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2010年(第12回)

【入賞】
豊かな科学技術を生かす産業化の促進
大阪大学 工学部 応用生物工学科目 3回生
中村 匡
 

1.序論
 私の所属する応用生物工学科目は、3回生の終わりに4回生の際に所属する研究室を決定する。この時期各研究室を見学し、研究内容の説明をうけ研究室を決定する。この際、「役に立つ研究かどうか」という視点で研究室を選ぶ傾向があるようだ。何が役に立つ研究なのかというのは難しい問題である。産業化まで至らなければ、どのような科学技術も多くの消費者の手には届かない。しかし、必ずしも研究室レベルでうまくいていることが、産業レベルでうまくいくわけではない。
 一方で、日本の産業力や科学技術力が衰えているという話も耳にする。この原因の一つとして、研究開発を利益に結び付ける能力の低さがあるという。特許の登録件数では、世界一位なのだが、研究開発効率は、先進諸国中では低いのだ。1) 高いレベルでかつ多様な科学技術力を有効に活用できていないのだ。
 以上を踏まえて、今回、日本にとって重要な科学技術力を産業レベルで十分に生かすためのシステムの提案を行う。

2.科学と技術と産業
 まず、簡単に整理しておく。科学とは、様々な方法を駆使して、新たな知を創出することをその課題とする。技術は、知を駆使して、ある目的を果たすために用いられる方法を作り出す。この技術を作り出す過程を研究開発だと定義する。産業は、広く製品・サービス等を社会に分配する行為をさす。現代では、各種産業によって国民は収入を手にし、生活に必要な物資を手に入れているのだ。逆をいうならば、どんな優れた科学技術力も産業化されなければ、多くの人の役には立たないし、利益も生み出さない。科学技術を産業化することによって、国民の生活を改善し、安定した生活を実現することができる。

3.研究開発と産業化
 ある科学技術が、産業となるには、多種多様な問題を解決する必要がある。その科学技術に基づいた生産活動が、採算のとれるものである必要があるし、社会的ルールが十分に整備されている必要があるだろう。さらに、安全性と安定性の保証も必要である。これら技術的困難を満たしたうえで、社会にその製品の需要が存在する必要がある。
 たとえば、バイオエタノールなどの実用化も、産業化に至る技術的困難の克服の難しさを物語っている。原材料の確保の問題や、エネルギー収率の問題など、いまだに解決すべき問題は多い。実際に技術的困難を克服したのに、需要がなかった製品の例としては、GABA醤油がある。GABAブーム時代に製作されたが、あまり需要が伸びず製造中止となった。安定した産業となるには、多種多様な問題を克服する必要がある。
 加えて、最近は、製品のライフサイクルが短くなったことや、ニーズの多様化など、市場の質の変化も起こり、ますます研究開発と産業化の成功が重要となっている。
 研究開発と産業化のリスクを個人、企業、国などがそれぞれ単独で抱え込むのは難しい。しかし、やたらと資金を投入すればそれでこの問題が解決するわけではない。ただ人と人の関係性を作り出せば新しい産業が生まれるわけではない。必要なのは、問題を解決する人材と技術を作り出すことである。

4.産業化を促進するための産業化に特化した研究機関
 困難な産業化を実現するには、研究開発後の成功後の様々な問題の解決と、そもそも産業化に向くかどうかの正確な判断が必要である。これを実現するための総合的な研究機関を設立することを提言する。この研究機関では、産業化の実例を研究し、実際に多方面と協力し産業化の実現を補助する。また産業化の過程で活躍できる人材を養成する。この研究機関は、企業などのオープンイノベーションの仲介や、海外への研究開発拠点の進出の促進を補助し、必要な社会ルールの基盤の提言を行う。さらに、産業化に向く研究開発の傾向を調査し、方向性を示すことができるだろう。この機関が実現することにより、効率の良い、多様な産業化が実現するだろう。

Fig 産業化研究機関の働きの概要

5.多様な科学技術の産業化に成功した未来の日本
 この機関が働くことによって、研究開発のリスク分散が実現するので、研究開発が促進される。iPS細胞に基づく再生医療のような、大量生産大量消費に向かない科学技術や、実際には産業化されていないナノテクノロジ―など日本が先行している科学技術の産業化が実現すれば、大きな利益となるだろう。日本の産業の競争力があがり、さらに研究開発の方向性の模索も効率よく進むだろう。市場の縮小と製品ライフサイクルの低下にも対応できる。豊富な科学技術を有効に利用し、社会の利益につなげることができる。産業化を通じて周辺科学技術も発達する。日本は、産業化の成功とさらなる科学技術の発展を実現することが可能になるのだ。

【参考文献】
1)

みずほリポート 日本企業の競争力低下要因を探る~研究開発の視点からみた問題とその克服~