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2003年(第5回)

【努力賞】
「誰もが触れることの出来る科学へ」
東京農工大学 工学部生命工学科 3年
前田 義昌

 21世紀を迎えてなお科学の発展は淀みなく、その研究分野も極めて多岐にわたり新しい研究対象に目が向けられています。情報技術の発展により世界中の人々とコミュニケーションをとる機会が与えられたり、生命工学の進歩により今まででは考えられなかったような医療が可能になったりと、人類は自ら造り上げた科学により多くの恩恵を得ています。また逆に、二酸化炭素などの温室効果ガスによる温暖化や工業排水、産業廃棄物による水質、土壌、大気汚染など環境の破壊、汚染をひき起こすといった深刻な問題をもはらんでいます。
 このように科学は善きにせよ悪しきにせよ世界中の人類に対し、さらには地球上の全存在に対しても影響力を及ぼすほど大きなパワーを持つまでに成長しています。逆に言うと、世界中の全ての人々にとって科学というものは他人事ではない身近なものであるはずです。しかし、現在の日本の状況を見てみるととてもそうであるとは思えません。社会不安のためか高校生の間では理系よりも安定した文系志向が進んでいるとも聞きますし、小中学生の理科離れへの対策に追われる学校の状況を見ればそのことは明白であるでしょう。さきにノーベル化学賞を受賞された島津製作所の田中さんが自著を発表された際におっしゃっていた「テレビなどに出るようになって自分のことを『癒し系』などと呼ぶ人がいるが、誰も自分の研究について聞いてくれる人はいなかった。だから自分で書くしかなかったのです。」という言葉に、社会全体の科学に対する関心の薄さが集約されているように感じました。そこでこの論文ではどのようにしたら科学をより身近な存在に出来るかを考えていきたいと思います。

戦略 其の壱 PR不足解消

 科学を少しでも身近にするのにまず何よりも必要なことは、今どんなことが研究されているのかアピールすることだと思います。現状では科学というものが目に触れる機会があまりにも少ないように感じます。確かに、大学や各研究機関で行われている研究についてインターネット上のホームページや配布用パンフレットに紹介が載っていたり、科学博物館などで催し物が開かれるなど、その気になれば科学に対する情報は簡単に手に入れることは出来るでしょう。しかし、それらの情報は"その気になる"ほど科学に対して興味を持っている人に対してしか開かれていないという欠点があります。さらに実生活にはっきりとした影響を示しにくい人文科学などの分野の研究ほど大衆の興味をひくことが難しくなってしまうでしょう。
 ゆえに、このような受け身的な情報発信だけに頼るのではなく、もっと積極的に目に留まる位置を占めていかなければなりません。

戦略 其の弐 万人にわかる科学を目指す

 またいくら情報が目に留める場所にあったとしてもその内容が理解されなければ何の意味もありません。にもかかわらず、現在の研究紹介のあり方は万人にわかってもらおうという意図がないように感じます。実際、自分が専門外の物理系、情報系などの研究室についてホームページを見渡したところ、ほとんどの研究内容について理解することが出来ませんでした。このようなPRでは、見る人に「やっぱり科学って難しそう・・・」という先入観を植え付けてしまい、逆に科学への関心をなくす手助けをもしてしまいかねません。ゆえに科学をPRする上で一番重要なことは多くの人にわかるように工夫を凝らすことであるといえるでしょう。
 ではどのようにしたら万人にわかる科学が作れるでしょうか。この問題を考えていくとそのモデルがすでに存在していることに気づきました。それはテレビで放送されている、いわゆる"科学番組"というものです。詳細な実験過程を省きながら、断定的に物をいいがちなこれらの報道は"似非科学"と揶揄されることもありますが、その"視聴者にわかりやすく説明しよう"という姿勢は十分に学ぶべきことであると思います。なぜこれらがわかりやすい説明を可能にしたかを考えてみたところ以下のような特徴が思い当たりました。則ち、
  断定した口調を多用し、あやふやな表現を避ける。
  例外に触れず大枠だけを説明する。
  詳細な実験データを示さないか、あるいは示しても詳しい説明を省く。
  筋道を一本化する。
  身近な例、喩えを使用する。
  同じことを繰り返し、違う切り口から説明をする。
 一見すると確かに厳密さが失われ正確な説明が出来ていないように感じますが、その分、自由な表現が可能となり、わかりやすさを身上とした説明が成り立っています。
 難しい内容を平易な言葉で言い換えながら、聞く人の生活、興味、バックボーンにあわせた説明することは非常に難しいことです。しかしそれが出来なければ、もともと科学への興味が薄い人の関心をひきつけることは不可能であると思います。自分の研究を人に紹介するとなると、細かいところまで正確に知ってもらいたいが為にとかく厳密な説明が多くなってしまうでしょう。しかし今後は、場合に応じて細かい部分を省略しながら、相手に合わせたわかりやすい説明をする能力も必要になってくると思います。

戦略 其の参 多種メディアとの協力
 
 ここまでの主張をまとめると、
  科学を知ってもらうために今どんなことが研究されているのかを紹介する。
  紹介するならわかりやすく説明する。
ということになります。では、どのようにすればこれらのことを実践することが出来るでしょうか。それには我々が日常的に目にするテレビや新聞、雑誌といった各種メディアにおいて現代科学に関する番組、記事を発表する方法があると思います。
 この方法にはすでに成功例が見られます。「ヒカルの碁」という作品があるのをご存知でしょうか。誰もが知っているけれど誰もやったことのない"碁"というゲームを小中学生が日常的に目にするマンガというメディアに載せて発信したことで、若い世代の碁人口の増加に大きな役割を演じたと言われています。この「ヒカルの碁」が成功したのは、"碁"というゲームの詳細なルールの説明を大胆に省くことで、碁を知らない読者の興味を失わせなかったこと、さらに碁を知らない読者でも楽しむことができるほど力のある作家、漫画家を起用したことにあると思います。
 テレビや新聞、雑誌に載る科学報道は当然今までもありましたが、これほど影響力のあったものは皆無でした。それは現段階では、各種メディアにおいて科学の楽しさ、すばらしさ、今後の可能性などをわかりやすく、興味をひく形で説明できる人材が不足しているためであると考えられます。科学版「ヒカルの碁」を作り出すには、科学的研究を外部に向けて発信できる"科学外交官"というべき人材を育てる環境も整えなければならないと思われます。

 科学の発展が進むにつれて、研究内容は高度に専門化していきます。そうなると普段科学と触れていない生活を送る人々にとって科学というものがどんどん遠い存在になってしまい、終いには関心を失っていくでしょう。そうなるともし画期的な技術が現れてもその無関心さから拒否反応を示し、その技術の発展の枷になってしまうことも考えられます。そのような悪循環を避けるためにも、日ごろから科学への関心を失わせないような、"万人共有の科学"を目指していくことが必要となってくると思います。