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2009年(第11回)

【入賞】
「技術大国日本」から「イノベーション大国日本」へ
横浜国立大学 環境情報学府 環境イノベーションマネジメント専攻 修士課程1年
橘田 明

1.背景と問題意識
 調査研究機関IMDが出した世界競争力ランキングでは1995年から2000年まで、日本は科学技術力2位となり、人口当たり特許数1位、企業間の技術協力3位、質の高いエンジニア7位と高い順位を示した1)。また、製造業における生産性も1995年から2003年の9年間で4.1%の伸びを示し2)、これは他の先進国と比較したとしても高い伸び率となっており、日本は技術大国日本として諸外国を凌駕し、20世紀を成長してきたことが伺える。
  しかし、卓越した生産技術で工業化社会の覇者となり、高度成長時代を謳歌した日本は、大きな転換期を迎えることとなった。それは産業構造の変化に伴い、第3次産業に従事する労働人口が2007年の段階で67.7%に達し、部門別のGDPにおいても70%を越え3)、今後ますますサービス部門の重要性が高まってくることが予想される。しかしサービス産業の生産性は製造業と比較して低く、また、生産性の上昇率は1980年と比較して伸びていないのが現状である。つまり、このままサービス分野の増加と生産性の低迷という状態が続けば、国全体としての豊かさが損なわれてしまう危険性を孕んでいるのである。従って、サービス分野において、イノベーションを活発に起こし、生産性を高めていくことが喫緊の課題ではないのだろうか。本論文においては、このような課題に対して、科学技術とサービスとの融合という観点から、日本がイノベーション大国日本を形成していく上で資するための私案を提示することとする。

2.「勘と経験に頼るサービス」から「科学的・工学的手法に基づくサービス」へ
  2006年に安倍政権が発足し、イノベーション25戦略を打ち出したことで、日本においてもイノベーションという言葉をよく耳にするようになった。しかし、今までの日本でのイノベーションの議論では、主に製造業における技術革新に議論が集中する傾向が強く、サービス分野におけるイノベーションへの議論は少なかった。そのため、サービス商品の開発にも、サービスプロセスの革新においてもイノベーションという視点は少なく、その結果、勘と経験に頼るサービスが主流となってしまい、生産性低迷への要因の1つとなったのである。
  このような潮流の中で、生産性向上への取組として、科学的・工学的手法に基づくサービスの研究が開始された。これは、サービスの提供と受容との相互作用を観測し、得られたデータの分析を通じてサービスの内容や提供方法を最適化し、生産性向上に繋がる方法論を提供しようとしたものであった。具体的な例を1つ挙げると、現在、個人適合型生活サービスの研究が行われている。これは、個々の生活状況の変化を日常生活の中でリアルタイムに理解する技術を開発することで、新たなサービスを提供しようとするものである。サービスの内容としては、住宅に設置されている家電機器の使用状況を集め異常に気づいて安全を確保する安心サービス、個々の生活パターンに合わせた健康管理を行い健康的な生活を支援するサービスなど、新生活サービス実現への取組が行われている。

3.科学的・工学的手法導入への現状の取組
 経済産業省では、サービス分野の生産性向上を実現するために、科学的・工学的手法をサービス産業へと積極的に導入していくことを推進している。具体的な施策としては、サービス産業生産性協議会とサービス工学研究センターとの連携の仕組み構築である。
  サービス産業生産性協議会とは、産学官連携のプラットフォームとして設立し、同組織を活用して、研究成果の普及などの普及啓発活動を推進する役割を担っている。主な活動内容としては、ハイサービス日本300選と題し、サービス分野におけるイノベーションや生産性向上に役立つ先進的な取り組みを行っている企業を表彰することでサービス企業への普及を促進している。次に、サービス工学研究センターでは、サービス生産性協議会と連携し、産学連携を通じて科学的・工学的手法を用いた生産性向上の方法論を提供する役割を担っている。主な活動内容としては、医療・健康サービス、大規模集客型サービス、オフィス業務支援サービスなどの事例研究を通じて、連携するサービス業の問題解決を図るための支援技術を開発し、生産性向上を目指している。

