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2010年(第12回)

【入賞】
アンプ製作で発見したアナログ技術を廃れさてはならないということ
徳山工業高等専門学校 機械電気工学科 4年
黒田 浩晟
 

 私の通う学校の教育目標には、感性・創造性の育成ということ掲げられていて、それを達成するために、学生の興味や関心を引き出し、伸ばす教育方法がとられている。そのために創造演習、創造製作という授業があり、それぞれ学生が自主的にテーマを選ぶことができるようになっている。
 私も1年次からこの創造教育の中で、自分の知らなかったことを新たに知ったり、新しいアイデアを考えたりしてきているが、ここでは4年の創造製作のものづくりを通して、学校で学ばなかった技術の一端を知り、日本のこれからの技術のあり方に結びつく新たな発見をしたので、そのことを述べたい。

1.アナログアンプの製作に挑戦
 創造製作の授業では、自由なものづくりが認められているが、そのベースになる技術として教えられるのは、現代生活を支えているデジタル技術であり、実際にはロボットを動かす制御技術が中心になる。私も3年次には、センサーを入力媒体とし、PICで制御するデジタル制御のロボット作りを行った。
 これらの授業を通して、デジタル制御技術を実際に使う基礎は幾らか身についたと感じていたため、4年の創造製作では、もっと自分の作りたいものを選びたいと思い、趣味のアコースティックギターを活かすものとして、アナログアンプの製作に挑戦してみようと思った。ギターアンプが欲しかったという単純な動機もあったが、デジタル技術にはない魅力を持つアナログ技術への好奇心と挑戦の気持ちもあった。
 電力効率がよく、安価で、回路も簡単といったメリットを理由に、デジタルアンプが主流となっているにも関わらず、私がアナログアンプにこだわった理由を一言でいえば、『味』を求めていたのである。
 デジタルはONとOFFの繰り返しの方形波で構成されているが、一方アナログでは連続的ななめらかな波形で構成されている。もちろん、これは信号の波形を厳密に見た場合の話であり、実際には人間の耳がこの違いを聞き取れないとされている。しかしこの違いが、アナログアンプにしか出せない、音の深みや広がりといった人間が『感じる』部分、つまり『味』を生み出し、アナログアンプを愛する人々を虜にしているのである。私はこの『味』を求め、アナログアンプを製作することにした。

2.アナログアンプは簡単には鳴らなかった
 以上のような理由でアナログアンプの製作を始めたのであるが、その回路の設計においては、各音域をどのように調節するのか、大きな出力信号を生み出すためには回路をどのように組めば良いのか、さらに、音に影響を与えるノイズはどこから発生するのかといった事柄を理解しなければならないが、授業ではこれらの音楽的専門知識を教えられないため、書籍やインターネットサイトをしらみつぶしに見ていったりした。また、その時出会った真空管アンプという存在に惹かれ、真空管に関しても自分で理解しなければならなかった。(注1)
 これらの過程を通し、設計製図や電気回路などを学び、教科書の問題は解けても、実際に回路の設計を行わなければ生きた知識にはならないということをつくづく思い知らされた。(図1)

