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2008年(第10回)

【最優秀賞 文部科学大臣賞】
「ワクワクを引き出す体験型学習」
東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 修士2年
若松 佑樹

<1.体験型学習のススメ>
 イギリスには、こんな諺があるという。
「聞いたことは忘れる。見たことは思い出す。体験したことは理解する。自分で発見したことは身につく」
 普段の学校での授業は、先生と教科書を中心に見たり聞いたりすることがほとんどだろう。単なる暗記や知識の蓄積が多く、体験や発見が非常に少ない。ただし、理科では授業の中に実験があり、体験や発見をする機会が多かった。しかし、授業時間の減少により実験の機会も減らされてきた。これは「理科離れ」の大きな原因の一つとされており、私もこれが一番の原因ではないかと思う。私は、この「理科離れ」を解決する方法として、実験に代表される体験型学習をお勧めしたい。
 体験型学習の重要性は、J-POWER(電源開発株式会社)と環境教育を行う財団法人キープ協会による「エネルギー環境学習プログラム」に参加して実感することができた。その活動内容は、五感をフルに使ったプログラムだった。ブナの森の中を目隠しして誘導されながら歩いたりした。色々な葉っぱや木の実を探し、それらを使っていくつもの遊びをした。この経験を通して森とその土の豊かさを知った。また、ダム式水力発電施設の見学もした。その後、森の土に浸み込んだ水がダムに流れ込み発電するまでの実験を行った。自然の中での体験と実験によって、森とダム式水力発電の関係を学んだ。この時の体験や実験は今でもハッキリと覚えているし、これからも忘れないだろう。なぜならば、普段の授業とは違って五感の全てを使い、多くの気付きが与えられ、たくさんの驚きや感動と共にワクワクした楽しい気持ちを抱いたからだ。

<2.伝えることの重要性>
 自然の中での体験の終わりに、感想を漢字1文字で表すというワークを行った。23人が漢字を書いて、出てきた漢字は22種類だった。全く同じ体験をしたにも関わらず、感じ方は人それぞれ全く異なっていた。感じたことをお互いに話合ってみると、相手の考え方や視点が分かり、更なる発見が生まれた。お互いの意見を交換し、理解し合うことで、強いつながりの意識も出てきた。そのつながりは、活動が終わった今でも続いている。
 私は、「伝える」ことは、共有することだと思う。自分の想いや考え、体験を共有できて、初めて相手に「伝わった」と言えるのではないか。この「伝える」ことも、学校の授業では少ない。勉強をしても、アウトプットにはテストが多い。テストでは正解は1つで、○か×かどちらかしかない。しかし、単なる二者択一ではなく、相手の考え方や視点を学んで取り込み、自分の幅を拡げることはもっと大事なことだと思う。さらに、「伝える」ことにはメリットがある。それは、自ら進んでインプットするようになることだ。人に伝えたいと思う時、どうすれば伝わるか考えるようになる。もう一度内容を整理したり、伝え方を工夫したり、理解してもらえるように新しい情報を取り込んだりする。
 「伝える」ことにより、お互いに理解し合い、新たな発見や視点を得る。想いを共有することによって、つながりが生まれる。そして、伝えようと努力することによって、さらにインプットを増やす。つまり、「伝える」という行為は、様々な場面で正のスパイラルを生み、無限の相乗効果が期待できるのだ。

<3.ワクワクを引き出す体験型学習>
 体験型学習を通して新たな発見をすることは、本当にワクワク楽しい経験であった。五感を使った体験ができる理科の実験も、まさにこの体験型学習である。小中学生への調査で観察・実験が好きと答える生徒は80%を超えているという。しかし、従来通りの実験を行っても、その効果はまだ十分に発揮されてはいない。この調査では、大きな課題も示されていた。それは結果やデータを基に考察し、結論を導き出せる生徒が少ないということだ。ありのままの事実を受け入れることはできるのだが、「なぜそうなったのか」をしっかり考えられていないのである。授業内の実験は、人手や時間の不足などから、与えられた作業をこなすだけになりがちである。しかし、自分たちで考えながら実験を行い、結論を出す自律型の実験を行うことによって、想像力豊かな理科好きの子供たちを育てることができるのではないか。
 これまで、理科好きの子供たちを育てるために必要な教育について述べてきた。そもそも教育とはいったい何なのだろう。教育は英語で言えば、「Education」。その語源はEduce「引き出す」という単語である。つまり、見たり聞いたりして教わることではなく、自分が得たことから新しく何かを発見することではないか。そして、ワクワク楽しい想いを引き出すことではないか。そのためには、色々な経験をし、きちんと考えて何かを見つける。その時のワクワクした想いは、子供たちの夢や目標になることもある。それをサポートするのが、親であり、教師であり、周りの環境や制度を作る大人だ。そのためにも、是非とも大人と子供が一緒になって体験型学習をして欲しい。
 体験型学習の一つである実験にも課題は多いが、「考える」ことと「伝える」ことでより良い学習となるだろう。具体的には以下の3点が必要だと考える。
 (1) 課題に対する結果の仮説を考えさせ、必要な実験方法を考える。
 (2) 実験で得られた結果を考察し、結論とその理由を導き出す。
 (3) (2)を他の人の前で発表し、話合う時間を設ける。
もちろん実現するためには問題もある。例えば、全員に配慮できるように実験のサポートを行うスタッフを用意しなくてはならない。また、授業数が少ない中、これ程までに時間のかかる実験の授業を確保しなければならない。しかし、授業や休日を多少減らすことになっても、やる価値は大いにあると思う。福井県では、理科や数学の専門家を学校や公民館に派遣して、実験などの体験学習をする「ふくいサイエンス寺子屋」などの取り組みが行われている。そのような取り組みによって、福井県では理科を好きと答える小学生が増えているという。

<4.終わりに>
 現在、私は大学院で生命科学を専攻し、毎日朝から夜遅くまで研究を行っている。私だけでなく、周りには休日も関係なく研究に励む人たちが大勢いる。私の両親は夜遅くまで研究に励む生活を心配してくれているが、「僕はやりたいからやっているんだよ」と答えている。ごく一部分ではあるが、生命現象を明らかにすることはとても面白いし、誰も知らないことを発見することは、私にとって本当にワクワクすることなのだ。もちろん、発見をするために実験の計画を立てて実行し、改善することを常に続けている。そんな私が生物の研究をやろうと思ったきっかけは、幼い頃から虫や植物、海などの自然と接してきたことからだ。周りにも、子供の頃の生物や自然に対して不思議に思う気持ちが、生物の研究を始めるきっかけだと語る人は多い。やはり、子供の頃の経験が将来の自分につながっているのだ。
 これからの日本を支える子供たち、そして、それをサポートする大人たち、その両者が理科・科学にワクワクするようになれば、「理科離れ」は過去の言葉になるだろう。むしろ、興味を持つ人が増えていくと思っている。そのワクワクを引き出す体験型学習こそが、その一歩であり、これからの科学技術を開く鍵となるだろう。

【参考文献】
1) 国立教育政策研究所教育課程研究センター 特定の課題に関する調査(理科)
http://www.nier.go.jp/kaihatsu/tokutei_rika/index.htm
2) 中日新聞:理科好き児童、増加中 県の取り組み実る:福井(CHUNICHI Web)