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【優秀賞】
『三方よし』からみる科学技術のあり方
早稲田大学大学院 環境・エネルギー研究科 修士1年
中嶋 崇史

<はじめに>
 近江商人の家訓として「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」という言葉がある。近年、地球環境問題の深刻化から循環型社会が求められているが、その構築に向けて必要となるのはこの「三方よし」の概念ではないだろうか。ここでは循環型社会の構築における製品を中心に、売り手(メーカー)、買い手(消費者)、世間(社会)が持つべき視点から、科学技術のあり方を述べる。

<売り手には売った後の視点が重要>
 メーカーにおける従来の製品開発の視点は主にどこに置かれていたのだろうか。「いかにして売れる製品を開発し効率的に製造するか」といった部分に重きが置かれていたのではないだろうか。売れる製品を大量に売り、数年後その製品が廃棄される時に買ってもらうため、また売れる製品を開発する。つまり、売れる製品を「売ったら終わり」の視点である。しかしながら循環型社会の構築に向けては、「売ったら終わり」の製品開発ではなく、「売った後」の製品開発、つまりリサイクル段階において解体しやすい製品など3R性(Reduce/Reuse/Recycle)等を考慮した製品開発が必要である。

<買い手には選ぶ視点が重要>
 何か製品を買うときに考慮する要素はなんですか?もちろん時代によって変化するだろうが、この問いに多くの人は、価格・省エネ性・外観デザインなど、「主に製品の使用時に関わる要素」を答えるのではないだろうか。ここには、製造時の環境負荷や使用後の製品の行方などは要素としては入ってこない。循環型社会において製品のライフサイクルを考える場合、「使用→廃棄」といった「製品としての役目を果たし終わる部分まで」ではなく、「資源採取→製造→使用→廃棄→処理・リサイクル」といったより広い範囲まで含める必要がある。そのため買い手は製品の選択時に、製品の3R性などの要素も考慮する必要があるのである。

<世間には変化を受け入れる視点が重要>
  最近ニュースなどで「CSR:企業の社会的責任」という言葉がよく登場する。利益のみを追求した結果、社会に不利益を与える事件が多発したことを背景にCSRが求められるようになった。しかし一方で、利益の追求をさせたのは社会なのではないだろうか。
 産地の偽装問題を例に考えてみる。食への安全意識の高まりから、社会は安全性の高い国内産の野菜を求める。そこで企業は野菜の「価格を上げて」国内産の野菜を販売した。しかし社会は安全かつ「今まで通りの価格」を要求し、結果として産地の偽装が生じる。もちろん偽装した企業側は法を犯しており罰せられるべきであるが、社会側がコスト負担の増加無しで国内産の野菜を求めた部分も要因として挙げられるのではないか。
 「企業の社会的責任」という言葉には「企業の」という限定的な表現が使われているが、そこからこの表現を除くと、「社会的責任」となる。つまり、社会には責任があるのだ。社会が変化を求めるならば、既存社会の変化を受け入れる姿勢を持たなければならない。先の例で言えば、安全を求めるならば、それ相応のコストの増加は受け入れなければならないということである。今求められている循環型社会は、従来の社会から大きく変化することが必要となる。今までの社会制度を変える必要すらあるのかもしれない。そのとき社会はその変化を見極めて受け入れることが求められるのである。

