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2009年(第11回)

【入賞】
空を見上げ、何を思う
群馬工業高等専門学校 物理工学科 2年
阿部 仁美

 あなたは夜の空を見上げたとき、何を思うだろうか。
 私は、夜の空を見上げ、輝く星たちを見ながら、宇宙は、この世界はどのようにして生まれたのだろう、と考えることがあった。あなたもこのようなことを思ったことは少なからずあるのではないだろうか。最近は特に、宇宙というものに目を向ける機会が多くなった。これは、皆既日食など、何かと宇宙を身近に感じられるような出来事があったかからであろう。
  その中で、私は「宇宙基本計画」というものを知った。宇宙基本計画とは、昨年5月に成立した宇宙基本法にある日本の宇宙開発の方針を具体的に示したものである。これは、これからの日本の宇宙開発を左右する重要なものである。今回の宇宙基本計画では、研究開発が中心だった政策を、宇宙の利用重視に転換することを目玉としているという。このことについて、上毛新聞の社説では、「宇宙の謎を解き明かし、科学の歴史に残るような目標であるべきだ。」と述べられていた。
  本当にこれからの日本の宇宙開発の政策を、宇宙の利用重視にしてしまっていいのだろうか。宇宙の謎を解き明かすことによって得られることは少ないし、実用性にも乏しいかもしれない。しかし、宇宙からの情報は、とても大きな意味を持っていると私は思う。それは、宇宙開発の面だけでなく、科学という分野、全体に対していえることだと私は思う。
 私たちは、何によって、この広大な宇宙についての知識を得ているか考えてみようと思う。 私たちが光としてみる天体の姿は過去の姿である。遠い天体の光ほど、地球に届くまでに時間がかかるためだ、と天体には何万光年、何億光年と離れたものがある。よって、今、私たちが見ている天体の姿は何万円、何億年前の昔の宇宙の姿なのだ。太陽の光も例外ではなく、 地球にその光がたどり着くまでは時間がかかる。宇宙誕生から137億年。理屈では、我々は半径137億光年の宇宙を観測できるはずなのである。
  その中で、星たちは、生死を繰り返している。今も空では多くの星が生まれて。そして死んでいるのだ。このことを私たちは同時に見ることができる。これは地球が生まれる前のこと、そしてこれからのことについてヒントとなりうるだろう。
 私は宇宙科学が最終的になそうとしていることは、宇宙の根源を突き止めることであると考えている。この宇宙の根源を探ろう、という研究は人類の根源を知ろうとすることと同異義語といっていいのではないだろうか。私たちは人類の歴史についての研究をしている。ここでいう歴史とは、鎌倉時代や、縄文時代や、アウストラロピテクスなど、いわゆる小・中学校で習う歴史である。この人類の歴史をずっとさかのぼっていくと、地球の歴史に辿りつく。そして地球の歴史をもっとさかのぼっていくと、辿りつくのが宇宙の歴史である。宇宙が誕生しなければ、地球は誕生していなかったであろうし、地球が誕生していなかったら、人類は誕生していなかった意味での人類の根源を知ることができると私は考える。このこと から、宇宙の歴史を知ろうとする、ということは、人類の歴史を知ろうとすることにも通じているといえるのではないだろうか。
 生物学を宇宙から見てみることとする。私たちの住む地球は太陽系の中で唯一、生物がいる星と今のところはいえる。これは偶然だろうか。地球の誕生には生物誕生のきっかけとなった、他の星とは違う大きな要因があったのだと推測される。このことを調べれば生物の起源を探るヒントとなるであろう。
 今度は心理学的を通して解釈してみようと思う。人間の動機づけの基本的欲求の1つとして安全の欲求、例えば、安全、安定、依存、保護、恐怖・不安・混乱からの自由、構造・秩序・法・制限を求める欲求、保護の強固さなどが挙げられる(注1)。この中でA.H.マズロ ーは

