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2010年(第12回)

【入賞】
深海調査と日本
国立沖縄工業高等専門学校 情報通信システム工学科 5年生
田場 俊宏
 

1.深海調査の必要性
 近年、宇宙開発に向けて各国が本格的に計画を進めている。アメリカでは2024年までに月面に国際月面基地を各国の協力により建設を開始しそれを拠点に,2030年までに火星への有人飛行計画を企てている。インド・中国では月面への資源調査のために嫦娥計画やチャンドラヤーン計画などに本腰を入れている。これらの計画の主旨は月面には有用な鉱物がどの程度あるのか不明な点も多いが,チタンを含む「イルナイト」などの存在が知られている。核融合発電の燃料に使えるヘリウム3ガスも豊富だとされている。これらの資源がどの程度採掘できるか調査するためにサンプルリターンをするということにある。わが国日本においては,2003年から2010年にかけて,世界初となる月周回範囲外で公転している小惑星へのサンプルリターンの計画を終了し,2014年以降に再度小惑星へのサンプルリターンを計画している。[1]
 宇宙開発に本格的に力を入れている人類ではあるが,果たして地球のことについて把握した上で宇宙への進出を計画しているのだろうか。15世紀より始まった大航海時代,数々の山岳測量による地形測量,1800年代後期より始まった南極調査,人工衛星の発達による地表分析により地球はくまなく調査されつくされ新しい発見の可能性は極めて低くなった。しかし,地球上では未開の領域がこの時代にも存在する。それは深海底となるだろう。深海の定義は海面から水深200m以深を示しており,この領域より日光が届きづらく植物の光合成ができないため生物の存在が少なくなる。海洋学では深度2000m以深を示す。地球の海の平均水深は3729mとなっている。宇宙空間からの緻密な探査はできないだろう。また,深海に向けて深海調査船で潜ることにより地上や宇宙では知られていない新たな発見がある。[2]
 今日,地球の資源というのは化石燃料やレアメタルといった鉱物資源であるが,産業革命以降の過多な発掘により枯渇することが懸念されている。資源を再利用するシステムを普及させるにも大変な労力と時間がかかるであろう。地球外への資源採取をするにしても大掛かりなプロジェクトを組み,多くの時間を浪費する。深海にはまだまだ解明されていない資源鉱山が眠っているとされている。地質学においては,鉱物や化石を含む地層がどのような歴史を経てどのような環境,物理・化学条件で形成されてきたのかに注意が払われてきている。
 現在宇宙空間で生物が確認されているのは地球のみである。ではこの地球における生命体がいったいどのようにして地球上で繁殖してきたのか。そのルーツをたどるとすべては海洋の生物が起源とされており,深海はこの進化の過程において最も原始的な形で現在まで残った生物が多いとのことだ。
 つまり,海洋・深海探査を行うということは地球の鉱物・生命の起源を調べるということにもつながることになるだろう。宇宙探査において日本は米国やロシア,中国と比較するとあまりさかんではないが海洋・深海調査はどの水位に達しているのだろうか。

2.日本の深海調査
 深海調査船は強力な水圧を均等に分散して耐えられるように,乗組員が登場する船体前部は真球に近い形で設計されている。搭乗員は3名でうち2名(または1人)が操縦者,1名(または2人)が研究員となっている。船体前面には投光器,撮影用カメラ,2本のマニュピレータ(遠隔操作用作業腕)が装備されており,これで深海の調査・標本採取を行う。船体の大部分は投光器に用いられる蓄電器や浮力材などで覆われている。
 世界にはさまざまな深海調査船がある。1970年代までは各国で有人潜水調査船の建造がされていったが,1980年代以降より遠隔操作無人探査機の性能が向上した。これにより有人潜水調査船の数は減っていき,現在有人で潜水可能な深海調査船を所持している国は,日本,フランス,米国,ロシアの4国となっている。
 日本は島国である。古くから海洋調査に対して積極的に活動を行っていたようである。 日本には世界に誇るべき潜水調査船がある。それは「しんかい6500」である。この潜水調査船しんかい6500は現存する有人潜水調査船の中で最も深く潜ることができ,2007には1000回の潜航を達成しており,潜航開始よりいまだに無事故潜航となっている。[3]
 このような有人潜水調査船は日本では1969年に建造された「しんかい」が始めて本格的に潜水調査を行っており,当時の最高実用深度は600mとなっていた。主に日本近海での調査を行っており,1977年まで海洋調査で業績を上げた。4年後の1981年には「しんかい2000」が後継機として潜水調査を行う。最高実用深度は2000mとなっており海洋学で定義する深海の領域までの調査が可能となった。2002年までに1411回の潜航を行い,20年にわたった運行は終了した。そして1990年に「しんかい6500」が運行を開始し,日本近海のみならず太平洋、大西洋、インド洋等で、海底の地形や地質、深海生物などの調査を行っている。

