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2009年(第11回)

【最優秀賞 文部科学大臣賞】
「Win-Win な環境教育と科学技術」
早稲田大学大学院 環境・エネルギー研究科 修士2年
中嶋 崇史
中嶋 崇史

はじめに
 近年、企業の CSR 活動の一環として、環境教育が広く行われている。地球温暖化や生物多様性に係わる議論が活発になっていることから、若い頃に環境に対する知識を教え込もうという背景がある。さて、この“環境教育”と“科学技術”の二つの要素に対して、社会を構成する関係主体が WIN-WIN な関係を築くことはできないだろうか。ここでは、関係主体にメリットがあり、かつ科学技術力向上につながる環境教育を提言することとする。

<“環境”を定義する>
 “環境”と一言にいっても、その言葉がカバーする範囲はあまりにも広い。例えば、大気汚染防止も“環境”対策であるし、二酸化炭素排出削減も“環境”対策である。今回は、科学技術との関連を考え、“資源循環”を“環境”問題と捉えることとする。
  わが国では、2000 年に資源循環型社会形成基本法が制定され、家電リサイクル法など特定の製品に関して個別に規制する法律が制定された。これらの法律には、「生産者が、自ら生産する製品において使用され、廃棄物となった後まで一定の責任を有する拡大生産者責任(EPR)」の考え方が導入されている。つまり、企業は「売った後の責任」も負うこととなった。このような流れで、生産者は製品の 3R(Reduce/Reuse/Recycle)の対策をとる必要が出てきた。特に、製品使用済み後のリユース・リサイクル段階の対策として、“解体性”、即ち“製品から有用な資源を取り出し易くする”ことが求められる。

<消費者への3R 教育の必要性>
 十分かどうかの議論は別として、解体性向上策は製品に取り入れられており、例えば自動車においては部品を一体化することにより解体性が向上している。それでは、企業の解体性向上に対する努力は消費者に伝わっているだろうか。
  現在、家電量販店では製品価格の他に省エネに関する情報が記載されている。省エネラベリング制度により、表示が義務付けられているからだ。一方、解体性に関する情報を目にすることは無い。この理由として、解体性の情報は消費者に直接的メリットが無いためだと私は考える。省エネは、電気代削減に繋がるので消費者に直接的メリットがある。一方、解体性は使用段階において何ら消費者にメリットはない。解体性は“消費者の手元から離れた後の段階”で役立つものだからだ。ただし、現在、消費者は冷蔵庫やエアコンなどを廃棄する際に“リサイクル料金”を支払う必要がある。このリサイクル料金はリサイクルする際の費用が下がれば、低下する。この通り、消費者も最終的には解体性向上によりメリットを享受することになるが、このことを理解している消費者は少数である。今後構築すべき循環型社会を考えたとき、消費者は解体性の重要度を理解する必要があり、そのことが企業の解体性向上に向けたインセンティブに繋がると私は考える。

<環境教育の現状>
 現在さまざまな環境教育プログラムが実施されている。地球温暖化全般を取り扱うものや、生物多様性の重要性を訴えるもの、自然に触れ合うものといったプログラムである。しかし、リユース・リサイクルの重要性を訴えるなど 3R に係わるプログラムは存在するものの、解体性に関するプログラムは数少ない。先に述べた通り、消費者が解体性を理解することは重要であり、解体性を教育するプログラムも必要ではないだろうか。
  以下、解体性に関する環境教育と科学技術力向上の連携について述べる。

科学技術に対する興味の低下
 科学技術力向上に向けては、まず前提として科学技術への興味を引き出す必要がある。独立行政法人科学技術振興機構と国立教育政策研究所が行った調査によれば、高等学校普通科では小中学校段階に比べて観察や実験が少なく、生徒にとって魅力的な理科教育とは言い難い状況にあることがわかっている。
  その要因として、観察や実験の時間不足や、教材費の予算不足が挙げられている。これらの要因に加え「製品から理科的要素つまり科学技術を感じる機会が少ない」ことが挙げられるのではないだろうか。
  近年のデジタル化に伴い、製品の仕組みを理解しづらくなっていると感じる。例えば、昔のテレビは自らが部品を調達し、テレビの仕組みを知れば製作することができた。しかし、現在のテレビはシステムLSI による制御などにより、自ら作成することは非常に困難である。このように、われわれが使用している製品について、その構成や仕組みを理解することは難しい状況にある。

逆手にとった科学技術の感じ方
 では、この状況を逆手にとって、作り上げられた製品を解体することにより、科学技術への興味を引き出すことは出来ないだろうか。確かに、解体しても製品を構成する部品は変わらない。しかし、製品を解体することで、現在われわれが使用している製品が、どれだけ消費者にとってブラックボックスになっているかを感じることができる。私もその一人だ。私は 3R に係わる研究をしており、その中で多くの製品を解体している。実際に製品を解体すると、多くの製品が基板ばかりで構成されていることがわかる。これを出発点とし、“この基板がどのような役割を果たしているか“に興味を抱くようになった。そのことで、過去の製品においてばらばらの部品で構成されていたものが、電子化により一つの部品になっていることがわかり、科学技術の進歩を肌で感じた。
  これは、循環型社会の構築という観点を含めて非常に重要であると考えている。今後、技術者は“使用済み後”まで含めた製品設計が必要になってくる。ここで技術者に求められることは、“従来通りの技術進歩への貢献”と“解体性の向上”である。前者においては“科学技術力の向上”、後者においては“解体性”が重要であり、製品を解体することで、 この二つの要素を同時に達成することができる。

WIN-WINな環境教育
 ここまで、環境教育の現状や製品の解体を通した科学技術への関心向上について述べた。最後に今後構築すべき循環型社会向け、関係主体が“WIN-WIN な環境教育”を提案する。 循環型社会の構築に向けて、生産者には“解体性の向上”、消費者には“使用済み製品の適切な排出”が求められる。しかし現状では、この両方がうまくいっていない。各々その重要性は理解していても、メリットを感じることができないのがその要因として挙げられる。生産者にとってみれば、解体性の向上が消費に繋がるわけではなく、消費者にとっては、経済的メリットを感じることができない。実際に製品を解体する環境教育プログラムの導入により、現状を打破することはできないだろうか。
  企業が行う環境教育には PR の要素が含まれている。自社製品をPR し、その製品が売れることは企業にとって利益の向上に繋がる。この点からいえば、環境教育として製品解体プログラムを導入することは、企業にとってメリットが大きいといえる。解体性を向上させた製品を消費者に解体させることで、循環型社会に向けた企業努力をPR ができる上に、解体性の重要性を認識した消費者を育てることは、環境配慮製品の市場拡大にも繋がるの である。一方の消費者にとっては、廃棄する製品のリサイクル料金が低下することに繋がる点で経済的メリットを享受することになる。さらに、日本全体を考えれば、製品を解体することから科学技術への興味を引き出し、「科学技術立国」への一歩を踏み出すことに繋がるのではないか。

最後に
 従来の社会システムからの転換には、社会を構成する関係主体の意識改革が必要であり、かつその歩調を合わせる必要がある。環境教育は企業と消費者をつなぐ一つの手段であり、企業努力を消費者が理解し、またその理解が企業努力を促し、ひいては社会システムの転換を促すことに繋がると私は感じている。

【参考文献】
1) 独立行政法人科学技術振興機構HP(平成 20 年度高等学校理科教員実態調査)
http:www.jst.go.jp/pr/announce/20090330-2/
2) トヨタ自動車株式会社 HP(環境技術)
http://www2.toyota.co.jp/jp/tech/environment/recycle/eco_vas/new_car.html