世の中で安全性や安定性を求めようとする様子は、見慣れぬものよりも見慣れたもの、あるいは知らないものよりよく知っているものに対する共通した選好性に見られる。宇宙とその中にいる人間を、統一のとれた意味をもつまとまりとしてとらえる宗教とか世界観をもとうとする傾向もまた、部分的には安全を求める欲求により動機づけられている(A.H.マズロー,1987,p.65)。

と述べている。その宇宙と人間を1つのまとまりとして考えようとしたのも、宇宙の中に自分たちの根源を見出したからであろうと私は考える。
 また、科学者の動機として最も関係するのが認知的欲求であるとも述べられていた(注2
)。「自然研究の発展段階において科学に最も重要な役割を果たしたのは不断の好奇心であり、また科学をより論理的・抽象的レベルに発展させたのは、理解し、説明し、体系化しようとする人間のやむことなき欲望であった(A.H.マズロー,1987,p.p.2-3)。」とA.H.マズローは記している。見慣れぬもの(宇宙)への恐怖・不安がある中でなお、宇宙について研究するというのは、宇宙に関して、恐怖・不安をこえるほどの好奇心、認知的欲望があったからである。それは人間の「自分はいったい何者なのだろう。」という問いにこたえるものが存在するからであり、ここまで人間を惹きつける魅力こそ宇宙になかにひそむ人類の根源であるのではないかと考える。
 太古の昔から、人々は宇宙に魅せられ、研究し続けてきた。例えば、コペルニクスは今では、生まれてから500年以上にもなるずいぶん昔の人である。広辞苑によると、コペルニクスは、地球やその他の惑星は太陽の周囲をめぐるという地動説を発表し、当日定説であった地球宇宙論に反対し、近世世界観に樹立に貢献した人である、と述べられていた(財産法人新村出記念財団,2008,p.1049)。
 コペルニクスだけではないが、これまで宇宙を研究してきたすべての人のなかに人類の誕生と結末についての問いは少なからずあったであろう。いや、宇宙を研究してきた人にかぎったことではない。自分の芸術的遺書として書き上げられたとされる大作がある。その画題は、「われら何処よりきたるや。われら何者なるや。われら何処へ行くや。」というものである。この問いかけと問いかけに対する答えの探求。それは今も、そして未来も変わることのない好奇心である。
 私は、大きく見て科学とは「起源」というものを探し、求めている学問だと考える。これは前に述べたと通り、人間の欲望に順ずるものである。そして、そのおおもととなるのが宇宙科学によって得られる情報である。宇宙の起源である。これからの科学の進歩には、科学分野の中での連携の強化が必要である。そのなかですべてにつながっているのは宇宙科学だと考える。そのためにも、最初に述べた宇宙基本計画では、宇宙の利用だけでなく、他の分野からの情報が持つ意味の大きさをもう少し広い面で考えてみることも重要である。科学の中での情報は、いまひとつひとつの断片でしかないかもしれないが、いつか、思わぬところで繋がるかもしれない。そのなかで、根本にあるのは宇宙の起源であろう。私たちは空を見上げて、私たちがたどりつく先とその答えを見つめ続けるだろう。

【注】
1)

A.H.マズローの著者『改訂 新版 人間性の心理学』のp.p.61-67に詳しいことが記されている。

2)

A.H.マズローの著者『改訂 新版 人間性の心理学』のp.p.2-29に詳しいことが記されている。


【参考文献】
1)

A.H.マズローの著者『改訂 新版 人間性の心理学』のp.p.61-67に詳しいことが記されている。

2)

Abraham H. Maslow(A.H.マズロー)『改訂 新版 人間性の心理学』(産業能率大学 出版部・1987.5.30・p.p.2-29,p.p.61-67)

3) 佐治晴夫『宇宙の不思議 宇宙物理学からの発想』(PHP研究所・1991.4.15・p.p.96-97)
4)

財団法人新村出記念財団『広辞苑』(株式会社岩波書店・2008.1.11・p.1049)