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2010年(第12回)

【優秀賞】
動画共有サイトを利用した理科教育
大阪大学 工学部 応用自然科学科 3年
安本 周平
安本 周平

1.日本の将来と理科離れ
 日本は天然資源が乏しいため、外国から資源を輸入し、工業製品を輸出することで経済的に発展してきた。日本がここまで発展できたのは世界に誇る科学技術を持っていたからだと考えられる。今後も発展していくためには他の国に負けない科学技術を維持・発達させていく必要がある。しかし、日本では若者の理科離れが問題となっており、実際に理工系の大学への進学者が年々減少している。これは将来を担う技術者が減少していることを示しており、この状態が継続すれば日本を支える技術者が今以上に不足してしまうことになる。日本が今後も技術立国を実現するためには、小中高校生が科学について今まで以上に興味を持つ必要があると考えられる。私は子供たちが持続的に科学に興味を持つ手段としてインターネットの動画共有サイトを利用した理科科目の自主学習方法を提案する。

2.動画共有サイトを利用した理科科目の学習
 私は今年度、大学で分析機器に関する講義を受けた。講義の大半はテキストを読んだり先生の話を聴いたりするだけであったが、時々、動画共有サイトYou Tubeに投稿されている分析機器に関する動画が紹介された。そして半年の講義の最後には大学の研究室で実際にどのように機器が利用されているのかを見ることができた。実際に動いている分析機器を見ることで分析機器の働きや構造をすぐに理解できた。しかし、インターネットで動画を見るだけでも機器の構造や動作理論など様々なことを学ぶことができ、大変参考になった。
 百聞は一見に如かず、とは言うものの教科書に記載されている全ての実験を一人の児童・生徒が実施することはできない。しかし、実際に体験できない実験でも動画を見ることでより深い理解が可能となる。私は子供の理科離れを抑止するために動画共有サイトを利用した理科科目の自主学習方法を提案する。
 理科離れの原因は何であろうか。理科離れが進む要因としては学習指導要領の変遷による授業時間数の減少,詰込み型の受験勉強,社会環境の変化などが考えられるが、何が主だった要因であるのかは分からない。私は子供たちが科学の楽しさに触れる機会の減少が理科離れの大きな原因となっていると思う。授業時間の減少や受験対策のための勉強時間が増えたため、学校での科学実験の時間は減少傾向している。科学の授業は実験時間が減少すると、教科書に出てくる現象をただ暗記するだけとなり、ただ苦痛なだけの科目となってしまう。また、暗記するだけとなれば、観察結果から理論的に考察を導き出すという科学的な思考方法を獲得することができなくなりさらに理系に対する苦手意識が大きくなってしまう。
 日本のインターネット普及率は75%を超え、4人に3人以上がインターネットを利用している。十数年前までは、ほとんどの利用者がインターネットを情報の検索だけに使っていたが、最近になって情報の検索に加えて情報の発信をインターネット上で行うようになってきた。インターネットを利用することで世界中の人たちに自分のことを簡単に伝えることができるようになった。世界で一番多く利用されている動画共有サイトであるYou Tubeでは毎日大量の動画が公開されている。その中には企業の広告や個人の趣味に関するものまで幅広い種類が存在する。You Tubeを利用することで世界中の人たちに自分が考え・感じることを簡単に発信することが可能になった。
 You Tubeで「科学 実験」というキーワードで検索を行うと約1,910件の動画が、「science experiment」で検索すると約43,300件の動画が表示される。表示された動画は科学実験に関する面白くためになるものである。実際に検索してみると分かるが、英語で検索したときの方がより実験らしい動画が見られる。例えば高校化学では「アルカリ金属は水と激しく反応する」と習うが、実際にこの現象を高校の実験室で見ることは難しく、教科書を読んだだけではすぐに忘れてしまうだろう。ここでYou Tubeで動画を検索する。 すると、ナトリウムやカリウムといったアルカリ金属を水と反応させている動画が表示される。アルカリ金属は水と触れた瞬間に発火し、そして最後には大きな火柱を出して爆発する。この衝撃的な映像を見た場合と、ただ単にテキストを読んだ場合とでは前者の方が確実に記憶に残ると思われる。このように教科書には載っているが、施設や時間の関係で実験が困難な内容に関しての動画を見ることができれば理科科目への理解が深まる。以下に動画共有サイトを利用した理科教育の方法について述べる。
 学校での実験風景を撮影し、You Tubeなどの動画共有サイトに投稿する。実験の詳しい内容や・実験者の考察などをテキストファイルとして貼り付ける。他の学校の生徒はその実験結果を参考にして自分で考察を考える。実験者と他の生徒で考察したことに違いがあれば、動画にコメントを書き込み話し合う。新しい仮説が生まれれば再度実験条件を設定し、再実験をする。
 このように実験内容を共有することで自分が行ったことがない実験に関しても単に教科書を読むだけに比べて理解が深まる。さらに、考察の違いが生じれば新しい仮説を立て、それを証明するための実験を設定し再実験するという発展的な学習も可能となるかもしれない。この学習方法では施設的・時間的に実験の実施が困難な学校の生徒でも実験を見ることができる。また、情報を共有することで論理的な考察力やコミュニケーション能力、実験を計画する力など理系として必要な能力を鍛えることができる。さらに英語で動画を紹介すれば、全世界の学生と実験の映像を共有することも可能となり、さらに知識の幅が広がると思われる。このようにインターネット上の動画共有サイトを活用することで理科科目の効率的な学習が可能となる。加えて、興味を持った生徒はさらにたくさんの情報を得ることが可能となる。理科科目を担当する教員も実験の準備にかかる時間を低減することができるため、きめ細やかな指導が可能となるだろう。
 この学習方法ではインターネット上で情報を共有するので、インターネット特有の問題点が発生する。第一に悪意の有無にかかわらず科学的に間違った情報が生徒に伝わってしまう可能性がある。第二にインターネットは匿名性が高い世界であるので議論が過熱することで悪口や中傷的な発言が出てくる可能性がある。これらの問題はインターネット全体の問題であり、この学習方法だけの問題ではない。インターネットの利用の際には教員の指導が必要となるかもしれない。動画のアップロードやコメントの書き込みは生徒の意見をまとめた教員が代表して行うことで問題は解決されると考えられる。

3.まとめ
 日本全国すべての小中高校生が教科書に書かれている科学実験を体験することは現実的に不可能である。しかし、他の学校で実施された実験の動画を共有することで教科書だけの場合よりも深い理解が可能となるだろう。日本全国には100校を超えるハイパーサイエンススクールが存在し、理系科目に重点が置かれた教育が進められている。このスーパーサイエンススクールで実施された実験をインターネット上で公開すれば多くの種類の実験を共有することができると考えられる。お互いの実験を見せあることで実験内容の改善・充実にもつながる。また、高校までではできなかった実験でも大学への進学後に可能になる実験がある。このような動画をインターネット上で共有することで世代を超えた理科教育も可能になると考える。実際にYou Tubeで公開されている動画の多くは外国の学生が作製したと思われるもので、日本語のコンテンツはまだまだ少ない。今後、どんどん動画の数を増やし理科離れを抑制することで、日本が目指すべき技術立国に近づくことができるだろう。

【参考文献】

総務省ホームページ 2009年通信利用動向調査 http://www.soumu.go.jp/