<循環型社会における科学技術とは>
 売り手には売った後の視点が、買い手には選ぶ視点が、そして世間には変化を認める視点が重要であると先に述べた。このうち一つでも欠けてしまったら、循環型社会は構築できない。ではこれらの視点を持つためにはどうすればよいのか。その答えは「三方を結ぶ技術開発」であると私は考える。そこでまず、「なぜ現状では三方が結ばれないのか」を、家電量販店で私たちが製品を選ぶときの視点を例に考えてみる。
 製品を製造するメーカーは、リサイクル法などの規制により3R性を考慮した製品開発を行う方向へ動いている。また各業界団体では、3Rに配慮した製品に貼ることができるラベル等を開発している。しかしながら、消費者が製品を選ぶ場の家電量販店に行ってみると、省エネ性を示すラベルは価格の横に貼られているが3R性を示すラベルは貼られていない。さらに販売員も3R性に関する製品説明はほとんどできていないのが現状である。そして社会もそれを求めていない。これはなぜなのだろうか。3R性は経済性という面で消費者に直接的なメリットが無く、さらに社会も経済性を重視する傾向にあるからだと私は考える。この経済性一辺倒の視点を変えるには、循環型社会構築の必要性を訴える必要がある。
 ここから見える問題点は、メーカー側が3R性に関する情報を持っていても、それが消費者や社会へと伝わっていないということである。循環型社会に向けての「製品を作る技術」が発達していないのではなく、「情報を伝達する技術」が発達していないのである。現状では「メーカーが環境に配慮した製品を製造しても消費者と社会がそれを受け入れていない、だからメーカー側も積極的に環境に配慮した製品を開発しない」といった悪循環に陥っている。循環型社会の構築には、ここに横たわる「情報の壁」を破壊する必要がある。

<情報の壁を破壊する科学技術へ>
 内閣府に設置された諮問会議である科学技術会議では、科学技術を「科学に裏打ちされた技術のことではなく、科学及び技術の総体」と解釈している。そして技術には「物事を巧みに使う技」という意味がある。
 21世紀は「環境の世紀」と言われており、今世界は大きく社会システムを転換する時期に差し掛かっている。この転換に必要な要素の一つとして、情報の壁を破壊する必要があり、物事の情報を巧みに使いこの壁を破壊することも「科学技術」なのではないだろうか。理工系にいる学生や教員は、従来の「製品を作り上げる科学技術」から、「製品のもつ情報を生かす科学技術」へとその定義を拡大することが必要であると私は考える。

<情報の壁の破壊へ向けた理工系の役割とは>
 先ほどの家電量販店において伝達されていない情報とはなんだろうか。私は下記の2点であると考える。
 @ 3Rが必要になっている背景を示せていない。
 A 3Rを考慮した製品であることが明示されていない。
 Aは@の後の段階である。つまり@を消費者や社会が理解した後にAが役立つのである。
理工系の強みは、先に述べた製品の広い範囲でのライフサイクル、つまり「資源採取→製造→使用→廃棄→処理・リサイクル」、のすべてに関わっている点である。そのため製品のライフサイクル全体の情報を有していることになる。また何よりの強みは、工学的な視点を有しているということであり、これら二つを組み合わせることで、情報を定量化することができる。循環型社会に向けて今求められている理工系の役割は、循環型社会の構築が必要な背景やその効果を定量的に「可視化」し、消費者や社会に提示することなのではないだろうか。

<おわりに>
 「自分さえ良ければいいと考える自己中心的な人間が増え、無責任な社会になってしまった」と日本社会は最近言われている。循環型社会の構築は環境面からだけではなく、何より社会的側面からも必要なのではないだろうか。
 循環型社会では、ごみの分別区分が増えたり、捨てた後のことまで考えたりと社会に住む人々にとっては今より負担が増えることもある。そこに必要不可欠な要素は「人々の協力」である。
 循環型社会の構築は「みんながみんなのことを考えることができる社会」の構築につながると私は考えている。ここに科学技術が活かされることは、科学技術にとって幸せなことだと私は考える。

【参考文献】
1) 新鐘No.74 『早稲田に聞け!シリーズ10「つくる」』(第1部8:永田勝也のページ)
http://www.waseda.jp/student/shinsho/html/74/7422.html
2) 三方よし研究所HP
http://www.sanpoyoshi.org/policy.html
3) 文部科学省HP(「科学」と「技術」、科学技術について)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/kagaku/kondan21/document/doc03/doc36.htm
4) CSR 企業価値をどう高めるか、高巖、2004年11月15日、日本経済新聞社、P37-P41