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2008年(第10回)

【入賞】
科学技術の方向性
熊本電波工業高等専門学校 電子制御科 3年
西澤 悠大郎

<はじめに>
 現代における科学技術の進歩は著しく、この技術によって私たちの生活は支えられているといっても過言では無い。今、技術は常に新しいものを創造し続けている。
 携帯電話を例にあげてみると、多数の企業がほぼ毎年、毎シーズン多数の機能を付加した端末を次から次へと発売しており、その機能はもはや携帯電話の域を超えている。
 このように新しい科学技術が新しい製品を生み、そこからまた新しい科学技術が創造されていくことで社会はより便利な社会へと発展している。しかしその一方で工場の大気汚染などによる環境破壊によって地球の環境が悪化し、その被害は周りまわって人間社会にも及んでいるのは周知の事実である。なかでも最も深刻な被害が「食」に関する被害で、特に最近、食の安全管理が問題視されるなか、諸外国からの輸入に頼っている日本にとっては一刻を争う問題である。日本がこの問題を解決するには、まず国の自給率をあげるべきである。しかし国土が狭く島国の日本にとって耕地面積をこれ以上増やすことはできない。このままだといくら社会が便利になっていっても食糧不足に苦しまなければならない。 
 そこで必要となってくるのが科学技術の方向性の転換である。今まで社会の進化を重点的に置いてきたが、これからは社会の再生・維持のためにその科学力を駆使すべきである。
実際に近年は環境のことに配慮したエコカーなどのように排出する二酸化炭素を減少させたり、他にも省エネルギーで動作する電化製品などが主流になってきている。
 しかし、ここで先ほど述べた「食」に関する問題の対策は環境問題の対策と比較してもあまり具体的になされていない。そこで今、注目されているのが、地下農業である。これは言葉のとおり地下で農業を行うのだが、ただ行うのではなく、気温や湿度、日照時間な
どの全ての環境条件を人工的に作り出し、作物が一番効率よく育つような環境を維持させることで、生産能率を大幅にあげることができる技術である。極端に言えば「科学技術と農業の融合」だ。これが大規模に実施されればおそらく食料自給率が上がることは必須である。
 この論文では地下農業というレンズを通してこれからの科学技術の方向性と日本の将来について迫っていく。

<都会の中の地下農場>
 実際にこの地下農業に力を入れている人材派遣会社パソナが東京の地下に農場を開設している。ここでは光や温度などの環境をコンピュータによって制御し、野菜や稲、花やハーブなどさまざまな植物を人工的に栽培している。
 この施設の説明によると、植物の光合成の特性と光の波長の関係を利用して一番光合成が効率よく行われるように光を調節しているということなのである。
 例えば、植物の光合成するときに必要な太陽の光は、照明で人工的に作り出すことが出来る。一般の蛍光灯でもある程度栽培できるが、植物によって適した照明が違っているので、数種類のLEDを組み合わせて人工照明を作ることができる。人工照明を使うと、日照時間や温度などを自在にコントロールでき、その植物や作物の効率を最大限にあげることが可能になる。また、水槽の照明やサッカースタジアムなどの照明に使われるメタルハライドランプという輝度の高いランプを使って稲を育て、通常1年に1回の収穫を3回まで増やすことができる、この方法で施設では実際に証明された。
 このようにして、科学技術を駆使して自然の状態をつくりだし、実際に栽培しているのだ。
 自然界では不規則な天候もこの地下なら天候に左右される心配がないので、台風などの災害も無く常に安定した収穫ができる。
 特に台風による被害は甚大である。国立情報学研究所の資料によると、「1999年台風18号は、九州、中国・四国地方を中心に大きな農業災害を引き起こした。とくに、水稲、野菜、果樹、飼料作物等の農作物は、倒伏、落果、折損等による災害が発生し、農地や農業施設などの被害を含めて、九州、中国・四国地方では、台風9918号による農業被害の総額は1135億円に及んだ」と記されている。
 1135億円というと莫大な被害総額である。これがもし地下農場だったらこの被害総額を0とはいかないかもしれないが、最小限に抑えることができるはずである。
 そして、農業の問題の1つであるといわれている農家の高齢化、後継者不足が起きている現状では、農作物の生産に軽作業・省力化されることが必要であり、地下農業が全国的に実施されれば、耕作などの重労働をせずただパソコンの画面を見ているだけで、農作業の工程を行うことができる。
 さらに、害虫がいないので農薬を使う必要もなくなり無農薬野菜が栽培できるので、この「効率」と「安全」と「人手不足」の3点の問題をいっぺんに解決することができるのだ。

<現在の食料自給率との比較>
 フランスは130パーセント、アメリカは120パーセント。これは農林水産省が出した国ごとの食料自給率である。この両国は数字のとおり、食料はすべて自国でまかなえていることになりさらにおつりまである。一方、わが国日本はアメリカの3分の1の40パーセント。さらに穀物にいたっては30パーセントを下回っているのである。あきらかに輸入しなければ食料は不足してしまう。100パーセントで自国をまかなえるその自給率で40パーセントというのは致命的である。
 ここでさきほどあった地下農業での一年に3回収穫できる稲や無農薬野菜などが日本全国に広まれば、農産物における自給率は大幅に上昇することが見込める。さらに農薬を使わないことから、今食物にとって大切な衛生面、安全面にも信頼をおくことができるのだ。

<まとめ>
 最近はバイオテクノロジーの進歩や、栽培技術の発達により、大規模な野菜工場などが実現されている。また、敷地面積当たりの収穫高を激増させることができ、集中管理も容易で、天候に左右されない安定した作物の栽培を計画的に行なうことができる高層植物工場等も提案されている。高層植物工場は、高層建築物の建設や、付帯設備に多大のコストを要するなど問題はある。しかしこの問題を解決できれば実際の採用が可能なまでに科学力は進化してきた。これは日本の農業界にとって大きな前進であることには違いはないだろう。
 科学技術の進歩で社会はより便利になり暮らしが豊かになってきた影で、確実に迫り来る環境問題による食糧難。それに気づくか否かは自分しだいだが、もう食べるものも無くなった時に手元に握り締めたハイテク機械は本当に役に立つのか。日々進歩し続けている科学技術も使う方向性一つで結果は大きく異なってしまう。それほどまでに科学は人間社会において重要である。そのためにその重大な影響力を持つ科学技術を創造し発展させていく技術者にとって、周囲をみて、世界をみて、その方向性を慎重に選んでいくことは技術者としての責務である。そして、その責務を果たしていくことが日本の将来、いや、世界の将来を、子供たちの将来を守ることにつながっていくのである。

【参考文献】
[1] 人材派遣パソナ パソナ02
http://www.pasonagroup.co.jp/pasona_o2
[2] 農林水産省 食料自給率の部屋
http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/index.html
[3] J-Tokkyo.com
http://www.j-tokkyo.com/2006/A01G/JP2006-280252.shtml
[4] 国立情報学研究所
http://ci.nii.ac.jp/naid/110001740656/