図1. 自分で書いた回路図

 試行錯誤の末、一通り設計し、製作したが、いざ音出しをしてみると聞いていられないほど音が歪んでいた。初めてで上手くいかないことはある程度予想していたものの、やはりショックであった。アナログ技術では、計算上ではあくまで理想的な値を用いているが、理想値と実測値が大きく異なっていたり、思いがけないところでノイズが生じたり、ということは多々生じるのである。実際自分も、コンデンサ、抵抗、真空管を一つ変えても音が全然違ってくることを、身を持って経験した。
 そこからの作業はさらに時間を要した。ギターアンプには大きく分けて、ギターからの数mVという小さな信号を増幅したり、音量や音質を変えたりするプリアンプと呼ばれる部分と、スピーカーで出力できるまで電力増幅をするパワーアンプの部分とがある。このうちのどちらで歪みが生じているのかを判断するために、プリアンプとしての機能を持つCDプレーヤーからの信号を直接、パワーアンプ部分に接続する。このときにCDの音が歪んで出力されるようなら、パワーアンプ部分に、歪まないようならプリアンプ部分に問題があるということになる。
 この作業を切り分け作業と呼ぶが、自分のアンプでこの作業を行うと、パワーアンプ部分に問題があることが分かった。そして、パワーアンプ部分の中でもどこが間違っているのか、もしくはどこでノイズが生じているのかを一つ一つ調べていくのである。長年製作してきた人になると、ノイズの種類から問題箇所をある程度判断したり、切り分け作業で問題部分を最小限に絞ったりできるようである。自分のような経験のない者では到底できない熟練した技である。
 これらの作業を経てギターを繋いで弦を弾いた瞬間、きれいな音が鳴り響いた時は、今までに覚えたことのない達成感と感動を覚えた。未知の世界を苦労して潜り抜けてきた苦労の大きさだけ、感動が大きかったのだと思うが、これがものづくりの体験の大事な点だと思う。(図2、図3)

3.アナログ技術を廃れさせてはならない
 このようにして、自分はアナログアンプを自力で作り上げることができ、現代では衰退しつつあるとみなされているアナログ技術の一端に触れたのであるが、このアナログ技術の習得の過程で、実はアナログ技術の重要性が再評価されていることを知った。
 家電業界において携帯電話や薄型テレビなどのデジタル製品が主戦場となっているにもかかわらず、アナログ技術者を育成する取り組みが関連企業で高まっているというのである。デジタル部品が高性能化しても、映像・音声の品質は、アナログ処理に左右されるため、家電製品においては、デジタル回路とアナログ回路の設計一体化が急速に進んでいて、アナログ技術の重要性が見直され始めている (注2)。
 これまで、アナログ技術からデジタル技術への転換がなされて、これからはデジタル技術を知っていれば、よいのではないか思ってきた自分の常識が覆される思いであった。このようにアナログ技術が必要とされているにもかかわらず、それらの経験を持った団塊の世代のアナログ技術者が次々と退職しており、日本の中心産業の一つである電気産業の将来が、アナログ技術者の不足で危機的な状況にあることを知り、大変驚いた。
 このように、現在の日本の産業界ではデジタル技術とアナログ技術の進歩は一体となっていなければならないにもかかわらず、アナログ技術者不足が深刻な状況にあり、アナログ技術者の育成はこれまでにも増して必要不可欠なものとなっているということなのである。

図2. 製作したアナログアンプ
図3. アナログアンプとギターの接続写真


4.日本の産業を支えるアナログ技術の教育を
 デジタルアンプにはない味を持つアナログアンプの製作過程で、授業ではあまり学ぶことのないアナログ技術の一端に触れて、その難しさを経験したが、それを乗り越えアナログアンプからきれいな音が鳴り響いたときには大きな感動を得ることができた。そして同時にデジタル技術の影で廃れていくのだと思っていたアナログ技術が、実は現代の家電製品やパソコンなどの生産では不可欠な存在であり、デジタル技術とアナログ技術は一体になって成長しなければならないということを知り、これまでの自分の認識を改めなければならないことを思い知らされた。また、これから益々必要とされるアナログ技術者が不足していることが、日本の産業界の課題になっているということも分かり驚いた。
 現在の技術教育では、デジタル技術教育が主体と成っているが、デジタル技術によるロボット制御ばかりでなく、人間の感性にもつながるスピーカーやアナログアンプの製作といったアナログ技術の実践も授業に取り入れることを提案したい。このことはこれからの日本の産業を支えていく上でも不可欠なことであるからだ。

【参考文献】
注1)

超初心者のための真空管アンプ製作講座
http://hayashimasaki.net/tubebook/index2.html

注2)

アナログ技術に再び脚光 家電製品、電気自動車…省エネのカギに
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090827/203543/