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2008年(第10回)

【入賞】
今こそ科学に感激を!
沖縄工業高等専門学校 生物資源工学科 5年
城間 安紀乃

 「理科離れ」が叫ばれて久しい。以前、実家の近所の子どもたちに「将来の夢は?」と尋ねてみれば、2名から「公務員!」と返ってきた。具体的な職業名は出てこない。宇宙飛行士が一人くらいいても良いのでは、と内心多大な衝撃を受けたことを思い出す。私が彼らと同じ4、5歳のころには、男の子の憧れと言ったら宇宙飛行士が一番人気だった。そうでなくとも子どもには、研究者や技術者など、ものづくりに憧れや関心をもってもらいたい。好奇心からわき上がる疑問を追究してほしい。これは、裏を返せば「科学」のアピール不足ともいえる。科学に「感激」が足りないのだ。

 現代は情報が氾濫している。インターネットがメディアとしてその地位を確固たるものにし、インターセーフに守られた学校のパソコンで調べ学習、テレビ番組は地球温暖化や正体を見失ったエコで持ち切り、学校の図書館にある科学雑誌にはあまり手を出さない。玉石混淆の情報の中に科学が埋もれていく。学習に感激を欠いた受け身の子どもたちの気を引くには、科学からの歩み寄りがほしい。歩み寄って、子どもたちが元来持っている好奇心に火を付けるべきだ。一度火がつけば、あとは子ども自身が勝手に情報を集めはじめる。なんでも教えてもらう受け身だったはずが、蓋を開けてみれば能動的なのが子どもだ。科学は今後さらに積極的に、その火種となる絢爛のパフォーマンスをみせていくべきである。
 科学技術が我々を魅せる巧妙なパフォーマンスのひとつに、五感へ訴えかけるあの「体感」がある。肉眼では捉えられない現象をビジュアル化したり、音声をつけたり、さらには振動や熱など、触って感じることも出来るようになってきた。見る、聞く、触れる、香る,味わう。常々思っていたのだが、これからの技術者を育成するために必要なのは、この五感と科学技術のさらなる融合、そしてそこからのアプローチではないか。

 これは私が長年抱いている要望なのだが、科学技術の最先端をゆく施設は、ぜひとも我々にその技術を「五感」で体感させてほしい。それも自宅、あるいは学校で。滅多に訪ねることのできない科学技術関連施設に、擬似的に足を運び、さらに通常では見る事の出来ない現象(たとえば原子が崩壊していくようすなど)に触れてみたいのである。つまりは、施設見学をシミュレート、あるいはロールプレイングできるシステムを構築してもらいたい。なぜこんなことを要求するかと言われれば、単に私も幼い時分には「科学」がどういうものなのか、いまいちイメージできずにいた、そのことを思い出したからだ。運良く科学の素晴らしさを見つけ出し、工業高専に入学してからも、分子の動きをイメージするたったそれだけにも随分と苦労した。この苦労も今となっては面白いものだったが、私が頭を捻りながら繰り返したイメージがより鮮明に、誰しもが体感できるものとなればもっと面白い、科学に臨場感があることはきっと面白いのではないか。

 そこで私が考える案はこうだ。現在では多くの家庭や学校、その他の教育現場において、常時インターネットに接続できる環境が整っている。このインターネットを用いて,先端技術をもつ施設のホームページへアクセスする。施設側にはあらかじめ、映像、音声、振動など五感を通して感じられる情報を制作してもらう。そうして美しくデザインされた高度なユーザインターフェースにより、受け手の我々は、その情報を五感で感じ取る。
 たとえば,私が「宇宙に果てはあるか?」という内容のウェブページを開いたとしよう。宇宙は私にとって体験したことのない未知のものであり、容易には想像しにくいものである。それを高度なユーザインターフェースにより、ウェブページから受け取る(体験する)。パソコンに接続したメガネ型ディスプレイにより、3Dで構成された宇宙空間を一望する。ジョイスティックにより宇宙空間を移動し、ジョイスティックから「進みづらくなる」感覚が伝われば、私は「現在、私たちが観測可能な領域はここまで」と判断する。バーチャル・リアリティの世界とはいえ,臨場感のある科学は子どもに大きな感激を与えるだろう。シミュレーション・ゲームに抵抗のない世代でもあるこの時代の「未来の技術者」たちには胸躍る科学となり得る。
 例に挙げたメガネ型ディスプレイやジョイスティックの他にも,感覚を扱うインターフェースは実に様々である。いずれかの感覚に障害をもつ人への補助となったり、手術用の機材に用いられていたり、もちろん我々の身近にも溢れたりしている。現在では多くの分野で五感と科学技術を掛け合わせた新技術の研究開発が進んでいる。

 国立天文台や地球シミュレータセンター、国立極地研究所、スーパーカミオカンデ、NASA、国内外を問わず体験したい施設を挙げればきりがない。夢や希望に満ち溢れた内容もあれば、いまの科学や産業の課題を浮き彫りにする現実をつきつけられることもある。しかしこれらの情報を五感によって体感することは、感受性豊かな子ども時代においてまさに科学技術の叡智そのものを体感することである。
 ただし、単に映像を見せ、コントローラーを用いて操作させるだけではまだまだ押しが弱い。せっかくコントローラーという入力装置があるのだから、マイクを用いて音声認識を行い、施設側と2方向のコミュニケーションが取れるようにしたらどうだろう。子どもはきっと、次々にわき上がる疑問を口にする。それに対しプロフェッショナルから直々にレスポンスが返ってくる。逆にプロが子どもの目線を実感することもできるだろう。子どもの疑問をデータベース化すれば、アクセス数が増えるたびに様々な「素朴な疑問」がデータバンクを構築し、このデータを用いて外部の教育機関で積極的な講演もできるのではないか。
 子どもの知的好奇心を刺激し、知的欲求を満たす副産物として、情報を提供する施設側も非常に有意義な情報が得られる。さらにこれを子どもが手元のパソコンで(いくつかの必要条件を満たして)体験する事ができる。科学から受けた感激は、科学に興味を持つきっかけとして必要十分条件だ。
 きっかけさえ与えれば子どもは育つ。小学校までの教育の場では、子ども一人ひとりの素質を見出すことこそが最大の目的であってほしい。これからも続々と現れる新時代の子どもたちの、その科学の芽を開花させてゆくのが、科学に課せられたひとつの使命である。


【参考文献】
[1] Newton,2008年7月号、株式会社ニュートンプレス、p60−p61
[2] 独立行政法人産業技術総合研究所ウェブページ、プレスリリース2005.4.11発表分、2008.8.1閲覧
URL:(http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2005/pr20050411/pr20050411.html