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2009年(第11回)

【優秀賞】
科学技術を日本の成長戦略の基軸としたシステムの考案
東京理科大学 工学部第一部・経営工学科 3年
大竹 貢
大竹 貢

1.科学技術を成長戦略の基軸とした新たなシステムの必要性
 近年、社会における無形資産の重要性が強くなってきた。その中でも科学技術に関する知的財産は特に重要視されている。このことは、アメリカで1985年にプロパテント政策を宣言したことや、日本でも2002年に同様の政策を宣言したことからも分かる。プロパテント政策とは、知的財産権取引の活性化、創造型技術開発の促進、新規産業の創出、ひいては科学技術創造立国の実現を目的とする政策である。
  中東の国では、地下資源である石油を国家の資源と捉えて経済成長の基軸としている。しかし、日本には中東の国のような地下資源がない。そこで科学技術を国家的資源と位置付けて日本の成長戦略の基軸とする必要がある。
  日本では、科学技術の発展を興して日本経済の成長を導くために、政府が科学技術の研究に多くの予算を投入している。しかし、現在の日本では科学技術に予算を投入する際に、社会や企業のニーズに関する視点が弱い。また、優れた研究成果を社会に普及させて国際標準をとるための後押しもできていない。
  そこで科学技術への予算の投入を、より効率的に産業の活性化と科学技術の発展へ結び付つけるための戦略的なシステムが必要である。この論文では、そのシステムについて考える。

2.日本における科学技術研究費とTLOの役割とその問題点
 平成21年度の総務省の調べによると日本の科学技術研究費は、18兆8001億円であり、研究費のGDPに対する比率は3.78%である。この比率は、他の国と比べても高い水準であり、企業ならびに国が科学技術に多額の資金を投入している。
  政府が科学技術研究費を大学・研究機関に配分する際には、大きく分けると二つの方法がある。一つは、政府から直接的に研究費の配分をする方法である。もう一つは政府が独立行政法人に公募・審査をさせ、選ばれた研究内容に間接的に研究費の配分をする方法である。
  大学・研究機関が生みだした知的財産は、どのように扱われているのかを以下に記述する。現在の大学・研究機関では、アメリカで1980年に制定されたバイドール法が知的財産を利用する際のシステムの元になっている。日本では、バイドール法を産学活力再生特別措置法と呼んでいる。この法律は、政府の資金援助を受けて大学が開発に成功した知的財産の権利を政府だけでなく当の大学にも帰属させるものである。これによって、大学は企業などにライセンス供与することが可能になった。その時、民間企業と大学の橋渡しをスムーズに行うための技術移転機関としてTLOができた。TLOの多くは、大学や研究機関が運営に参画している。
  上記で述べた政府、大学・研究機関、TLOとの関係を図1に示す。図1に示した現在の制度では、科学技術研究費を配分する国と研究成果を企業に橋渡しするTLOとの間に大きな隔たりがある。これは、科学技術を基軸とした成長戦略を考えるときに重大な問題点である。現在の制度では、日本が戦略的に科学技術の発展を導くため最適に研究費を配分することができても、研究成果を産業界に普及させて国際標準をとるための後押しができていない。現状としては、研究成果が社会に埋もれる、研究成果を海外の企業がライセンス供与を受けるという事態が起きている。つまり日本の産業が科学技術の発展の恩恵を受けないこともあり得る。

図1:現在の日本の科学技術研究費と知的財産の流れ

図1:現在の日本の科学技術研究費と知的財産の流れ

3.問題解決に“三位一体”の考え方を利用する
 『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』という本に、企業経営においては、「研究開発戦略」、「知財戦略」、「事業戦略」の三者が連動し、“三位一体”となって経営を支えていく必要があると書いてある。グローバル社会で研究開発競争の中にいる企業が必要とする三位一体の考え方は、国家間の研究開発競争の中でも必要となるエッセンスである。この考えを企業から国家へと発展させ、現在の科学技術研究費の流れとTLOの役割を変革するべきだと私は考える。それは、政府が戦略的に科学技術の発展を導き研究成果を産業界に移転するための存在である、「科学技術マネジメントセンター(以下STMCと省略)」を新たに構築することである。

