宙技術の在り方についても議論の的となっているという事実を忘れてはならない。莫大な予算を注ぎ込んで得られる成果は実社会とどれほど関連してくるのか、それよりも直下問題としての産業支援や国民支援の方を優先すべきではないかと主張する人々もいる。宇宙開発の産業規模は自動車の1%ほどと言われており、主力産業とするにはまだまだ規模が小さい。今後も宇宙開発を継続するためには、こういった主張に答える直接的な利益を産出する必要がある。分かりやすい経済的存在価値、見えやすい社会利益の開拓が求められているのだ。

〈国際学会で見た日本の宇宙開発〉
 私は昨年、宇宙開発についての国際学会に参加する機会を得た。そこでは海外参加者との交流を通して、日本の宇宙開発を初めて客観的に見ることができた。日本といえば産業界ではその精巧な開発で知られ、また独創的なアイデアも数多く生み出してきたが、宇宙開発の分野においても同じことが言える。例えば、折り紙手法を利用したパドル展開技術は日本ならではの発想によるものだろう。さらに、こういった独自の工夫は他国宇宙機関と比較して少ない予算内で実現されており、低コスト開発も日本の強みといえる。

〈日本国民が求めるもの〉
 日本人は感情的なニュースに感化されやすい側面がある。国際学会で知り合った米国大学院生から「はやぶさの数々の失敗は日本ではどのように評価されているのか。」と問われることがあった。たしかに、はやぶさは当初の計画から大きくズレが生じ、運用期間延長によって予算も膨れ上がり、小惑星サンプルは当時(2010年10月)発見されていなかった。その米国学生からすると、失敗事業がなぜ批判を浴びず、むしろ評価されているのか理解出来なかったのだ。その問いに対して、私なりにこう答えた。「今の日本は暗いニュースが飛び交い、悲観的になりがちである。その中ではやぶさが諦めずに長期間かけて故郷に帰還したことはドラマチックであり、なおかつ今の日本で必要とされる生き方である。そこに私達は共感を覚えるのだ。」困難な道でありながらも最後まで諦めずに目標を達成する姿は人々の理想であり、日本を元気にする力がある。宇宙関連のニュースはどこかスポーツのそれに似ている部分があるように思う。画期的な事業は明るいニュースを作り、子ども達の科学熱を高めて夢を抱かせる。さらに関連商品や技術応用によって経済波及効果を生み出すという点で日本に必要なのである。

〈日本の国際的立場〉
 国際協力で日本が主導的な立場になりえるのはどこであろうか。私は、ここで期待されるのが平和利用を貫く日本の姿勢であるように思う。宇宙利用は国際法である宇宙法で定められており、名目上はいかなる国も平和的利用に努めなければならないのだが、日本はその中でも自主的に平和利用を突き通す国である。例えば、米ロの深宇宙探査には原子力電池という長寿命・高出力のバッテリーが用いられることが多い。しかし、安全面・倫理面から自主的にその使用を禁止し、代わりにイカロスに代表される太陽光子反発を利用したソーラーセイルなど、オリジナリティーに溢れたアイデアでカバーしている。宇宙開発を継続的に進めてきた欧米諸国をみても、これほど平和利用にこだわる国は他に存在しない。

〈具体案〉
 ここまで挙げた通り、宇宙開発における日本の強みは独創的な工学技術、国民感情を巻き込んでの科学熱、平和的利用の3つである。ここで、日本の国際的立場や特性を活かした宇宙開発の具体的な指向を定めたい。例えば、途上国向けの低コスト衛星ビジネスは日本の得意分野になり得る。近年、開発協力において日本は国際的に高い評価を得ている。単なる支援に留まらず、ビジネスと関連させ、Win-Win関係を構築することで既に途上国に世界トップレベルの貢献をしていると言えよう。例えば、水ビジネスでは重工系各社、商社が東南アジアを始めとする地域の土地柄にあったインフラ整備に貢献すると同時に現地雇用も創出している。現在、新興国や途上国の自立した標準インフラ通信システムの需要は増しつつある。交通の便が未発達な地域でさえ、通信網が発達することで技術教育面と雇用創出面で貢献できる。さらに、遠隔医療システムが実用化できれば、病気が深刻であるにも関わらず医師不足で初期診断が困難な地域でも経験豊富な医師からのアドバイスを受けることができる。この際に期待されるのが他インフラ整備で実績のある日本の貢献である。ここで前述した3つの強みが活きてくる。衛星製造から打ち上げから運用システムの提供までを低コストで行い、軍事要素を持ち込ませずに利害関係を一致させ、さらに新規事業で成功事例を積み重ねることによって宇宙への科学熱を高めることが日本には可能である。
 以上、今後数十年で実現可能なことを挙げた。もちろん、時代の進歩に伴い、新しいアイデアの創出が必要となるのも事実である。新規アイデア創出のためにもビジネスからのアプローチを積極的に促進させた宇宙開発の自立が日本宇宙開発の活きる道である。

<宇宙の学び方・捉え方>
 しかし、ここまで述べたことの実行は簡単ではない。技術力の維持向上に加え、良好な国際関係を保たなければならない。私自身はこれまでエンジニアとしての教育を受けてきたが、事業として成功させるには多くの分野の従事者達の協力、幅広い知識を集約させる能力が求められる。このような能力醸成には、例えば、高等教育分野においては学部横断プログラムなどの包括的社会システムの用意が必要になってくるかもしれない。
 宇宙について語ることはいまや夢物語ではない。実社会の利益に直結しうる一事業なのだ。宇宙に関する仕事といえば宇宙飛行士のみが取りざたされることが多いが、真に継続的に宇宙の価値を見いだしていこうとするならば、前述の日本の良さと国際的貢献の軸を保ちつつ日本国民・現地民双方にとって有益なシステムを民間主導で構築し、経済的利益を考慮しながらサービスを提供していくべきであると私は考える。

<最後に>
 私が宇宙工学を志すようになったのは、海外交換留学を経験し生まれて初めて「日本」という国や「日本人」としての自分を客観的に見つめる機会を得たことがきっかけであった。多くの人が憧れを抱く宇宙事業の分野で日本をトップに立たせたい、という思いがそこで生まれた。そのためにも日本の強みや特性を理解し、現実的かつ他国の二番煎じで終わらない独自の「産業」としての宇宙開発によって日本の未来を盛り上げていきたい。

【参考文献】
1)

宇宙産業の発展に向けて,経済産業省 http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/space_industry/pdf/space_industry.pdf

2)

航空宇宙産業データベース平成22年7月,社団法人 日本航空宇宙工業会 http://www.sjac.or.jp/common/pdf/toukei/8_database_H22.8.pdf

3) 三菱商事HP(途上国のインフラ整備に貢献 -フィリピンでの取り組み-)
http://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/mclibrary/morechallenges/vol02/page4.html