4.創発を生む2つのサービスコンクールの確立に向けて

 確かに、上記の取組はサービス産業の生産性向上を達成していくためには、重要な役割を担っている。しかし、経済産業省の捉えている連携の仕組みだけでは些か物足りなさを私は感じてしまう。生物学者のカウフマンによれば、社会が複雑化すればするほど、関わる主体は多いほうが良く、そのような複雑な社会では多様な主体による創発のための仕組み構築が重要だと述べている。國領二郎氏は、「創発する社会」において、「創発」とは「繋がった個が相互作用を起こした結果、単なる個の価値の和を超えて、ネットワークとしての価値を生み出す現象」と定義しており、創発という観点から捉え直せば、経済産業省の取組を拡張させるための余地が残っていると私は考えた。
  以上を踏まえて、経済産業省に対して私の意見を推奨することとする。それは、不特定多数の人間を対象とした2つのサービスコンクールの確立である。
  1つ目が、発想力を重点としたサービスアイデアコンクールの確立である。これは、新たなビジネス創出に貢献するサービスを自由に発想していくための問題設定の場とする。また、数多くのアイデアを創出していくためには、情報開示の方法を工夫する必要があり、そのために私の考えを3点示す。1点目はサービス分野を階層的に分類しクリックすると情報が閲覧できるようにする。2点目はクリックされた分野(例えば情報サービス業におけるソフトウェア開発)で現在主流となっている一般的なサービスを提示する。3点目はサービス生産性協議会が掘り出してきた革新的なサービスを提示するのである。ノーベル賞を受賞したアルバート・アインシュタインは、何かの発見をする際に、ヒューリスティクスが有効に働くことを証明している。「ヒューリスティクス」とは「どこから手をつけていいか分からない問題に対して問題の鍵を示すこと」で、それに基づいて問題解決を行っていくことが解決の近道になるのである。つまり、サービス産業を分野ごとに階層的に示し、一般的なサービスと革新的なサービスとの情報を簡略化された形で閲覧できれば、サービスのイメージが鮮明となり、それに基づいて新しいサービスの発想が生まれやすくなるといえる。
  2つ目が、実現可能性を重点としたサービス論文コンクールの確立である。内容としては、サービスアイデアコンクールで選ばれた革新的なサービスに対して、実現可能性という観点から、新たなサービスを論理的に構成していくための問題解決の場とする。つまり「観測→分析→設計→適用」の観点から、実現するためにはどのような要素技術が必要であり、また、生産性の向上や競争力の影響といった様々な視点から論理的に構成し、サービス分野に科学的・工学的手法を導入するための礎を築くのである。

5.むすびに代えて

 日本が来たるサービス化社会において、工業化社会の時代と同様に、活力ある社会を構築していくためには、日本の強みである科学技術とサービスとの融合を行うことが必要不可欠だといえる。そのためには、問題設定と問題解決の両方を行うことは無理でも、片方の能力に優れた人間が、各々の得意領域とするどちらかのサービスコンクールで意見を展開し、双方のコンクールが創発していくことで、サービス分野におけるイノベーションへと繋がっていくのではないのだろうか。従って、私は、上記で示したようなサービスコンクールを確立していくことで、「技術大国日本」から「イノベーション大国日本」へと変化していくための1つの指針となることを私は期待してやまない。

【注】
1)
    近藤正幸「日本の競争力とベンチャー」2009年4月13日 pp3〜pp8
2)
    文部科学省「平成20年版科学技術白書」P42
3) 3) 国民経済計算 http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/menu.html

【参考文献】

橘田明「コラボレーションから生じる科学技術の無限の可能性」第10回科学技術論文コンクール入賞
友野典男「行動経済学」光文社 2006年 P66〜P109
國領 二郎「創発する社会」日系BP企画 2006年 P28〜P44