過去の入賞論文
・2016年(第17回)
・2015年(第16回)
・2014年(第15回)
・2013年(第14回)
・2012年(第13回)
・2010年(第12回)
・2009年(第11回)
・2008年(第10回)
・2006年(第8回)
・2005年(第7回)
・2004年(第6回)
・2003年(第5回)
・2002年(第4回)
・2001年(第3回)
・2000年(第2回)
・1999年(第1回)






























































































2010年(第12回)

【入賞】
農業と工業の融和~精密農業~
東京農工大学 農学部 生物生産学科 2年
光山 拓実
 

<はじめに>
 Harry Harrisonの長編SF小説「Make Room!! Make Room!!」(邦題;人間がいっぱい)(1966)ならびに、それを原作にした映画「ソイレントグリーン」(1973)をご存じだろうか?過剰な人口増加により、資源は枯渇し食料生産能力は破綻した世界で、人類が人類をrecycleしてしまう(=人間を食糧に変えてしまう)という世界を描き、人類に警鐘を鳴らした作品だ。
 私は食料生産・供給というものを考える時、上記の作品の世界像は決して冗談ではすまないと思っている。
 昨今の世界情勢は食糧政策に関して大きな転換期を迎えている。食料価格が異常気象、米国のBiomass energy政策の影響により高騰したことは記憶に新しい。水資源についても獲得戦争が起こり始めている。国内ではTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加の議論も農業サイドから激しい反発があり、産業界との対立が注目されている。
 本論文では、TPP問題が例のように、対立する概念として扱われてやすい工業と農業について、対立ではなく両者が協力することで生まれる可能性について述べる。

<そもそも農業とは>
 エネルギーの観点で考えるならば農業とは「光エネルギーの固定ならびにその利用」といえる。地球全体に供給されるエネルギーの多くは太陽光由来である。それを利用する方法には太陽光発電などもある。しかし、安価であり、長く使われてきた完成されているシステムという意味では植物の光合成にはまだ及ばないだろう。つまり、植物とはantennaである。
 さらに生物はみなfactoryである。植物は光エネルギーを蓄積し、根という元素(材料)を選択的に吸収し濃縮するようなポンプをもつ、そして元素を化合物(加工品)を生産する。このfactoryで生産されるものは多様であり、でんぷん、セルロース、リグニン、多数の生理活性物質etcと幅ひろい。動物や微生物も同様に多くの物質を生産する。生物は多様な種が存在する。これの意味するところは多様な物質生産の可能性を秘めているということだ。
 すなわち、農業とは本質的には、生物(主に植物)を用いたエネルギーの固定・物質生産システムなのだ。
 キャッチされなかったエネルギーも実は農業を通して利用されている。雨や気温これらは生物の変化・成長に必要な要素である。例えば、葉っぱを花に変化させる遺伝子のスイッチを押すのも環境条件である。この環境条件は大きな視点でみると、太陽のエネルギーを原動力とする大気循環によるものだ。地球の気温・降雨を利用するのもまた太陽からのエネルギーの利用の一種なのだ。
 つまり、農業とは単なる食料生産というよりは、人間の利用可能なエネルギーの総量(パイ)を効率よく拡大する方法であるといえる。工学はそのエネルギーを効率よく運用する方法であると位置づけることができるだろう。ゆえに両者は互いに補完的でなくてはならない。
 例えば、植物はいわゆる工場と違い繊細であり、それを安定に稼働させる方法論が必要だ。その技術は従来、農学分野で主に培われてきた。しかし、今後はもっと工学的な アプローチによって植物というfactoryを高度に制御できる。その例を次に示す。

