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2008年(第10回)

【特別賞】
医療現場における科学技術と問題解決方法の提案
工学院大学 工学部 機械システム工学科 4年
大塚 翔太

<1.はじめに>
 私はこの学生生活で、約2ヶ月半の間、都内の大学病院で入院生活を送った。そのとき感じた医療現場における技術力を肌で感じ、その科学技術から恩恵を受けた現在の医療現場の体制に心から感銘を受けた。そして、高い技術力だけではなく、そこで私を支えてくれた医師や看護師の方々のご厚意によって、安心して入院生活を送れたことを強く感じた。
 一方、現在の日本の医療問題として、医師不足がまずひとつあげられる。特に特定地域や診療科での医師不足は著しい。僻地の診療所だけではなく、地域の中核病院でも医師が足りなくなり、お産の取り扱いや、救急患者の受け入れをやむを得ずやめる医療機関も珍しくなくなっている。また、医師不足が原因で、医師は過酷な労働に苛まれている。それを理由に退職する医師が増えている一方で、医師を助ける制度が満足でないのが現状である。この問題は、昨今の妊婦救急搬送たらい回し事件や、医師の自殺率が高いことなど、患者側と病院側のそれぞれにおいて、多くの人々が亡くなっていることを考えれば、早急に解決しなければならないことは明らかである。
 そこで、技術者の視点から、これらの問題について分析し、現在の医療現場における科学技術について紹介しながら、問題の解決案を論じていく。

<2.現在の病院で活かされている技術>
 病院で活かされている技術の例として、電子カルテとバーコードによる患者の管理がある。病院の調剤部は、薬剤にバーコードをつけ、患者はバーコード付きのリストバンドをはめている。投薬の時間になると、看護師は患者のリストバンドをスキャンし、続いて、薬剤カートにのせた薬剤のバーコードをスキャンする。すると、お互いスキャンしたデータが一致していれば投薬が承認され、薬剤の種類を間違えて患者に投薬しようとすると、警告がバーコードリーダーに表示される。また、看護師は日々の患者の様子を電子カルテに記録することで、第三者でも治療の経過や健康の異変に気づけるようになった。これらにより、さまざまな医療ミスを減らすことに成功した。

<3. 病院における生産システムの導入>
 手術待ちの患者にとって、病院待機期間を短縮することは問題の中心である。たとえば、がん検査の待ちなどでは、数ヶ月の待機期間を要することになれば、致命的な問題となりかねない。さらに、外来で病院に訪れる患者においても、1日の間に複数の検査を受け、その後、検査の結果が主治医のもとに届くのを待ってから診察を受けることは、できる限り終えたいことである。 ※1)
 これら待機期間の短縮化の観点などから、これまでも様々な取組みが行われてきている。近年、日本のみならず海外でも、製造業で用いられる生産システムを病院に導入している。その中でも代表的なのがトヨタ生産方式である。トヨタ生産方式は、徹底したムダの排除という基本思想のもと、ジャスト・イン・タイムと自働化を二本柱としている。ジャスト・イン・タイムは、「後工程が前工程に、必要なものを、必要なとき、必要な量だけ引き取りに行く」と考え、生産指示票の「かんばん」などに発展している。自働化は、異常や欠陥が発生したら、直ちに製造装置や生産ラインを停止し、不良品を作らないという考え方である。また、工場を全自動化にせず人を介入させることで、改善できる問題点を洗い出して成長し続けるという考え方である。※2)
 トヨタ生産方式が病院に導入されたことにより、多くの患者が安心できる治療を即座に受けられるようになった。たとえば、患者が病院に訪れたときに、入口に数台設置している自動再来受付機に診察カードを入れ、「かんばん」である受診表を受け取る。その受診表には、何時に何号棟の何階の科、検査の受付に行くように指示されている。また、各科や各検査室は「1−1」や「A1」といった英数字で表記されている。これにより、患者は病院内に張られている地図を見て、迷わずに移動することができる。また、病院側も、受付の案内係を減らせるようになり、時間とコストを削減できるようになった。
 なお、トヨタ生産方式の医療機関への適用といった場合には、「患者を工場生産品と同じように扱うのか」といった批判もありうると考えられる。しかし、患者を顧客と見て、資源を無駄にせず、顧客にとっての価値を最大限に高めることが、時代の流れなどによって移り変わりが激しい現代の医療現場において、最大のポイントではないだろうか。したがって、医師や看護師を専門的知識・技術を有しているプロフェッショナルとして扱い、患者を安全かつ迅速に治療できるシステムこそが、医師や看護師、そして、大勢の患者の満足度を最大にさせることにつなげられると考えられる。

<4. 私が考える問題の解決案>
 これまで述べてきたことは、すでに日本の多くの医療現場で導入されていることである。では、なぜ妊婦救急搬送たらい回し事件が後を絶たないのであろうか。医療体制が国内で一番整っている東京でも起きている問題であることに衝撃を覚える。そこで、私が考える解決案は次の2点である。
 1点目は、各病院における救急患者の対応医師数や手術待機期間を常にインターネットから確認できるシステムを構築することである。たとえば、各病院は、救急患者の対応医師数や、どの科の医師が何名いるかを1時間ごとに更新する。すると、携帯電話からどこの病院に搬入できるかが確認できるので、民間人でも救急患者を搬入することが可能になる。また、手術待機期間がインターネットから確認できるので、病院選びの要因のひとつにすることが可能になる。これは、従来の救急医療情報システムを越えるシステムである。
 2点目は、各病院が受け持つ患者の情報を国内のすべての病院間で共有することである。これは、各病院が受け持つ患者の情報を項目別に打ち込み、ネットワークを通して情報をすべての病院の診察室のパソコンから確認できるシステムである。たとえば、国内における肺がんの患者の治療実績を調べたいとき、年齢別に患者数を知ることができ、行われてきた治療方法をより詳しく知ることができる。これにより、診療所の医師は、訪れた患者に自分の病気やけがについて、現在の国内医療が行える治療方法を知らせることができる。また、各病院の治療実績を定量的に知ることができるので、どの病院を紹介するかが明確になる。
 つまり、各病院で情報を抱え込むのではなく、病院間の結びつきを強くして、マクロな視野で医療体制を改善することを目的とする。いわば、解決案の1点目は病院側の情報公開、2点目は患者側の情報公開である。しかし、個人情報の閲覧を禁止し、情報の流出を避けることは難しい。したがって、どこまでの情報を共有できるようにするかが、これらの解決案の課題である。

<5. おわりに>
 大切なことは、技術がどんなに進歩しようと、何事においても真面目であることだと私は考える。日本は、1980年代に品質・コストで世界最高水準に達した。これは、血のにじむような努力を惜しまなかった日本人の勤勉さがあったからである。しかし、昨今の上下関係の希薄さ、仕事に対する価値観の変化は、徹底したミスの排除の妨げとなる。したがって、日本人のモラルが低迷していると感じたときに、重大事故が頻発したわけである。よって、モラルが低くなっている現代だからこそ、技術者の倫理を保ち、進歩し続ける技術力によって、大きな事故や事件を未然に防ぐことが重要であると考える。

【参考文献】
1) 中川 恵一:切らずに治すがん治療(株式会社法研)2007.6.27 58頁
2) トヨタの労働現場:ダイナミズムとコンテクスト(桜井書店)2003.5.1 27頁