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2007年(第9回)

【優秀賞】
「世界に満ちる信号に、感動する」
法政大学 工学部 システム制御工学科 4年
増山 康介
増山 康介

 自分は大学生活を山の中で過ごした。というのは言いすぎだが、大学で山岳部に入部し、非現実な場面に多く触れることができた。山のような非現実な場所に行くことは一見奇人のようにも、楽しみでそうしているように見られるが実際そうではない。とても辛く、自分がそこにいることが時に恐ろしくなる。しかし、そんな状況下で味わう感動は格別なものであった。
 人間には誰しも感動を味わう瞬間というものがある。そして、そのような感動を再び期待してしまう。それは感動というものが、生きていく上でかけがえのないものだからだろう。しかし感動は個人の範囲に留まることが多く、共有することは難しい。同じ瞬間にいることで共有することはあるが、考えられるケースは限られたものである。感動に限らず、人間の感情や、自然界の光、音など形としてないものが世界に多く存在する。形がないことが、それらを共有することを困難にしているのでないだろうか。しかしそれらのものは、人間、社会などすべてに親密に関係し、社会を形成していく上で重要な要素を担っている。それらを科学に反映することが、さらなる科学技術の向上、未来の創造に深く結び付くのではないだろうか。
 自分は現在、センシング技術を用いた生体信号計測の研究を行っている。センシングとは自然界の光、風、力、音など形のないものを対象とする。形のないものを信号と見なし、センサを用いて電気信号に変換することで計測を行う。形のない信号を電気信号に変換することは、情報にすることであり客観的にみることを可能にする。人間が「感動する」という行為も、視・聴・臭・味・触の五感を通すことで、体が信号を受け入れ、心理的に反応するというセンシングの一つである。
 研究を行うにつれ、センシング技術は日常生活においてとても身近なものであるとわかった。しかしセンシング技術は機械を開発する上で、あまり活かされていない。センシング技術には、これからの科学技術において大きな活躍を期待できる。

1.人間社会への機械の普及
 現在、人間の生活空間には機械が満ち溢れている。科学技術の発展と共に、快適な生活空間の形成を目的とした電気製品が日常生活においてなくてはならない存在となっているからだ。
 この十年、情報処理機械であるパソコンが電化製品として普及することで、ネットワークが社会を繋ぐ情報社会が形成されてきた。ネットワーク端末は進化し、利便性、機能性に優れた携帯電話が生まれ、人間はネットワークから離れることができなくなった。
 さらにネットワークは、容易に情報の共有を可能にさせた。情報を共有し合うことは、様々な学問、分野の融合を可能にした。このような技術の改新の中で「ユビキタス社会」と呼ばれる、情報を共有することで人間と機械の共存を形成する社会が提唱された。情報を共有できることが今日までの社会で創造し、それは現在も継続している。

2.人間と機械のコミュニケーション
 「ユビキタス社会」の様に、情報が社会に出回ることで変化した関係の一つに人間と機械の関係がある。人間が必要とする情報の質や量が変わることで、対応する機械の能力向上が必要となる。現在までの時間の経過の中で、人間と機械の関係は形成され続けている。今後の関係のさらなる向上を考える上で必要とされるものはなんであろうか。
機械と人間の共存を形成するユビキタス社会は、3つのプロセスによって成り立っている。第1のプロセスとして操作する人間の信号を得るためのセンシング技術。第2のプロセスとして得られた信号が何であるかを判別するための信号処理・情報解析。第3のプロセスは第2プロセスを経た情報によって動作する機械である。
3つのプロセスにおいて、人間と機械が直接関わりあうプロセスは第1、第3プロセスである。第3プロセスにあたる機械の動作範囲が発展した今、人間と機械の関係を向上させる可能性は第1プロセスに秘められているのではないだろうか。
 今日までの大部分の機械の動作は、第1プロセスの人間の操作によるところが大きい。そのため人間が操作しやすいよう操作性の簡略化を求めるデザイン、機能が開発において大きな焦点となっている。しかし、それは人間が機械に信号を与えるものであり、信号が多くなれば簡略化にも限界が生じる。では、今後機械が人間の信号を得るプロセスにおいて必要となるものは何であろうか。それは人間が機械に信号を与えるのではなく、機械が自発的に人間の信号を得ようと働きかけることである。つまり、第1プロセスの大部分であるセンシング技術にこそ発展を握る鍵があるのではないだろうか。

3.機械の感覚となるセンシング
 センシング技術は、機械にとって人間のように自発的に信号を得る技術となる。自然界の様々な信号を情報に変換することで、機械の動作に反映できる形にしている。つまり、人間でいう五感となる技術である。
 現在信号を計測する様々なセンサが開発されている。しかし、センサは対象となる信号によって使い分けられている。さらに計測した信号の中から必要な要素のみ情報とし、それ以外はノイズとして捨てられている。つまり、信号すべてを情報と扱っていない。センシング技術を科学技術の発展に反映させるには、今まで捨ててきた信号も含まれた幅広い情報が必要である。多種のセンサによって検出された信号のすべてを情報とし、反映させることが機械の感覚の形成となる。

4.機械が感覚をもつことによって感じるもの
 人間と機械の関わりを対象とした場合に、機械が感じるべき信号は二つある。一つは人間の五感が感じる信号である。人間が感じる信号は、人間には刺激と捉えられるものであり、空間に満ち溢れている。信号は温度、湿度、室内の色彩、光量など、室内であれば制御可能なものである。
 二つ目は人間の生体信号である。人間から発せられる生体信号は、刺激が反映された信号である。生体信号は心拍、呼吸、体温、血圧など健康状態の指標として使われているものである。二つの信号の相互作用に焦点を当てることが、人間をセンシングすることから、空間を作り出すことに繋がり、最終的に人間が求める空間の創造をする。
 さらに、機械が感覚を持つということは他分野においても大いに活躍が期待できる。それは対象を人間に留めず自然、地球規模に広げていくことである。自然界に満ち溢れている光、風、音などを基本とし、自然現象を対象とすれば地球をセンシングすることも可能かもしれない。環境問題である地球温暖化やエネルギー問題などの地球規模の問題の原因究明にも繋がる。機械が自発的にセンシングを行うことができれば、様々な信号を情報という一つの形に置き換えることとなる。

5.新たな情報
 人間から得た情報と、快適の空間を作り出すために得た情報は、今までにない多くの信号が含まれた情報となる。それらの情報は、対象を広げることで人間の信号、自然界の信号、機械の信号と異質であるものを融合させる。ユビキタス社会においては新たな情報となり、共有することで大いに活躍の幅が広がる。長期間計測した生体情報は医療・健康分野で役立てることができ、空間を作り出した情報は、仮想空間の創造へと繋がる。仮想空間は人間にとって必要な空間、望む空間を作り出すかもしれない。山のように大きな空が広がり、心地よい風が吹く空間。様々な思い出が、アルバムをめくるように蘇る空間、など新たな空間の創造である。

6.世界に満ちる信号の今後の行方
 生活空間には信号があふれている。それらは人間が無意識に感じているものもあれば、人間には感じられないが機械には感じることができる信号もある。それらの不確定な信号を対象とすることは難しい。しかし、そこにこそ社会を形成する新たな情報となる信号が含まれ、新たな感動を生むのではないだろうか。