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2003年(第5回)

【努力賞】
「自然に学んで技術の飛躍を」
徳山工業高等専門学校 機械電機工学科 1年
高瀬 善康

 私は現在、徳山工業高等専門学校の1年に在籍しており、創造演習という授業の中で自分なりの「最速の形状」というテーマについて取り組んでいる。その中で私はどのような形状であれば空気抵抗を減らし、速く運動することができるかという問題について考えるために様々な生物、移動機関を考察してきた。これらの取り組みを通じて私は自然の生物のもつ優れた特徴が現代の技術に大きく関わっていること、時として生き物に学んだ新たな発想が課題を打破し技術の飛躍をもたらすということに気付いた。私は技術の飛躍には自然から学ぶ必要があると考えている。

【ハヤブサの形状から学ぶ】
 地球上でもっとも速く運動できる生物はハヤブサである。授業の中で私は空気抵抗を抑えるために重要なポイントとしていかに滑らかな流線形であるかという部分に着目し、その焦点を最速の鳥であるハヤブサに当ててみた。ハヤブサの写真を見て私は見事な流線形だと感じた。くちばしから尾までが滑らかな線で結ばれている。これがハヤブサの高速飛行を可能としているのだろう。
 だがひとつ腑に落ちないのは、ハヤブサのくちばしの先端が流線形に反し丸くなっていることだ。高速飛行においてはもっと細く、尖っていてもよいのではないだろうか。結論を言えばハヤブサのくちばしは食物採取と深く関わっているのでそうなっているのだが、そこで私はある言葉を思い出した。それは山陽新幹線500系のぞみについて調べたときに得た「先頭・後尾の走行抵抗が全空気抵抗に占める割合はたったの一割。鉄道の場合は列車表面のなめらかさが重要になってくる」という言葉である。
 それまで私は空気抵抗を減らすのに先端の形が大切だと思っていたのだが、それは見事に裏切られ、あくまで車体本体の空気抵抗を抑えることが大切とあった。一見矛盾しているような生物の形状が実はたいへん効率のよいものであることに驚かされた。新幹線の工学的な分析から得た「先端部分は抵抗の一割以下」という知識が、ハヤブサの形状が理にかなったものであることを教えてくれたのである。

【カワセミの水中突入との類似性】
 ハヤブサの場合は空気抵抗を抑えるために全体の形状が重要であったが、新幹線においては同時にトンネル突入という高速走行とは違った状況に対応する必要がある。トンネル突入時にはトンネル内の空気が圧縮され、そこから振動と騒音が発生する。その振動と騒音を低減させるための形状をスーパーコンピューターを用いた徹底的なトンネル内走行シミュレーションで解析していくと、空気中から水中に突入して魚を捕らえるカワセミのくちばしの形状とほぼ同形状になるという。500系のぞみの15メートルもある鋭く伸びたロングノーズはそこから生まれたのである。

【音もなく飛ぶフクロウの羽の応用】
 高速走行をするにあたり、切っても切れない関係にあるのが騒音の問題である。速くなるに従って、発生する騒音も計り知れなくなってくるが、同様に500系のぞみを開発するときも「いかに静かに走るか」ということが重要な課題のひとつになっていた。500系のぞみにはこれを解決する技術として、フクロウの羽の構造が用いられている。
 フクロウはもっとも静かに飛翔できる鳥で、ノコギリのような小さな突起が数多くついた羽を持っている。新幹線の場合、騒音の中心源は車体から突起したパンタグラフなので、そこにフクロウの羽を模した小さな突起をつけることで騒音減少、加えて空気抵抗減少の効果を得ることができた。また、最近の競泳用水着にはサメの微細な凹凸を模した表面加工がなされているが、これは数年前から開発が行われタイムの向上という形でその効果を発揮している。フクロウの羽と近い原理から成り立っていると思われるが、これらは正に自然から学んだ技術ということができるだろう。
 私は空気抵抗を減少させるうえで、滑らかな表面が圧倒的に有利だと考えていたが、それに反し小さい突起や凹凸をつける方が抵抗減少の効果が大きいとは思いもよらなかった。常識を打ち破る技術が生物を学ぶことで得られるわけだが、自然にはまだまだこのような例が隠されているのではないかと感じた。

【技術に活きる生物の形状】
 生物の形状はどの部分をどう変化させれば効率良く目的を達成できるかを物語っている。そしてそれを汲み取った、自然を活かした技術は現在様々なところで活かされている。ハヤブサの形状から学んだことは高速飛行における流線形の重要性。空気抵抗を左右する全体の形状は流線形に、それほど重要な部分でない先端は食環境に適応させるというとても効率の良い形状をしている。そしてハヤブサのくちばしに抱いた疑問から「先端部分は抵抗の一割以下」という現代科学と共通するものを見出すことができた。
 先端の形状に重点をおいているカワセミは空気中から水中へという急激な圧力変化に適する形状であった。500系のぞみのロングノーズはトンネル突入時の振動と騒音を抑えるために計算されたものであるが、その形状がカワセミのくちばしと類似しているということは生物の形状がいかに合理的かということの証明になっているのではないだろうか。
 また、新幹線の騒音源になっているパンタグラフには風きり音の低減として小さな突起をつけるという技術が使われている。フクロウの羽を模したこの技術は騒音減少の効果をもたらすと同時にそれまで抵抗軽減には滑らかさが重要だと考えていた私の常識を見事に覆した。流線形に反する小さな突起をつけることは空気抵抗を増加させるだけだと思ったが、この技術は抵抗減少の効果も持っていたのだ。そして実際にその効果は確認され、鮫肌効果として競技用水着に取り入れられている。

【生物から学ぶことの重要性】
 地球上の生物たちが何億年もかけて生み出し培ってきた知恵、形はその時々において、もっとも効率のよいものを残し現代まで伝えられてきたものである。そのままを現代の科学技術に流用することは難しいが、ある物事を考え追求しようとするときに、自然を観察し、自然に学ぶという姿勢を持つことは非常に有効であると私は考えている。また500系のぞみのロングノーズやパンタグラフ、競泳用の水着の例は自然の技術をそのまま流用したものといえるが、加えて自然の知恵や技術に人間の生み出す技術を応用させることができればその可能性はさらに広がりを持つことは間違いない。人と自然の技術を融合させた技術が開発されるようになれば理想的ではないだろうか。

【自然を教師として】
 「一木一草、一鳥一魚、皆我々の輝ける永遠の教師であろう」(飛行機設計論より)という言葉をご存知だろうか。これからの日本は技術だけでなく、すべてにおいてこの言葉に学んでいかなければならない。自然を見つめ直し、自然のもつ様々な技術の可能性に目を向けることが、環境に配慮した優れた技術を生み出す第一歩になるはずだと私は考えている。従来の考え方では技術の新たな展望が開けそうにないとき、技術的な壁にぶつかった時、何億年もかけて開発された自然の技を観察して自然に学ぼうとすることに新たな技術の飛躍を得るためのヒントが隠されているのではないだろうか。私は創造演習を通じて技術の大きな進展には自然に学ぶ姿勢が重要だという事を知った。技術の宝庫である自然に学び、日本の将来に貢献できるような技術開発を行っていきたい。


【参考文献】
飛行機設計論
山名 正夫 中口 博 共著 養賢堂 1982年発行

自然に学ぶ 山陽新幹線の五〇〇系電車の開発経験から
仲津英治 http://www.wbsj.org/birdwatching/contribution/97_910j.html