過去の入賞論文
・2016年(第17回)
・2015年(第16回)
・2014年(第15回)
・2013年(第14回)
・2012年(第13回)
・2010年(第12回)
・2009年(第11回)
・2008年(第10回)
・2006年(第8回)
・2005年(第7回)
・2004年(第6回)
・2003年(第5回)
・2002年(第4回)
・2001年(第3回)
・2000年(第2回)
・1999年(第1回)






























































































2010年(第12回)

【入賞】
融合領域の成長の意味を問う
東北大学大学院 医工学部 医工学研究科 修士課程1年
西川 貴菜
 

 最近学問の融合がブレイクスルーとして非常に注目されています。異なる分野と異なる分野の融合は革新的な技術や学問体系をこれまで生み出してきました。しかし、融合を進めるにあたって様々な障害が生じているにもかかわらず、その根幹を見つめようとせず先に進もうとしている現実が存在しています。その現実を今回、医工学という分野を例示し、日本の企業、大学が今、何をすべきかについて意味を問い、学問の一分野として大成していくために融合分野に何が必要かという意義を提案します。
 最初に、医工学という分野に関して端的に説明します。医工学とは、文字通り医学と工学が融合することによって、現在使用されている医療器具の向上を目指す分野です。現在の医療器具の改良は工学だけでは限界があります。その理由は、医療器具を体に入れることを考えている人工臓器やカプセル型内視鏡の様な診断器具など、医療器具が小型化、体内に入れるものの開発を進めているからです。他にも、研修医の訓練用の模擬血管や内臓の開発や医療診療のための3Dの測定器の開発に関しても医療器具の開発に医学の知識の必要性が上がってきています。
 けれども、現在の医工学は工学が医学に擦り寄っているだけであって、主に工学系の人々しか医療器具の開発に着手していない現状が存在します。医工学と言いながら、工学が主導してこの分野の発展を進めているのであって医学が入り込む隙がないのです。つまり、工学の分野が医学の研究に関して、医学の表面的な要素しか使わず研究を進めている現状があるのです。では、どうして工学が医学に擦り寄っているような医工学の研究がいるのかその原因を検証します。一番の原因として考えられるのは、医学と工学には学問の成り立ちが大きく違うという点を考慮していないという問題点が存在するからです。つまり、医学と工学は同じ理系の科目にもかかわらず、性質は大きく異なります。何故なら、医学は生物的な思考を中心に成り立った学問体系として存在し、工学は物理、数学的学問を中心として成り立っているからです。具体的に実験を挙げて学問体系の性質の違いを検証してみます。医学的手法として、タンパク質の分析をウエスタンブロット法で解析実験を行ったとします。実験を行う方法は確立されており、実験に使用する試薬、実験方法は確立されています。ウエスタンブロット法を使用してタンパク質を検出できた事実から、細胞内に存在しているシグナル伝達の存在の有無を考察します。医学的実験は、実験結果を帰納的に考えることによって論証して構築された学問なのです。対して、工学の具体例をあげると、模擬血管を作成し流体を流し拍動を与えた条件でその血管壁の歪みを測定する実験系を行うとします。この実験を行うに当って重要なことは、実験に使用した実験の条件が確立されていないため、実験を行う条件がとても重要になります。そして、行った実験結果から何が条件として足りないかを考察します。どうすれば、より良い条件で実験が可能か、必要なデータを取る要因は何が必要かを改良していきます。つまり、工学は実験結果から演繹的に改良を重ねて構築された学問なのです。
 この大きな違いは同じ現象を見る視点に大きな違いを生じさせます。ある人間が血管に狭窄が生じて手術が必要か必要じゃないかに関して判断を下す状況を仮定します。医学的に狭窄という現象を考えていくと、狭窄の幅を見るのではなく、狭窄を生じた人間に関して調べます。患者のコレステロール値や生活習慣、胸の痛みから狭窄が生じている状況から判断します。
 対して、工学的な視点から狭窄という症状を考えてみると、血管の直径が何ミリでどのような血流が生じているかを考え本来の血管の直径から算出し手術の必要性を考えていきます。要するに、血流の量から何%減少したから狭窄が生じているかといった視点で考えます。
 しかし工学的視点の大きな問題点は、何%の血流が減少したかによって狭窄を定義しても、世の中の全ての人間が狭窄で手術が必要とかと言えばそうではないのです。人間には個体差があり、人間自体が胸の痛みを訴えない限り手術の必要がないのです。人間や生物は常に変化をしています。体の心臓の拍動や代謝も時によって変化します。今の工業的手法では工学的で使用している物理的な理想状況はほとんど存在しないのです。生態は常に変化している事実を考慮していない現状があるのです。
 この様な医工学の現状を打開するために何をすべきか、まずは医療器具の開発は工学系の人々しか開発できないという現状を変えるべきです。それは医療器具の開発職の採用分野を拝見してみると判明します。ほとんどの企業は、工学系の分野である機械、電気、情報等の分野名が並んでいます。確かに、機械を作るのならば工学が出来る方が大いに必要なのはわかりますし、企業のも即戦力が必要な現状もわかります。
 しかし、本当に医療器具を開発するのに工学系だけでは意味がなく、むしろ作った器具を使用するのは医学系の方々です。使用する人と医療器具の開発者が同じ学問体系を学んだ人がいるのであれば、医師の側もより使用しやすい物の開発が出来る利点があります。さらに、就職の条件で求められている条件が工学系の学歴しか求めないのならば、工学のみを学ぶことしか選ばない学生の人数が増加すると考えられます。その人間が、企業に入社し医療器具の開発をすることの繰り返しが続くことは融合の妨げになっている一因になっていると考えられるのです。
 次に大学に対して提案を行いたいと思います。大学は現在研究の最先端の医学と工学の融合を引っ張っている機関です。ここで私が提案したいことは、2点存在します。まず始めに、医学と工学を融合させるにあたり、先ほど医学と物理は相反する性質を持っていると述べましたが、ただ単に無理やり融合させるのではなく医学的考えと物理的考えの両者の融合に成功している学問の利用を積極的にすることです。その学問は、化学です。生物を分子レベル的に分析して脂質の分解などの生体反応の解析に成功した生化学、分子の物理的挙動の解析、物質の構造計測を明らかにした物理化学という学問体系が存在します。このほかにも、化学は工学と適合性が良いだけでなく医学を学ぶにも違和感なく双方の学問の知識を取り込むのにとてもよい役割を有します。例えば、生態の神経細胞伝達や生体分子の情報伝達で生じる電気刺激は化学分子から生じます。けれども、神経伝達物質を化学物質で見た薬理学と大きな共通点があります。何かを医学的な分野を吸収するのに必要な土台として化学は大きく役に立つのです。
 もう一点は、現在研究に携わっている方々が自分の専攻以外の学問を有している方を迎えるのに重要なのは、我々の常識を学んでから学んだことを活かしてくれという姿勢ではなく、専攻以外の学問と現在の専攻の共通点を見つけ共に育てていく姿勢が何よりも必要なのです。現在の研究で融合を進めるのを妨げている一番の要因は知識だけを手に入れようとしている姿勢です。既存の学問体系を威圧的に押し付ける形を進めていくと双方の知識の違いが目立ち融合ではなく反発が生まれる要因になります。この様な亀裂を生じさせないようにするためには、本や論文で知識を吸収するだけでなく人との交流が重要なのです。これから必要なのは、異なる分野の人の交流を活性化し、双方が歩み寄る姿勢なのです。
 融合分野を成長させるのに必要なのは、社会においてその存在意義を見出す居場所を与えることと、互いに歩みよる真摯な行動から生まれるのです。