過去の入賞論文
・2016年(第17回)
・2015年(第16回)
・2014年(第15回)
・2013年(第14回)
・2012年(第13回)
・2010年(第12回)
・2009年(第11回)
・2008年(第10回)
・2006年(第8回)
・2005年(第7回)
・2004年(第6回)
・2003年(第5回)
・2002年(第4回)
・2001年(第3回)
・2000年(第2回)
・1999年(第1回)





































































































2007年(第9回)

【優秀賞】
「バイオ燃料と環境問題対策の盲点」
法政大学 工学部 物質化学科 4年
佐藤 吏
佐藤 吏

<環境問題対策の盲点>
 近年、地球環境が大きく変化しつつある。産業革命以前、大気中の二酸化炭素の濃度は280ppmほどで、地球の平均気温は14℃に保たれていた。しかし、人類が電力を得るために化石燃料(石炭、石油)を燃やすようになると二酸化炭素濃度は上昇し始め、これまでに地球の平均気温は0.5℃高くなった。その影響で、地球上の氷や雪の大半が解け始め、海水面は上昇し続けている。
 そこで、このような地球温暖化に代表される環境問題を改善するために世界中で様々な取り組みが始められている。しかしそのなかには、効果を得るどころか逆に環境を悪化させるような「視野の狭い対策」も含まれている。この論文では、最近注目されているバイオ燃料をテーマに環境問題の盲点に迫る。

<バイオ燃料とは>
 トウモロコシ、大豆、サトウキビなどの作物を原料とした再生可能燃料である。バイオ燃料の炭素は植物が成長の過程で大気から取り込んだものであるため、排出しても大気中の二酸化炭素濃度は変わらない。とはいうものの、これはあくまで理論上の話に過ぎず、現実では製造の過程などにおいて、多くの弊害が発生している。私は、技術者または政治家の「視野の狭さ」により、弊害が発生していると考える。彼らは、結果のみを直視するため、周りの状況を把握しきれていないのである。

<米国のコーンエタノール>
 米国中西部のネブラスカ州では、州内で生産される約3割がバイオエタノールになる。
環境に優しいとされる生成物を得るという点では何ら問題はないのだが、生成物を得る過程において不都合が生じてくる。エタノールの製造工程は酒類の蒸留とほぼ同じであり、穀物を酵素によって糖に転換し、できた糖を酵母で発酵させてアルコールにする。それを蒸留して純度を上げる。この行程では、二酸化炭素が大量に排出される。エタノールが環境に優しいという説が疑わしくなるのはこの辺りからだ。発酵過程での酵母の二酸化炭素排出に加え、大半のエタノール工場では天然ガスや石炭を燃やして蒸留のための熱を得ていて、このプロセスでも二酸化炭素が発生する。また、原料であるトウモロコシの栽培においても天然ガス由来の窒素肥料が使われ、ディーゼル燃料で働く農機がさかんに使われている。全体のエネルギー収支を調べると、製造に必要な化石燃料のほうがエタノールで代替できる化石燃料よりも多い。以上のことより、「エタノール事業は、政府が国民の目をごまかすために行う無駄な事業だ」と主張する人もいる。確かにこの政策は、環境問題に取り組んでいますよと外にアピールする形だけのもののように思える。重要なのは、取り組みがきちんとした成果を出すかどうかということである。成果が出る見込みがあるのならば早急に弊害に対する対策を考えるべきであり、見込みがないのならば直ちに廃止すべきだろう。

