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2007年(第9回)

【審査委員特別賞】
「“ひらめき”は日本を救う」
工学院大学 工学部 システム工学科 4年
山口 昌宏
山口 昌宏

 明治維新以来、日本の驚異的な近代国家への変身に世界が注目した。特に、戦後の技術立国としての成立ちが日本の生きる道として大きな部分を占めており、それを支えてきたのは、各時代の優秀なエンジニア達であったと言って過言ではない。しかし、バブル崩壊、平成不況という時代と共に、中国・韓国を始めとするアジア勢の台頭により、「技術大国日本」の優位さはなくなりつつあり、このまま抜本的な対策を講じないでいると、日本は技術大国の座を必ず奪われる事になる。だが、こういった状況の中でも資源が乏しい日本は、技術で立国しなければならないという現実は変わらない。つまり、優秀なエンジニアが日本の未来を握っているのである。
 では、技術立国を支える優秀なエンジニアとは、一体どのような能力を持つ人材なのか。私はこの疑問を解くため、過去に偉大な発明をした発明家・科学者・技術者の伝記やその人物に関する本を読んでみた。その過程の中で私は、彼らの共通点を発見した。彼らは必ず本来の研究課題と異なる事をしている時に、突然、今まで思いつく事が出来なかったアイデアが浮かんだと言っているのである。その中で、日本人初のノーベル賞(物理学賞)受賞者となった、中間子論の提案者の湯川秀樹が、中間子論を考え付いた有名な瞬間をある本は“ひらめいた”と表現している。

1.“ひらめき”って何だ?
 「核子を結びつけるものは何かと毎晩同じ事を考えていたら、天井版の年輪模様の一部に、年輪の中心のぐりぐりが2つあり、その外をひょうたん型に年輪が囲んでいるものがあるのに気付いた。次の日の昼間、気分転換にキャッチボールをしている時、昨晩の中心が2つからなるひょうたん型の年輪を思い出した。そして、ふと投げ返そうとして手に持ったボールを見せたとたん(このボールが中間子)、核子同士でボールを投げ合っているから反発せずに集まって核を形成しているのだと、仮説を思いついた。」と湯川秀樹はエピソードを語っている。
 私はいわゆる“ひらめき”という現象について1つの仮説を提起したいと考えている。それは、上記のエピソードを読んだ際に感じた事なのだが、ひらめきが起きるためには、以下の3つの条件が揃う必要があるのではないかという事である。

  1. 専門性を網羅した幅広い基礎学力
  2. 研ぎ澄まされた感性
  3. 繰り返し繰り返し何百回となく問題を考え続けられる継続力

 私は、専門性を網羅した基礎学力が大きな足場となった土台の上に、研ぎ澄まされた感性と継続して考え続ける力が合体した土壌がひらめきの基礎になると考える。これらがベースとなり、3つの要素が人一倍高められた時に、いわゆる“ひらめき”という現代科学で解明されていない瞬間が起こるようである。もし、私の粗削りな仮説に可能性があるならば、“ひらめき”とは天才と呼ばれる一部の人間が偶然手に入れるものではなく、訓練次第では、そのポテンシャルを持つエンジニアであれば誰もが手に入れる事ができるある種の高度な能力と考えられはしないだろうか。つまり、基礎学力・感性・継続力を養った人が辿り着ける、もう1ランク上の能力がいわゆる“ひらめき”ではないかと私は考えた。脳科学の分野でも“ひらめき”の実体については、未だに数多くの事柄が究明されていない。また、脳の仕組みが全て解明されるには、まだまだ多くの時間が必要である事は間違いない。だが、実際に過去に偉大な功績を残した発明の回想には、ある事柄を通して、具体的にその人の頭の中で何が起きているか良く判らないが、その瞬間に“ひらめき”という現象が起きている。

