過去の入賞論文
・2016年(第17回)
・2015年(第16回)
・2014年(第15回)
・2013年(第14回)
・2012年(第13回)
・2010年(第12回)
・2009年(第11回)
・2008年(第10回)
・2006年(第8回)
・2005年(第7回)
・2004年(第6回)
・2003年(第5回)
・2002年(第4回)
・2001年(第3回)
・2000年(第2回)
・1999年(第1回)






























































































2010年(第12回)

【特別賞】
アウトプット学習の導入と問題点の解決
名古屋大学 工学部 化学・生物工学科 分子化学工学コース 3年
下田 裕平
 

はじめに
 最近の若者は、「考える」ということが苦手になってきていると言われる。特に理科離れという言葉が近年広まりつつあることからも、若者の科学的思考力の欠如が深刻化している。この原因として、よく取り上げられるのが日本の教育制度である。日本の教育は、系統学習を導入しており、この学習法は、受験学力を絶対的なものにしている。そのため、受験生は与えられた試験科目の範囲内を機械的に詰め込む作業を強いられることになる。この機械的作業はいわばインプット(内部)学習とよばれるもので、受験生は与えられた問題を受動的に解くだけである。新しいものを生み出す、既存のものをより優れたものにする創造性やアイデアは、形式だった解法をただ覚えるインプット学習だけでは生み出せるものではない。それらを鍛えるにはアウトプット(外部)学習の導入が不可欠である。アウトプット学習では、生徒自身が問題を考え、それに対する答え、解決案を自らが見つけ出すことで、思考力の向上を図ることが狙いである。本論文ではこのアウトプット学習導入に対しての具体案、問題点とその解決案を提言したい。

具体案@ 初等教育〜高等教育でのアウトプット授業の導入
 「三つ子の魂百まで」、「雀百まで踊り忘れず」などのことわざがあるように幼少期で得られた能力は、老人になっても変わることはないと言われている。そのため、思考力の向上のためには、幼少期からアウトプット学習を取り入れ、考える機会を与える必要がある。この機会を与える場として、アウトプット授業が挙げられる。この授業では、例えば、学習者に身の回りの出来事に関する疑問を聞き、それに関する答えを答えてもらうといった授業形式をとることで、学習者の興味対象や能力を教師が知ることができ、かつ学習者の知的好奇心を高めることができる。また、科学に関する問題を教師がいくつか提示し、希望のテーマを選んだ学生者同士が集まり、グループとなって解決法を考えるといった授業形式をとることで、学習者の学習意欲の向上などが望める。

具体案A 入試制度の見直し
 上に述べたように、現在の日本の入試制度である系統学習が及ぼすインプット学習の評価だけでは、研究者や企業家になるために必要な独創性を養うことはできない。よって入試制度を見直し、アウトプット型の科目を試験科目に加えるべきである。受験者には基礎科目としてインプット型の試験を行い、アウトプット型の試験では予め問題を提示し、それに対する答えを論文形式で受験校へ提出する方式をとる。例えば大学受験で工学部を志望の場合には「○○をつくるにはどうしたらよいか?」など、抽象的な内容を与えることで受験者の創造力を評価することができる。

問題点
 しかしながらアウトプット学習には問題点がある。それはアウトプット学習考案の元となったアメリカの教育学者ジョン・デューイが提唱した問題解決学習の問題点でもある。それは、学習者が感じている問題を出発点にして、その問題を解決するための過程を学習過程としている問題解決学習では、学習者中心の授業形態であるが故に、教師の立ち位置が難しく学習の管理が難しくなることや、専門的知識を持たない教師では、例えば科学的な問題に対する答えに明確な回答ができず、理論的な面が疎かになる、実現性があるかといった判断が難しくなる1) といったことである。

解決案@ 専門家との連携強化
 アウトプット授業で出されたアイデアが有意であるか、特別教師としてその分野の専門家を招き、回答を伺う必要がある。若者の理科離れは産業界にとっては危惧すべき問題であり、例えば、産業競争力懇談会(COCN)は「子どもたちの理科離れ」への対応活動として、COCN会員である三菱電機やキャノンなどは理科授業と題して、小中学校、高校のカリキュラム内での授業として実験や実習を行っており、またNECはNECガリレオクラブと題して実験工作教室を開催しており2)、アウトプット授業に関しても積極的な参加が期待できると思われる。

解決案A 教師育成の強化
 また、若者の学力低下とともに教師の指導力不足も問題視されているのが現状の日本である。思考力を鍛練するアウトプット授業では、教師も学習者の答えを吟味し、評価する能力を持っていなければならない。また、学習者に知的好奇心や学習意欲を向上させる問題を与えるためにも、教師は常にアイデアを出し続けなければならない。教師が創造性に乏しい者では、学習者はやる気をなくし、理科離れは進行するだけである。指導者である教師には、幅広い知識と創造性の習得させることがアウトプット授業の成功には必要である。 そのためには、例えば京都大学で2012年4月に開設予定の企業や官公庁などでリーダーとして活躍する人材を養成する全寮制の学寮型大学院3)などのように教師の幅広い知識と創造性の習得できる機関などを創設する必要があろう。

まとめ
 現代社会の問題である若者の理科離れは、インプット学習中心の日本の教育制度によって、考えるという機会が減ったこと、勉強とは苦しいものであるという風潮が芽生えてしまったのが原因ではないだろうか。アウトプット学習とは、問題を見つけその解決法を見つけるまでのプロセスを構築する練習法であるが故に答えやその評価方法が曖昧で、学習者の自信を喪失する可能性もある。しかしながら難問にぶつかり、艱難辛苦しながら解決法が見つけ出したときの心地よさは、これまでの苦労など吹き飛ぶほど心地の良いものである。このときの気持ちは学習意欲の向上に繋がり、理科離れ解消の道標となるであろう。

おわりに
 高専(高等専門学校)卒業生の私にとって、高校1年に相当する時期から5年間専門科目を学べたことは、専門科目への学習意欲を向上させるいい機会であった。元々私は科学が好きだったというわけではなく、高専に入学したのも就職率がいいからなど、漠然とした理由しかなかった。
 しかし、高専時の授業に特別実験というものがあった、これは学生がグループとなって実験テーマを決め、その実験結果を文化祭で発表するという授業内容だ。私のグループが決めた内容は高分子化合物の開発である。文献を探して合成法を調べ、実験し、失敗の連続であったが、実験最終日で成功したときの感動は今でも忘れられない。このようなアウトプット授業は、私に考えることの楽しさを教えてくれ、編入学という入学時想像した未来とは違う道を与えてくれた。
 理科が嫌いな子のなかには、素晴らしい科学的思考力が眠っている子も多くいるだろうと思う。そのような子供達には私が経験したようなアウトプット授業を通して学ぶことの楽しさ、考えることの楽しさを体感してほしい。そして大人になった彼らと、人間を豊かにするアイデアを共に生み出すことが私が描く理想の未来像である。

【参考文献】
1) 新学社(問題解決学習における指導の評価)
http://www.sing.co.jp/school/practice/forum22-2.html
2) COCN(成長を支える人材の育成に関する研究会)
http://www.jfes.or.jp/topic/topic20100822_sympo20100515_lecture24.pdf
3) 京都新聞
http://www.kyoto-np.co.jp/top/article/20101227000060