<ブラジルのサトウキビエタノール>
 ブラジルでは1920年代から車の燃料にエタノールを使っていたが、徐々に石油への依存度が高まっていった。そんな中起きたオイルショックにより政府は大胆なエネルギー転換政策に踏み切った。新設のエタノール工場には多額の補助金を提供し、国営のエタノールの補給スタンドを全国に設置させた。そしてエタノール100%の燃料で走る国産車の生産を奨励するために優遇税制を導入した。その結果80年代半ばには、ブラジル国内で販売される車はほぼ全てアルコールのみで走るようになった。90年代では、原油価格の低下のため、エタノールの補助金が打ち切られ、アルコール燃料が入手困難になったが、2000年に入り原油価格が上昇に転じると再びアルコールが注目されるようになった。ここでの政策でブラジルの社会背景をきちんと捉えた視野の広さが伺える。この数年のエネルギー転換の経験を踏まえ、完全にアルコールへの転換を行わなかった。また何年か後のエネルギー転換を視野に入れ、アルコールでもガソリンでも走れるフレックス燃料の開発へ力を注いだのだ。今ではブラジル国内で販売されている車の85%近くがフレックス車になっている。ブラジルの大胆かつ入念な対策とその影響力の大きさには目を見張るものがある。
 またサトウキビの場合は、米国のトウモロコシと違って糖分を20%も含むため収穫後はほとんど手間をかけずに発酵させることができ、エネルギー収支においても優れている。さらには工場においても、サトウキビのしぼりかすを燃やして熱と電気を得るというシステムが整っている。この点で米国とは違い、取り組みがきちんと結果という形で表れている。それは、ブラジルの各々の工場が効率性の追求をすることによって、工程1つ1つを重視しているからこそであろう。
 しかし、そんなサトウキビにも欠点がある。ブラジルの大半の地域では、サトウキビは人の手で収穫される。その過酷な仕事のため、毎年過労で亡くなる労働者が出ている。また蛇を退治し、サトウキビを刈りやすくするために収穫前に畑に火を入れる慣行があり、そのときに強力な温室効果ガスであるメタンと亜酸化窒素が発生する。また作付面積の拡大のために森林伐採が進んでいる。このようなことより全体の生産プロセスを考えるとサトウキビエタノールはクリーンなエネルギーとは程遠いのかもしれない。

<藻類への期待>
 トウモロコシ、サトウキビに共通する点は、それらはそもそもエタノールの原料ではなく食料であるということである。バイオ燃料ブームで作物の価格が上がれば、食料の供給が脅かされる。21世紀半ばは、エネルギーと食料の需要は2倍以上に膨れ上がるという予想である。では、食料の安定供給を乱さずにバイオ燃料を確保するにはどうすればよいのだろうか。それは食料以外の原料を用いることで解決される。近年、その原料として藻類が注目されている。藻類は太陽と二酸化炭素があれば、排水や海水の中でも育つ。つまり温暖化ガスの排出を減らしてくれるのだ。この特性に着目して、発電所から排出される二酸化炭素を回収し、藻類に吸収させるというシステムも開発されている。でんぷんを作る藻類からはエタノールが生産でき、小さな油滴を作る藻類の場合、精製してバイオディーゼル燃料やジェット燃料を得られる。そして何より大きな利点は、藻類は条件がよければものの数時間で倍増するということである。コストという課題をクリアできれば、かなり将来的に有望な燃料資源になりそうだ。開発を進める国の政策(補助金など)が発展の大きな鍵を握るだろう。

<今後の環境問題への取り組み>
 バイオ燃料を通して環境問題への取り組みを考えてきたが、今回大きく分けて3つの重要なポイントが分かった。
 1つ目は工程を大切にするということである。1つの目標を達成させるためにはいくつかの工程がある。目標達成にのみ集中しすぎて工程を無視すると、コーンエタノールのように環境に優しいことをしているはずが、その工程が逆に環境を悪化させるということも起こり得る。
 2つ目は他への影響力を把握するということが挙げられる。サトウキビエタノールのようにある環境問題は解決できても、森林伐採や食料難など他の問題を引き起こすこともある。
 3つ目は概念にとらわれない柔軟な発想を持つということである。発電所から排出される二酸化炭素で藻類を育てるというように、あるところでは不要なものが別のフィールドへ移ることで活躍できるというケースもある。

 以上の3点を考慮することで、我々は「広い視野」を持ち環境問題と向き合うことができるだろう。

 

【参考文献】
1)ナショナルジオグラフィック日本版 2007年10月1日発行
2)日系ナショナルジオグラフィック社 P40からP61を引用