<精密農業>
 精密農業(precision agriculture)という概念がでてきた。 精密農業は「情報技術を駆使して作物生産に関わる多数の要因から空間的にも時間的にも高精度のデータを取得・解析し、複雑な要因間の関係を科学的に解明しながら意思決定を支援する営農戦略形態である」とnational research councilのレポートでは定義されている。
 もう少しわかりやすく言えば、圃場(田畑)で何が起こっているか正確に記録しながら、正確な場所に適切な作業をタイムリーに行う、トヨタのカンバン方式(just-in-time)の農業版と言われる。
 精密農業には多数のセンサーや高度な情報処理を用いる。そのため、余計なエネルギーの投入が必要になる欠点をもつ。しかし、無駄な肥料などの資材の投入をしなくて済む、安定した収量を確保しやすいという利点をもつ。
 これを究極的に推し進めると、植物の生育環境を高度に制御する「植物工場」という概念になる。生育環境を高度に制御することは大量のエネルギーの投入であり、キャッチするエネルギーと投入するエネルギーをしっかりと見極めないと意味はないが用途を限定することで全く農薬を使わない作物のような高付加価値の作物ができるなど利点がある。
 しかし、それ以上にここで提案したい最も重要な利点はエネルギーと資源の交換が可能になることではないかと思う。工学と農業の協力は単なる生産性向上だけにとどまらず資源問題を解決しうる。

<なぜ資源との交換が重要か?>
 いったん、資源の話をする。石油の可採年数はおよそ40年と言われている。しかし、石油だけでなくリンの枯渇も心配されている。リンは生物のDNAから化学肥料、歯磨き粉、セラミックなど農業、工業、医療においても幅広く使われている元素だ。陸から海に流れると沈んでしまい回収が不可になる。可採年数は数十年から150年と言われている。産出国のアメリカ・中国などはすでに禁輸措置を行っている。近年のリン鉱石価格の高騰もその影響だ。
 化学肥料がなくなると食料生産は危機的状況になる。

<工学と融和した新しい農業>
 ここで、精密農業の利点である、資源を節約できることに注目する。 例えば、電気の投入の代わりに肥料や水を節約できるということだ。
 肥料だけでなく、水も重要である。水資源が豊富な我が国では問題とされにくいが、世界の水不足は深刻だからだ。農業用水と工業用水の競合が起こるとさらにまずい。逆に、農業での節水ができると経済価値の高い工業用の水に転換することもできる。
 投入するエネルギーの問題に関しては、非食糧型biomassエネルギーによる燃料への変換技術ができれば化石燃料に頼らない方法も期待できる。
 実際はエネルギーの消費というものはマクロな視点で考える必要があるため慎重な議論が必要だが、有機農業(低エネルギー投入型)、近代農業(高エネルギー投入型)と精密農業(超高エネルギー投入型)、さらに異なる段階のエネルギー投入型の農業を組み合わせて、生産地にあった方法を選び、最適なエネルギーと物質の変換を行えば人類が争うことなく暮らせるのではないか。その新型農業を創造するには工学的なアプローチが不可欠だ。
 実際に、中間型なエネルギー投入の農業は石油関連会社である出光興産が実践している。微生物に根圏を広げさせ未利用な養分を吸収させる資材を開発・販売しているのだ。
 このように農業と工業は対立するものでなく、互いに補完し新しいエネルギー利用を模索することが必要なのだ。

<おわりに>

 21世紀の時代のうちに、国家間での壮絶な資源を奪い合いが起こるだろう。そして、第三次大戦の勃発か「Make Room!! Make Room!!」のような世界が来てしまうかもしれない。そのような事態を防ぐ方法のひとつは上記のように工業と農業の融和である。
 人類が平和に発展するには、異分野が互いにいがみ合うのでなく、ともに大きな問題を乗り越えようとすることがますます必要になるであろう。
 私の所属する東京農工大は名前の通り、工学部と農学部から成る。その身近な名前の中に21世紀を平和な時代にする鍵を見つけたと自負している。

微生物によるポンプ機能の強化の一例、これで普段は吸収できない不溶性のリンも吸収でき、 肥料投入を減らせる。

植物工場:温度、CO濃度、湿度などを高度に管理している。

【参考文献】
1)

「人間がいっぱい」
著者Harry Harrison  訳者 浅倉久志 発行日1986年 ハヤカワ文庫SF

2) 「精密農業」 渋沢栄編 発行日 2006年 朝倉書店 p2 p4
3) http://www.idemitsu.co.jp/agri/biseibutsu/index.html(出光興産の農業資材一覧)
(出光興産HPより)
4) http://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/plant_factory/index.html
(農水省の植物工場関連の資料)