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2010年(第12回)

【特別賞】
沖縄から、科学技術の源について考える
沖縄工業高等専門学校 生物資源工学科 5年
具志堅 央
具志堅 央

<はじめに>
 2010年、FIFAワールドカップサッカー南アフリカ大会で日本代表は予選リーグから劇的な試合を続け、見事ベスト16という成果を挙げた。これは私たちにとって、マスコミ報道の内容や放送された練習試合の結果からは予想することが難しい勝利と喜びであった。このことから改めて考えさせられたのは、私たち技術者も周囲とのコミュニケーションの中で、困難な課題に対して解決策を見つける技術者としての目とそれ以上の努力が必要であるということだ。そのおかげで科学技術は、常に発展を続けてきた。そして、さらに発展していくものであろう。ゆとり教育がなくなり、教科書は改訂された今、より深く科学技術に触れる機会が増えたといえる。
 技術者の卵は技術者としての力を磨き合い、様々な発見が生まれてきている。そのため、技術者の1つの発見が次の大きな発明に結びつき、産業界だけでなく社会全体の発展・活性化に繋がる。それは、やはり技術者の毎日の努力が土台となって積み上げられている成果なのではないだろうか。日本の花き産業でも農業としてではなく、科学技術の面から捉えることが出来る。

<日本の花き産業>
 花き産業(生産者、輸送業者、市場、小売業者)は経済取引規模(最終購入者価格)で約9400億円となっている。この値としては酪農と同程度であり、他産業では運動用品が同程度だ。花き作付面積は全農業作付面積の0.8%にあたる3万6千ヘクタールにすぎないが、花き農業従事者数は全農業従事者数の7%にあたる24万6千人、花き産出額は農業総産出額の5.8%にあたる4800億円となっている。世界の各国の国と比較してみても、日本の花き生産額は縮小傾向にあるものの世界第3位となっている。
 しかし、切花一人当たり消費額は、1位のスイスの3割程度で多くの先進国を下回っている。これは、園芸用品を購入しないという園芸離れが加速していることを意味している。さらに30代未満〜40代の若い世代ほど園芸離れが進んでいるという。この問題は花き産業を根本的に考え直す必要性がある。そのため、消費者に対していかに良い付加価値をつけた花きを販売するかが論点となっている。そして、食料品のように毎日の生活に必要なくらい癒しとしての位置付けが出来ると良いと考えられる。 また、キクだけで考えてみると冠婚葬祭のイメージを覆し、普段から花瓶に飾ってキクの花としての美を楽しむ方向へシフトする必要がある。花の業界はどこへ行っても、厳しい、という発言が多いようだ。日本でもその傾向はあり、現在でも花きが大変厳しい状況が依然として続いている。新聞等での報道にもあったが、2009年度が4,050億円の取扱高、約10年前では6000億近くまで上り詰めていたが、2000億近く下落してきている。

<現在のキク開発>
 一般的に、作物の新品種の開発には長期間を要する。なぜなら植物は、倍数体を形成しやすく変異が出る特徴があるが、生育に時間がかかる。そのため、キクは開発に6年以上要するという報告がされている。
 また、新品種の作出方法としてはファミリー内での細胞融合、目的遺伝子導入したウィルスの感染、化学物質やイオンビームによる変異などが挙げられる。さらに、植物細胞のプロトプラスト化から植物体再生の割合も1.5%前後と低い。そして、生育に長期間かかるなど植物ならではの問題点がある。そのため生育期間の短縮化や育種効率をあげることが新品種を開発する上での課題として出てきている。
 2010年8月3日に発表になった中部電力と広島大学の共同研究によって品種改良されたキクの販売が開始された。この品種は、キクとして今までに無い香りがするという特徴があり、シックハウス症候群の原因ともいえるホルムアルデヒドの浄化能力や大気汚染の原因となる二酸化窒素の吸収能力に優れており、環境浄化植物としての機能も期待できるという。2001年から研究を始めて10年目の快挙であるという。大きな流れとして、無菌苗を製造後に有力な株から交配を開始し選抜、交配を繰り返し行うという地道な努力から開花したものだ。愛知県はキクの生産量が全国で1位となっており、そのほとんどが電照ギクである。そこで、キクの生産が電力消費の上昇、地域の活性化に繋がることに注目して電力会社で研究を行った。キクとして香りも楽しめるという非常に付加価値の高い商品であるといえる。日常を楽しむための花として、キクが大きく成長したと考えられる。

<私の取り組んでいること>
 沖縄の素晴らしい亜熱帯の環境には数多くの科学で解き明かす謎や科学で解き明かされたことによって画期的な製品・技術として使われているものもある。そして私は現在、キク科植物において沖縄県で栽培されているキクとの細胞融合による新しい品種開発を目的とした卒業研究を行っている。研究の目的としては、沖縄県の花き生産はキクが主であり、2008年の県内の産出額の順位でキクはサトウキビ、肉用牛、豚に次ぐ第4位となっており、金額としては90億円にも上っている。さらに沖縄県のキク生産は日本全体でみても愛知県に次ぐ第2位になっている。そして沖縄県が愛知県と異なる点としては電照ギクだけでなく、通常の土壌に植える露地電照栽培が数多くみられるという点だ。それにより、開発した品種が北部ではきちんと生長できていても中南部では生長が良好でない場合もあるようだ。そのため、沖縄県での新品種はその土地の土壌などの環境にあった品種が必要とされており、本州とは異なる難しさがあるということも実際に知ることが出来た。
 そして研究を進めていくうちに私が直面した問題としては、プロトプラスト化の効率が報告されている論文のように高くなかった点である。それは、プロトプラスト化のための処理に使用する酵素の種類を強力なものに変更することや脱気を行い細胞内への酵素の浸透を促すような流れを追加した。それにより、研究を始めたばかりの頃にはほとんど見られなかったプロトプラストの丸い細胞を顕微鏡で確認することが出来るようになった。現在は、プロトプラスト化とその精製の効率を上げることを目標としている。

<終わりに>
 4月から卒業研究を開始して半年が経過したが、学生実験からは想像もつかないほどの一人で実験を行う難しさや様々な問題点にぶつかってきた。それにより、研究というものが想像していたのと同じ速度で進むことが無いことを改めて実感することが出来た。そして、まだまだ発展途上な私や技術者の卵は、周りと関わりあいながらも自分の努力次第で研究精度も自身の技術も大きく変化していく。
 これから研究を進めていく中で、今までの高専生活で得た実験技術や知識を最大限に活かしながら、1つ1つの失敗から成功に向かせる努力を忘れないようにしていきたい。また、卒業研究の1年間の研究として考えずに、自分の納得のいくように取り組みたい。そして将来、花の形や色が新しく、沖縄県全域で生育効率の良い利点をもったキクの品種を開発したい。そのことで沖縄県だけでなく、日本全体の花き産業の活性化に貢献できる日が来たら、この上ない喜びである。
 “努力が必ず実るわけではない。しかし、成功した者は必ず努力をした。”この言葉を忘れずに、これからの研究人生、技術者としての目を養いながら歩んでいきたい。

【参考文献】
中部電力 アロマム
http://www.chuden.co.jp/corporate/publicity/pub_release/press/3088766_6926.html
行政法人統計センター
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/eStatTopPortal.do