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2006年(第8回)

【優秀賞】
「科学技術で生きる日本へ」
東海大学 工学部 航空宇宙学科 4年
田中 和生

<序章>
今、日本の将来について考える時、最も問題となるものは格差だと考えている。アメリカ型の経済発展は、格差を生みやすい体質を作り上げたと言える。現に、日本国民は格差に不安を感じている。平成17 年末に行われた世論調査を見ると、9 割を超える人が日本の将来に不安を感じており、その多くは格差に関するものである。格差問題に注目した別のアンケートを見ると、80%が所得格差を感じているのが現状である。
格差は、科学技術を取り巻く環境にも確実に広がっている。文理の格差である。文系の方が生涯賃金も高く、大学受験の科目も少ないという状況が続くのであれば、そちらに進もうと考える人が増加するのは当然である。理系白書では、『生涯賃金差が5000万円ほど発生する』と記載されているが、実際には管理職に就けるかという点で格差が生まれている。この状況を変えるためには、行政や企業による教育と社会システムの改善も当然ではあるが、個人の努力も求められる。
本論では、文理格差が拡大する背景を解説した後、それに対して個人は、そして日本はどうやれば生き抜けるのかについて説明していきたい。

<格差を拡大させた3 つの原因>
この現状は3 つの原因によって生み出されたと考えている。
第1 に、アメリカ型経済発展政策への無考慮の追随が挙げられる。日本国民にとってアメリカが成功している政策に追随することに意義を唱える人は少ないだろう。戦後からアメリカ文化を吸収していた結果、アメリカへの妄信、日本古来の政策からの離脱が進むこととなった。しかし、日本はそもそも総中流社会と呼ばれ、格差に対するアレルギー反応がある。所得格差から逃れるため、稼げる仕事を優先することとなり、技術職離れの牽引役となってしまったのである。
第2 に、次に市場原理主導により、生産現場が新興アジア諸国に流出していくことを見過ごしたことが挙げられる。生産の基盤を世界各国が中国をはじめとして新興アジア諸国に移す中、同様に日本企業もコスト安に注目し、多くの工場を移転した。その結果として経済性は向上したが、日本国内に残ったのは新たに設備投資をする余裕を持たない町工場などの中小企業であり、技術的な競争力は逓減する結果となった。モノを作る技術者の働く場所が激減してしまったのである。
第3 に、理系離れを見過ごし続けたことが挙げられる。理系離れは現実のものになっているにも関わらず、危機迫る問題だという認識に欠け、その対策に具体性はない。確かに、グローバル化によって日本国民が理系から離れていっても実生活で即時に困ることはないだろう。しかし、日本の経済を支えている自動車産業やハイテク機械産業は研究開発力があってのものである。将来的に研究開発力が低下すれば、日本の経済力全体が低下していくのである。
だが、私がさらに懸念しているのは日本国民の価値観の変化である。ここ数年、文理格差をはじめとする格差を是正してこなかったことに起因して、お金を稼いで生活できれば問題ないという価値観が急速に浸透し始めている。いわゆるヒルズ族に代表されるIT産業は、冷房の効いた部屋でコーヒーを飲みながら、PCの画面に向かって談笑している姿をテレビ等で見かける。実際は激務なのだろうが、いわゆる3Kと呼ばれる「きつい」、「きたない」、「きけん」の町工場と比較した時、端的には明らかにヒルズ族の仕事環境が良いように見える。また、幼い頃から身の周りの物は与えられるばかりで、モノづくりをやっていなかった子供たちにとって、モノ自体の面白さは理解できても、モノづくりの面白さを理解することは非常に困難である。そういった子供たちが町工場などを見て、生産することが何故面白いのだろうと首を傾げるのは当たり前のことである。こういった価値観が浸透することで、二度とモノづくり国日本が復活できない事態の方がよほど深刻な危機である。全世界がまねするほどのモノづくり能力という日本のお家芸が弱体化したのには理系離れだけでなく、そこから生まれる価値観も要因である。
これら3 つの原因が今の文理格差を牽引しているのである。