3.深海調査で明らかになったこと
 しんかい6500は日本近海のみならず,海外では主に5箇所で潜航を行った。本稿ではそのうちの3つ紹介しよう。
 はじめに図1に潜航を行った海域を示す。図1の(1)ではインド洋において人類初となる潜航を行った。インド洋中央海嶺は地球上で最も低速で拡大する拡大軸の一つである。図2に拡大軸の近くで発見されたアトランティス海台のメガムリオンと呼ばれる地形を示す。この地形では断層の下側の近くがもう一方の地殻に乗り上げ,地殻の深部やマントル上部を直に観察できる場所となっている。
 次に図1の(4)の東太平洋海膨では活発なマグマの活動が見られる。図3に熱水をあげるブラックスモーカーを示す。しんかい6500は長期にわたって観測を行い,熱水活動の衰退変化や時間変化を明らかにした。
 また,図1の(5)のハワイ周辺の海域で,地球最大の火山崩壊の現場を観測することができた。図4にその様子を示す。崩壊した現場は島の 沖合約100kmにおよび,島の自重で直下の地殻が凹み,その影響で周辺が盛り上がる構造も確認している。
 これらの発見により今まで完全に把握することができなかった地震,火山活動,地殻変動のメカニズムをさらに明確に分析できるようになった。実際に観察することにより,机上での予想が本当にあっているか確かめることは非常に大きな進歩となるだろう。

図1. しんかい6500が潜航した海域
図2. メガムリオン
図3. ブラックスモーカー
図4. 火山の大崩壊

4.これからの深海調査
 しんかい6500は運行開始より20年たった。日本はこの限界水深である6500mを超えるべくさらに深い11000mへの調査を計画している。現在中国で水深7000mを潜航できる有人潜水調査船の開発が進んでいるようだ。日本はこの20年間6500mを潜水調査するに当たって無事故で調査を行うことができた。この技術力を持って水深11000mへ有人調査を行う技術力はあるとされている。[4]また,これを応用して海底に長期滞在できるような施設を建設できるのではないだろうか。南極では昭和基地やあすか基地などを拠点として気候の観測を行っている。宇宙空間では国際宇宙センターなどを拠点として宇宙探査計画の中継拠点として稼動している。深海探査においては無人の基地が設置されているが,南極や宇宙空間のように有人の観測、探査用中継基地などといったものはまだ建設されていない。
 地球のことをより細かく知るということは宇宙の起源について知ることにもつながるので,身近で遠い深海について更なる探査を行う先駆けに日本が立つようになる時代が来る可能性に期待を持っていきたいものである。

【参考文献】
1.

日本経済新聞-9面 平成22年7月11日(日曜日)

2. 深海底の科学-日本列島を潜ってみれば- 著:藤岡貫太郎,発:日本放送出版協会 1997
3. JAMSTEC
http://www.jamstec.go.jp/j/about/equipment/ships/shinkai6500.html
4. 完成から20年 深海調査の歴史を開拓し続ける 「しんかい6500」
docsrv.godac.jp/MSV2_DATA/12/be102_01.pdf