2.“ひらめき”はなぜ必要か?
 私は、今日までの日本の発展や現在の技術大国としての優位性は、日本独自の勤勉性や感性の鋭さが他国より勝っていたからであると考える。しかし、それに満足していては近い将来、日本を模範とする国々に並ばれ、技術大国というアドバンテージがなくなってしまう。私は、日本が技術大国の座を不動のものにし、世界のパイオニアであり続けるためには、どんな対策を講じるべきであるのかを考えてみた。
 その答えの1つとして、私は、将来を担うエンジニアの質をより高めていくために、この“ひらめき”を能力として身に付けさせる事ができないだろうかという考えに至った。そしてこれが、日本が技術大国として活きて行くための打開策になるのではないかと考えたのである。これまで、“ひらめき”という世界を経験し、『世界初の発見』や『未来の定番』を創り出した人物は一部の天才と呼ばれる人のみであった。しかし、日々刻々と技術革新が起こる現代では、より画期的なものを、より早く思い付かなければならないが、高度な技術に挑戦できる環境が整い、過去に比べてより多くのエンジニアに開発するチャンスが与えられているのにも拘わらず、1人の個人が独創的なアイデアを生み出せるのは、一生の中で1回、多くても数回と言われている。発明王エジソンのように、次々と素晴らしい発想を生み出し、実現できるエンジニアは極めて稀なのである。つまり、一部の天才の“ひらめき”に期待するのではなく、優秀なエンジニアが“ひらめく”頻度を向上させていく事が、すなわち日本が技術大国としてのアドバンテージを得るチャンスになるのである。したがって、私は、日本は再び技術大国として生き続けられるために、今までの特定の人材のひらめきに頼るというレベルから更に進めて、“ひらめき”という能力を将来のエンジニアの育成の中に取り込む事が必要なのではないかという結論に至った。“ひらめき”を育む教育を受ける事で、より多くのエンジニアが湯川秀樹やエジソンといった天才と呼ばれる人達のレベルに近づく事ができたなら、これは凄い事ではないか!私は、すでに高度な教育を受けた日本のエンジニア達が“ひらめき”という能力を手に入れ、これを十分に発揮して仕事に取り組み、世界中で活躍する事ができたら、日本はもう一度、他国に対してアドバンテージがとれると信じている。ゆえに、私は、技術大国日本を再構築するための切り札が“ひらめき”という能力だと強く考えるのである。

3.“ひらめき”を身に付けるために
 では、将来のエンジニアが“ひらめき”という能力を身に付けるためには、どうしたら良いか。私は“ひらめき”を育むカリキュラムの作成が早急に実施されるべきであると強く考える。現代医学でも解明されていない“ひらめき”を能力として捉え、育成カリキュラムを作り出す事は、非常に難しい事であるし、“ひらめき”を経験した人でなければ、教えようがないのも事実である。しかし、日本が技術大国を維持するためには、やはり優秀なエンジニアを育成しなければならない。そのためにも、“ひらめき”育成カリキュラムの作成は、解決しなければならない日本の重要な課題なのではないだろうか。私は、カリキュラムがない現時点では、まず、“ひらめき”とはどういったものかを知る事が必要であると考えている。例えば、“ひらめき”を経験した事のある人物に講義を開いてもらう事ができないだろうか。国籍を問わずノーベル賞受賞者など、過去に偉大な“ひらめき”を経験した人物を各大学に講師として招いて、自らがひらめいた瞬間を説明してもらうのである。ひらめいた本人も自らの脳内で何が起こったか説明できないと思うが、可能な限り説明してくれれば、何か得るものがあると確信している。こういう場を是非、大学のカリキュラムの一環として授業に組み込んでもらいたい。もしこれが実現されれば、優秀な若手エンジニアが必ず啓発されていくはずである。そして、素晴らしいチャンスを得て、啓発されたエンジニアが、基礎学力・感性・継続力を養い、“ひらめき”という能力を身に付け、日本の技術大国を支える役割を引き続き担っていく事を私は期待してやまない。

 


【参考文献】
1)

エンジニアが30歳までに身につけておくべきこと 椎木一夫
平成17年10月20日 日本実業出版社 p.1−p.70

2)

天才科学者の不思議なひらめき 山田大隆 平成16年8月11日
PHP研究所 p.144−p.153

3)

働くということ 日本経済新聞社 平成18年9月1日 日本経済出版社p.132−p.135