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2007年(第9回)

【特別賞】
「技術倫理がつくるこれからの日本ブランド」
金沢工業大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 2年
河野 創
河野 創

 日本経済は、自動車に代表される製造業“ものづくり”によって支えられている。“ものづくり”は、高度成長期以降も順調に成長してきた日本ブランド1)の一つと言える。日本は古くから製造業における各分野の分業化が成されており、それらの横につながりが広く、多くの企業が研究熱心である。これらが総じて、目標とする高効率、高品質、環境対策といったものに向っており、結果として他国ではまねのできない高度な加工技術を実現するに至っている。
 しかし、近年ではより人件費の安い大陸や東南アジア諸国への産業の流出が目立つようになり、産業の空洞化が顕著になってきている。このままでは日本の技術レベルは、技術流出の影響を受け、中国をはじめとする発展途上国に追いつかれることだろう。低コストで製品を製造する諸外国に対して、日本がこれからもアドバンテージを保ち続けていくためには、他国にはまねすることのできない技術を開発し、今よりもさらに高性能、高付加価値をもった製品を作り出す必要がある。日本は他国を圧倒する高い水準で“ものづくり” を行い、常にリードする存在でありたいと、そう思うのである、私は日本のものづくりに 活気を与えるためには何が必要なのかを考えてみたい。

 今の日本産業は安全安心が特徴である。製品の安全性や信頼性といった製品付加価値は、他国に対する競争力である。自動車の衝突安全ボディを例にしよう。中国車の「陸風(Landwind)」のボディは、衝突安全性テストで星ゼロという最低評価を受けた2)。対する国産車は、TOYOTAの「GOA」3)や日産の「ZONEボディ」4)のように衝突しても室内空間が維持される構造が、世界最高レベルの安全性を実現している。私ならば多少高価でもそれで身の安全と日頃の安心感を買えると思えば、日本車を選択するだろう。
 ここで注目したいのは、自動車選びのときに燃費などの主要な走行性能ではなく、安全性が選択基準の1つになっていることである。こうした製品の本来の性能とは関係しない要素での選択基準は、ほかにも例を挙げればきりがないほどである。使いやすさ、間違いにくさ、フェイルセーフ、消耗品の交換のしやすさなど、数値では表現されない様々な要素がある。これらは製品付加価値と言われるものである。その代表的なものに“安心安全な製品”がある。以前は“made in Japan”というだけで海外製品と比べ信頼性が高く安全安心で長持ちするというイメージがあったが、今日では余りこだわることもなくなってしまった。例に述べた自動車にこそ大きな差が見られるが、家電製品全般については他国の製品と日本製のものとの差がなくなってきていると言っていいだろう。コスト面で不利な日本は、今後そのコストに見合うだけの製品付加価値を武器にしていかなければならない。
 製品に対する付加価値は、それを設計、製造する技術者倫理によって与えられる。特に技術者は利用者の安心安全に配慮したものづくりをしなければならない。例えば我々が生活で用いる洗濯機は、運転中でもフタを開ければドラムが自動的に停止するように作られている。当然のことのようにも思えるが、これは技術者が安全を考慮し、フタが閉じているかどうかが判別できるような設計をした結果である。このことは現に製造物責任法(PL法)に、物を生産する人はその製品が安全なものであることを保障する必要があることが示されており、消費者が危険に振りかからないようになっている。
 しかし技術者倫理が欠如すると、製造物は途端に危険なものになる。以前、シュレッダーで子供が手を怪我する事件が発生し問題となった。製品の作業性を重視するあまり、手が巻き込まれる可能性を考慮した設計になっていなかったのが事故の原因である。ほかにもトラックのシャフトが破損する事故や、食品製造の分野では消費期限の偽り、柏崎刈羽原子力発電所の問題による放射線漏れの疑いなどがニュースとして取り上げられ、消費者は不安を感じずにはいられなかったことだろう。技術者がしっかりとした倫理観をもって製品開発に従事することで、こうした危険は抑制出来る。シュレッダーの事故を教訓にし、刃が直接触れることの出来ないようカバーがつけられた設計がなされるようになった。自動車のシャフトについては、破損しないよう強度計算を検討しなおし、より安全な設計がなされた。事故を教訓に、新たな視点で設計を見直すことを繰り返し、より良いものを設計できるように成長していくのである。求められるワンランク上の製品付加価値は、携わる技術者の倫理を強化することによって実現される。

 ただし技術者の倫理は、詰め込み型の教育方法では十分な能力として備わらず、より優れた技術者を育てるのは容易なことではない。設計の細部は、多くの感性が判断材料となる上に、様々な分野の事象が複雑に絡まりあう状況で問題点やその解決策を導き出す必要がある。また唯一無二の解答が存在しないという点も、単なる数学的な計算とは異なる部分だ。そしてもっとも困難なのは、倫理観を鍛える方法は唯一経験するしかないという点である。人間一人がエンジニアに成長するまでに経験できる事象などは、たかが知れている。前述したような危険な事故を経験のために起こすわけにもいかない。そこで、私は技術者教育に対してロールプレイングを積極的に取り入れていくことを提案する。過去の事故をテーマとして取り上げ、当時の作業員の考え方や装置を運用する際の日常など、些細な部分まで考察・シミュレーションすることで、過去の“記録”を“経験”にすることが可能となる。このような一歩踏み込んだ考察やディスカッションをすることで、事故の裏側にある真の問題点を発見し、それについて向き合う能力を養うことができる。さらに、周囲の多くの意見をもとにして状況に応じた解答を作ることが経験値となるだろう。自ら考察することで多角的な見方や根本的な問題の解決方法を考える能力が鍛えられ、他分野の事例も含めた多くの“経験”が、今後直面する問題への向き合い方やそれへの解答によい結果をもたらしてくれることだろう。安全安心を付加価値として生産する日本の最大の資源として、今後はより一層エンジニア教育・技術倫理教育に力を注いでみてはどうだろうか。

 


【参考文献】
1)

今こそ「日本ブランド」の構築を、「Yokoso! To Branding Japan」研究会、2006年3月、社団法人経済同友会、2−4

2) Response.「中国製の四輪駆動は安全性テストで星ゼロ」
http://response.jp/issue/2005/0927/article74667_1.html
3) Toyota | Safety and Technology Website
http://www.safetytoyota.com/zh-jp/shock-absorbing-body-shell.html#/prius/technology/srscurtain
4) 日産 | 最新の技術 ゾーンボディ
http://www.nissan-global.com/JP/TECHNOLOGY/INTRODUCTION/DETAILS/ZONE-BODY/