4.新しいシステムであるSTMCの役割
  STMCの組織理念を「科学技術の発展に寄与して日本の産業に技術移転を行い、世界に価値あるイノベーションを興す」とする。主な役割として、「事業戦略」、「研究開発戦略」、「知財戦略」を3本柱にして組織の理念を達成する。それぞれの戦略を以下に示す。

1. 事業戦略…日本の科学技術の発展に寄与し、研究成果を産業界に移転して知的創造サイクルを回し続ける。
2. 研究開発戦略…基礎研究を重要視し、その成果を応用研究で産業界に価値ある無形資産に変える。無形資産を産業界に移転して、産業の開発研究を後押しする。そのために、適切な研究費の配分と研究成果の評価を行い、ライセンス料の収益を大学・研究機関と研究者に適切に還元する。
3.

知財戦略…研究成果を知的財産として権利形成して管理・運営ならびに活用を行う構想をする。また、知財マップを作り今後必要となる科学技術を創造しそれを研究開発戦略に役立てる。

 これらの三者が連動し三位一体となることで日本の科学技術の発展に寄与し、研究成果を産業界にアウトプットする。最終目標は、日本の科学技術を国際標準にすることである。
具体的にSTMCの役割を図2に示す。そして、STMCと政府、大学・研究機関、企業のそれぞれの関係を記述する。
 政府とSTMCの関係を記述する。STMCは、世界の科学技術の現状をマーケティングしてその結果を政府に報告し、科学技術を基軸として日本の成長戦略をどう描くべきかを提言する。それに見合った科学技術研究費を予算として国家に計上させる。
 大学・研究機関とSTMCの関係を記述する。STMCは大学・研究機関に基礎研究計画、応用研究計画、開発研究計画を元に大学・研究機関に研究費を適切かつ戦略的に配分する。研究計画を作成する際には、社会と企業のニーズを徹底的にマーケティングした結果を反映させる。この計画を元に科学技術の発展を導く。研究開発競争が激しい分野では、プロジェクトを立ち上げ世界中から研究者を呼び込み日本の科学技術を進展させる。
 大学や研究機関はSTMCに研究成果を移転して特許をとる。研究成果の特許はSTMCと大学が両方で持つことにする。しかし、研究成果を企業に技術移転する際のライセンスの意思決定は、すべてSTMCの判断で行う。STMCにのみ意思決定権を持たせる理由として、大学や研究機関が技術移転に参画するとライセンスの料金に不満を持ち、技術移転を拒否することや企業と大学の癒着が起こるからだ。実際に、アメリカのTLOで同様の事例が存在する。日本の大学でも同様のことが起こる可能性はある。よって、技術移転のライセンスはSTMCが行う。
 企業とSTMCの関係について記述する。STMCは企業に技術移転を行い、社会にその技術を普及させる。STMCは技術移転を希望する企業を格付けして移転対象を決定する。格付けする際には、技術を普及するための資金とビジネスモデルを持っているのか、また日本の産業の成長にどれだけ寄与できるのかを評価尺度とする。ライセンス供与される企業は、STMCにライセンス料金を支払う。
 これらのSTMCと政府、大学・研究機関、企業との関係のどれか1つでも崩れると、科学技術を基軸とした日本の成長戦略は成り立たない。特にSTMCは、独立した立場にいなければならない。

図2:科学技術を成長戦略の基軸としたシステム

図2:科学技術を成長戦略の基軸としたシステム

5.まとめと今後の課題
 科学技術を日本の成長戦略の基軸とするときに、研究開発と研究成果の普及には三位一体のシステムが必要である。これにより、日本が国家間の研究開発競争をする際に、有利な立場になる。研究成果を産業界に移転することで日本の成長を導ける。
  今後の課題として三位一体を担う組織は、まだ概念的なものであり、企業と大学の共同研究に関する制度や研究計画の作り方などの具体的な施策を作成する必要がある。

【参考文献】
1)

『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか−画期的な新製品で惨敗する理由』、
妹尾 健一郎、2009.7.30、ダイヤモンド社、p.180-p.234

2)

『産業財産権標準テキスト[総合編]』、経済産業省 特許庁、2009.3、
独立行政法人 工業所有権情報・研修館、p.154-p.173

3) 総務省総計局のホームページ、URL:http://www.stat.go.jp/
4)

『理系白書 この国を静かに支える人たち』、野間 佐和子、2008.2.1、講談社、p.214-p.274