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2008年(第10回)

【特別賞】
地球温暖化から日本のあり方を考える
信州大学 工学部 社会開発工学科 4年
塚田 絢

<1.はじめに>
 私は現在、大学の研究において「地下水」に関係する学習をしている。この地下水という分野は、ただ単に力学だけでなく、水や地質そのものの性質なども視野に入れて研究をしなければならないので、複合的な分野である。現在、私が携わっている研究の根源というのは、近年注目を浴びている“地球温暖化”である。温暖化に伴い、地球上の氷河が溶け、将来的には海水面上昇が見込まれ、それと同時に目に見えない淡水である地下水にこの海水面上昇がどのような影響を及ぼすか。というのが研究の大略である。私は今回この研究の軸となっている「温暖化」というものから、客観的な視点で“今後の科学技術の有り方”について論じていきたいと思う。

<2.あまり知られていない論争>
 私達の住むこの環境は、産業革命後の飛躍的な進歩により、より豊かになってきている。しかし、その豊かさとは裏腹に、深刻な“環境問題”が起こってしまった。ダイオキシン、環境ホルモン、酸性雨、地球温暖化とさまざまな問題が論じられてきている。近頃では、チーム・マイナス6%といった国民的なプロジェクトなど多くの、様々な方面の企業がCO2削減のための運動に参加しており、日本全体の意識向上が見られる。そのためか「温暖化」や「環境問題」という単語は私たちの生活の中でもよく聞くキーワードとなった。しかしながら、果たしてCO2を削減するだけで温暖化というものは解消するのだろうか。これだけCO2削減が世の中に浸透しきっている中、CO2削減イコール温暖化の解消という方程式が知らないうちに多くの人のなかで成り立ってしまってきているのではないだろうか。『これからの環境論』という本の中で、「かりにCO2がなくなっても、地球の気温はさほど変わらない」という文がある。一般的に述べられている温室効果ガスは、メタン、二酸化炭素、ハロカーボンであるが、水蒸気H2Oの温室効果というのはCO2の20〜50倍あると言われ、結果的にCO2が受け持つ温室効果というのは33°のうち0.5〜1.5°であるという。また、報告されている世界の平均気温のグラフ(図1)であるが、数値を見れば気温は年々上がっていると容易に判断できる。しかし、この気温がどこで、どの状況下で測られたかを調べると、これは世界各地にある温度計6300本の読みであり、地球表面の7割を占める海の上の気温というのはほとんどないという。また、気温を測る“百葉箱”というのも管理が行き届いていないといけないため人里離れた場所には少ない。したがってグラフが表している結果というのは、たいていの場所は都市化が進み、気温の上昇を抑える植物がすくない場所、主にヒートアイランド現象が気温上昇の根源となっているところの気温が多いのではないかという事である。逆に都市化の比較的進んでいない網代と三宅島の年平均気温のグラフ(図2)を見てみると、先程のものとは違う傾向にあることがわかる。このように、私たちが普段よく目にしたり、聞いたりする情報というのは、結果であることが多く、それにまつわるプロセスを述べている情報というのは得にくい状況下にいる。私がここで述べたい事は、CO2削減が良くないという事ではない。ただある一つの事柄に対してばかりにベクトルを向けてしまうことで、他に対処すべき事柄を見落としてしまう危険性が出てくるのではないか、ということを懸念しているのである。CO2を削減できたとしても実際温暖化は止められない段階に来ている。しかしながら環境科学という分野には数学や物理の分野とは違い、スケールが大きい上に複雑で確実な証拠が得られていないため、仮定の段階の物がある。そういった段階にも関わらず現在の日本は、CO2の話に限らず、片寄った情報で語られているものが多い。日本の中だけでなく、世界はどういった見方をしているのか、新しい情報が出てきたならば、そういった情報をいち早く取り入れられる状態にしなければならないのではないだろうか。

<3.排出削減と同時に今後必要なこと>
 それでは排出削減ではない、今後の温暖化に対処できる対策とは何なのだろうか。「CE建設業界[座談会]安全なくらしを脅かす地球温暖化」の中で三村氏は、温暖化対策として排出削減対策とともに適応策というのを述べている。私は、この適応策というのが今後最も重要な対策になっていくのではないかと思う。実際に災害などにより、影響が出たときに、それに対していかに、素早く社会の安全性を確保できるかどうかが、日本の強みとして飛躍していければと思う。これは温暖化対策に限らず、多くの予期せぬ災害にも対処できうる強力な日本の力にもなるのではないだろうか。日本は古くから自然災害が多く、それに対処する技術が発達してきた。これは先進国の中でも島国であるからこそ日本が培ってきた強みである。また、それらの事業に関わる者だけでなく、住んでいる人々が自分達の身近な問題として意識できるかどうかでも安全を確保できるかできないかが問われてくるのではないだろうか。どんなに行政や、企業がインフラ整備をして環境を整えても、そこに住む人々が理解を持っていなければ役に立たない事もあるだろう。現在、わが国の海抜ゼロメートル地帯に住む人々の数は三大湾(図3)において400万人余りである。果たして現在住んでいる人々の意識に危機感というのはあるのだろうか。マスコミでもCO2など排出削減に関する報道、番組は多く見かけるが、海抜ゼロメートル地帯に住む人々が将来的に、温暖化でどのようになるのかというものを取り上げているのは少なくないだろうか。私は、今自分が携わっている研究や、他の様々な研究をより多くの人に知って欲しいと思う。今後重要となる科学技術というのはむりやり需要を作る無駄な技術ではなく、いかに経済的で実用性があるかというハード面と、それらに支えられようとする人々がいかに身近に意識できるかというソフト面の均衡を上手く図っていかねばならないのではないだろうか。そのためにも科学技術に携わる一員として私は、直接住民の声を聞くことの出来る公務員になり、より多くの新しい、必要性のある情報をより多くの人々に伝え、有意義な計画をしていきたいと思っている。そして、一つ一つ物事を進めていくに当たり、自分達の行っている事が世界の時間の経過と共に置き去りにされていないかどうかというのを客観的に見つめ直し、それを事実として受け入れられる修正能力を持っていていられるのならば、より実用性のある解決策が見えてくるのではないかと信じたい。

図1 地表の温度計で測った世界の平均気温

図2 網代(1938〜90年)と三宅島(1942〜90年)の年平均気温

面積 116km2
人口 176万人
面積 336km2
人口 90万人
面積 124km2
人口 138万人
図3 日本三大湾のゼロメートル地帯

 

【参考文献】
1) 『「シリーズ地球と人間の環境を考える12」これからの環境論』、渡辺 正、2005.1.10、日本評論社、図1:75p、図2:80p
2) 『CE 建設業界 Volume56,2007』、2007.5.25、社団法人日本土木工業協会、14p
3) 『ゼロメートル地帯の今後の高潮対策のあり方について』、ゼロメートル地帯の高潮対策検討会
http://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/past_shinngikai/shinngikai/takashio/051214/s2.pdf