<『稼げる技術者』を生み出す『3つのモノづくり』>
この事態を改善できるのは、若者が目標としたいと思えるような日本の科学技術を担って、時代をリードする『稼げる技術者』である。技術者になりたいと思う人が増えることこそ、科学技術大国日本を復活させるための最も堅実な方法である。そこで、稼げる技術者を育てていく鍵を握るのがスペシャリストを生み出す3つのモノづくり能力である。
第1のモノづくりは、基盤づくりである。集中的に1つのことをやることにより、物事に対するやり方を徹底することが重要となる。そのためには、まず何かをやってみることが大切である。1つの物事に対するやり方を確立することでその他の物事に対しても使える普遍的やり方を手に入れることができる。その対象は勉強でなくとも良い。自分のやりたいこと、スポーツでも趣味でも良いからまずはその現象を正確に捉え、どう取り組んで行くか、どう極めていくかという手法を自分で納得しながら確立させることが大切である。
第2のモノづくりは、信念づくりである。物事に対するやり方が確立した後、最も重要となるのが自分の理解である。様々な物事、つまり外部との接触を通じて自分の内面を理解することができるのである。やり方が確立していれば、物事に接する段階で嫌悪感を抱くことは少なくなり、物事の本質と対峙して判断することが可能となる。自分が納得したやり方で物事を判断して行くことで、本心からやりたいことを見つけることができる。そして、それを実現するための信念が構築されるのである。できあがった信念は、この夢だけは死んでも実現するという無限の努力に繋がる。そして、最大の効用は他者に対して自分はどういう人間かを正確に伝えることが可能となることである。
第3のモノづくりは、仲間づくりである。物事に対するやり方と自分の信念を作り上げた上で、次に重要となるのが社会に対する自分の存在である。何かを実現するために他者との何かしらの関係を持つのは必然であり、そのためにも円滑なコミュニケーション法が求められる。それより、互いの個性を尊重し合い、お互いの夢に向かって協力し、共に成長していく仲間を作って行くことが大切だと考える。1人ではできないことでも仲間がいればそれを実現できることもある。自分と向き合い、理解することで初めて相手も尊重できるし、お互いの立場で会話することが可能なのである。そうなれば、創造的な夢のある科学技術がどんどんと実現して行くことになるだろう。モノを作っていない、とか文系出身の理論家だ、といった理由で相手を卑下することなく、互いに認め合ってこそ、そこから新しい関係が生まれ、未知なる可能性が生まれると私は確信している。
これら3つのモノづくり能力が揃ってこそ、目標とされる技術者として日本の科学技術復活に寄与できるのである。

<現在の教育改革に対する提言>
これらは教育により培われる部分が多い。現在の政府が進めている教育改革においても、科学技術の一層の発展を願うのであれば、スペシャリスト思考を育てる教育方法をぜひとも取り入れていただきたい。さらに、これらの教育は義務教育と異なり、一生勉強を続けられるものであると同時に主体的に取り組まないと効果がほとんどないことが特徴である。
学生という限られた期間だけではなく、生涯にわたって自分を教育できる方法を幼いうちに習得できるような教育システムを期待してやまない。
これらの教育はすぐには成果が見えないかもしれない。だが、10 年後には必ずや大きな力に成長し、将来の日本が不動の科学技術大国、世界のモノづくり頭脳となっている姿を私は楽しみにしている。


【参考文献】
理系白書 毎日新聞科学環境部 講談社 (2003/6/21) p14-16 より引用
参考URL
1.世界中で広がる貧富の格差
  http://tanakanews.com/990628richpoor.htm
2.アンケート調査 「国土の将来像について」の結果について
  http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha06/00/000329_.html
3.2006 年 マイボイスコム株式会社調べ 格差について
  http://www.myvoice.co.jp/biz/surveys/9303/index.html