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2005年(第7回)

【優秀賞】
「技術の伝承とボトムアップ」
工学院大学 工学部 機械システム工学科 4年
大畑 敦

<はじめに>
 日本は2007年問題と呼ばれる団塊世代の大量退職を迎える。特に製造業への打撃が大きいと言われており、それはこれらの方たちが持つ機械化できない技術、いわゆる職人芸が若い世代にうまく伝承されていないからである。さらに日本は、少子化に伴い人口が減少傾向に向っており、労働力の減少が考えられ、質の向上が求められる。なので、団塊世代の技術を伝承と技術のボトムアップは日本にとって急務なのである。

<職人芸の大切さ>
 日本が世界に誇れる科学技術の高さの大きな要因に職人芸があると思う。これは日本の大きな財産である。科学技術立国を目指す日本と言えば、最先端技術をいかに創造するかという事を考えがちだが、今ある技術があってこそ最先端技術なので、その技術を失ってしまっては、技術を創造できても問題のもの造りができないというお粗末な結果になってしまう。今の日本は技術の質の維持や全体の技術のボトムアップが必要であるといえる。

<卒業研究で>
 私は、現在大学4年生である。無事就職先も決まり、卒業研究に勤しんでいる。その卒業研究で私はある金型を製作しなくてはならない。しかし、私は授業で工作機械は一応学んだが、いざ使おうとすると使い方がわからない。ロボコンや鳥人間などのサークルをやっていた友達は自由自在に工作機械を扱っている。なので、工作室にいる先生の助言を受けながら、なんとか金型の製作を続けている。私の学校では工作室の先生は会社の元技術者である。先生といろいろディスカッションしながら金型の製作を続けているのだが、私の圧倒的な経験不足のため先生の話に付いていけない時がある。それは感覚でつかんでいるか、いないかであると言うところがあると思う。私も大学の授業で材料特性などしっかりと学んできたつもりだった。数値の上では硬いとか靭性が高いとかわかっていたのだが、実際に加工を行うと様々な問題が出てくる。例えば、最近私たちの身近に見かけるようになったチタンやステンレスなどは非常に硬く少しずつしか削れず非常に時間がかかったり、図面で簡単に10mmを書くが場所によってはその10mmの精度を出すのは非常に難しかったり、机上の勉強ではわからない事が現場にたくさんあることがわかった。
 最近卒業研究でパソコンの高性能化や工作機械のNC化に伴い、解析やプログラミングなどの扱いだけの学生もいる。そのため、機械系の学生であれ工作機械のハンドルを握ることなく工作から遠ざかってしまう学生も少なくないと思う。最悪の場合は工作機械には授業だけの経験になってしまう学生もいると思う。しかし一方では、ロボコンや鳥人間など工作機械に携わるサークルに入っている学生はどんどんもの造りの経験を積んでいく学生もいる。これらの学生の卒業後の数字では見えない経験の差は非常に大きいと思う。<開かれた工作室を>
 私の考える科学技術立国日本は、技術の伝承や技術のボトムアップが目的である。その解決策の一つに工作などを授業だけの経験で卒業してしまう大学生をいかに少なくするかが問題である。おそらく授業数を多くすることは難しく、単に授業数を増やす事だけが問題解決になるとは思えない。なので、私は大学の工作室の拡張と開かれた工作室を考える。授業で一連の工作機械の使い方を学び、それ以外に一つだけ多く教えてほしいことがある。それは工作キットの紹介である。簡単な工作キットを学生の暇な時間に造れるような状況をつくり、サポートする体制を整わせるのである。このようにすれば、工作がより身近なものになると思われる。そして、材料力学などの通常の授業でもそのような工作キットの紹介を多くすれば、ある一定の学生は工作を授業以外にもより多く行うことができる。
それ以外にもこの開かれた工作室には良い副産物が二つあると思う。
ひとつめはコミュニケーション能力の向上である。工作機械の扱い方を覚えた学生ができない学生に教えたり、自分の造りたいものを他の人に相談するときには図面や模型などを使い相手に100%に近い状況で伝える事ができなければならないことで理系での会話の理解が深まったりなど一般的に理系の学生が苦手とされるコミュニケーション能力の向上が期待できる。
 ふたつめは通常の授業、つまり机上での勉強を簡単に想像でき理解もより一層深まると言う事である。机上の勉強では、公式を単に暗記したりだとか、公式や原理などをどのように使えば良いのかがわからない事が少なくないと思う。これらを工作の経験や感覚でつかむ事ができれば、授業で学んだ知識を身をもって学ぶ事ができ、将来非常に役に立つ技術になると思う。
 しかしながらこれは学生の自主性に任せる部分が多く、すべての解決に繋がると言い切れない部分がある。

<工作塾の設立>
 団塊世代の大量退職に伴い、この中に技術を持っているがその技術を十分に活かせる人は多くないと思う。企業も定年の年齢を上げるなどの対策を講じているが、それだけでは限界があると思うし、足りないと思う。
 なので、私はこのように技術を持った方たちで工作塾の開くことができれば良いと思う。大学で機械の勉強をしたが、工作機械の経験が少ない人は多いと思うし、私のように卒業研究で初めて機械と面と向って扱う事になる学生も多いと思う。このような学生が製造業の会社に就職し工作の技術を求められる事は多いと思う。当然会社でも研修などを行うであろう。だが問題なのは私の経験にもあるように圧倒的に経験が少ないがために評価される会社の中で初歩的な質問ができない事や感覚でつかむ部分をどうするかが問題である。
 このような人たちのために、工作塾を私営・公営で問わず設立し、このような人たちをサポートできれば良いと思う。
当然子供たちや趣味で工作をしたい人たちにも開くことも重要である。工作機械などはとても高価で個人での購入は難しい。なので、これらの塾に一定の設備を整える事で、技術の伝承、技術のボトムアップだけでなく、子供たちにもの造りの好奇心を植え付ける事が可能であると思う。

<さいごに>
 現在日本では雇用体系の変化やアウトソーシングの一般化により、技術の伝承が急務なのに非常に難しい現状にあると思う。工作機器の高性能化が進み、精度など簡単に出す事も可能ではあるが、結局はそれを扱うためには扱う人間の経験や感覚による部分が大きいのも事実である。機器の高性能化に頼り切ってしまうことで人間の成長が滞ってしまう。しかしそれではせっかくの高性能な機器の力を100%出し切る事は不可能である。
 大学生の質の低下が叫ばれる中でより多くの工作を通じ知識を技術に変化させることにより技術の伝承をスムーズにし、技術のボトムアップに繋がると思う。
 どうも最近の日本は先のことばかりに注目しがちで、足元が崩れていく現状を軽く見ている気がする。今一度足元をしっかり固める重要性に気づき、今ある財産をしっかり維持することができれば、より将来の幅が広がり一人ひとりの創造が広がる可能性があると思う。
 私は卒業研究で工作機械を扱う機会があり、非常によかったと思う。ハンドルを回しながら材料を削るときの抵抗を肌で感じ、切り子の出かたや刃物の様子などいろんなことを身をもって学んでいることに喜びすら感じている。このようなもの造りに喜びを感じる種は理系の学生であれば大半が持っていると思う。なので、このような喜びを工作系サークルに入らなくても学生の時代に分かち会える場を提供してほしい。