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2003年(第5回)

【最優秀賞・文部科学大臣奨励賞】
「一般の人の大きな力」
東京学芸大学 教育学部初等教育教員養成課程理科選修 3年
佐藤 梨津子

 今、日本は科学技術立国を目指している。正確に言えば戦後からずっとそうである。資源のない日本は、材料を輸入し、高度な科学技術を用いて加工し、製品にして輸出してきた。自動車がその代表例である。しかし最近になってまた盛んに科学技術立国が叫ばれているのには理由がある。昔とは、求められる科学技術の質が異なるのだ。

 昔の日本の売りは、「正確さ、精密さ」による高品質であった。しかしアジアの国々で技術レベルが上がり、日本より安く十分な品質の物が生産出来るようになって、日本はこの分野だけでは生き残れなくなってしまった。産業の空洞化が起こり、日本にあった工場はどんどんアジアに移動している。

 それでは現在求められている科学技術とは何か。それは、特許をとれるような技術である。新しい性能や効果を商品にもたらしたり、新しい商品やサービス、ひいては産業を産み出せるような全く新しい技術である。なるほど、そのような高度な技術が開発されれば日本の産業は活発になり、経済は元気になるだろう。これは今の日本にはぜひとも必要なことである。

 それでは、そのような科学技術を開発して科学技術立国するにはどうしたらいいのだろうか。私は、三つの人材を育てることが必要だと考える。研究者、消費者、投資家の三つである。

 研究者が必要な理由は明解だ。科学技術を直接開発する人々だからだ。彼らに十分な研究資金と設備を保障し、社会的な地位を与えなければ科学技術立国は成り立たないだろう。
 しかし、そのような理論は一般の人にとっては雲の上の話かもしれない。研究者は本当にひとにぎりの人々だし、一般の人々にとっては遠い存在だ。それでは、そのような多くの人々には、科学技術立国は関係にない話なのだろうか。私はそうではないと考える。このような人々は、大きな力を持っている。それは消費と投資である。新しい科学技術が開発されると、それは最終的に具体的な商品やサービスとなって消費者の前にあらわれる。消費者は様々な選択肢の中からひとつのものを選択するが、この小さな力は大きな意味を持っている。日々開発される新しい技術の中から、人々の生活に本当に必要なものが選ばれてさらに成長していくためには、消費者がよく考えてものを買うことが非常に重要なのである。

 最近様々な科学技術が化粧品に応用されているが、これを例にとって考えてみる。ある女性が化粧水を買いに売り場をおとずれた。彼女の前には、マイナスイオン効果をうたった化粧水Aと、ナノ粒子が入った化粧水Bがあるとする。値段はAのほうがBより少し安い。この時、彼女は何を判断基準にして商品を選ぶだろうか。金額を一番に考えればAを選ぶだろうが、効果を基準に選ぼうとすればマイナスイオンとナノ粒子という言葉に興味を持ち、どんな仕組みでどう働くのか知ろうとして、表示や説明書を読んだり販売員に相談してみるだろう。この時、彼女がきちんと効果のある良い技術を見分けて商品を買えば、お金はその技術のほうに動くのである。彼女のような人が増えればその商品はもっと売れ、その技術は力をつけることができる。しかし、値段だけしか気にしないで買うと、せっかく良い技術が開発されても、それが生かされずお金も動かず、科学技術はすたれる方向に進んでしまう。このように科学技術を生かすも殺すも消費の力が大きく関与するのである。

 投資についても同じことが言える。日本は個人が株を買って投資することはまだそれほど一般に広まっていないが、これの発達したアメリカでは、良い技術を開発した企業の株は高くなるので、一般の人の科学技術開発への関心は高い。日本でも高校生への株取引教育への実践が行われたりして、これから個人の投資が増えていく流れにある。将来の見込みのある良い技術を見分ける力が必要になっていくだろう。

 このように、消費者、投資家という大多数の一般の人の力が非常に大切であるが、今の日本はこの力を生かしきれていないであろう。それでは、どうすれば一般の人の科学技術を見分ける力を育てて生かし、科学技術立国に役立てることができるのだろうか。
 それには、一般の人の科学への関心を高めることと、技術や商品のつくり手が正しい情報をわかりやすく伝えることが必要である。

 今、日本人の科学への関心が非常に低いという調査が数々発表されている。「理科が好きな生徒の割合」「将来、科学を使う仕事をしたいと考えている生徒の割合」「科学技術に対して関心を持っている一般市民の割合」などが、先進国中最低となっている。この現状を変えていくには、理科教育が有効である。

 これまでの理科教育は、科学知識を与えることを重点としてきたが、科学の面白さを味わせたり、知識を応用して身近な問題について考えさせたりすることがないがしろにされてきた。その結果、「科学知識はあるが科学に対する関心は低く、理科がキライな」国民を育ててしまった。このままでは消費や投資を通して科学技術を育てていくことなど不可能である。これを行っていくために、理科教育により科学に関心を持たせるとともに、消費教育や投資教育と関連させていくことが必要である。

 私は将来小学校の教員になることを考えているが、子どもたちが将来科学技術に関心を持ってものを買う消費者になれるような理科教育を行いたい。そのために、子どもたちが自分で選んで買えるような商品−消しゴムや缶ジュースや百円均一の商品−を教材にとりあげ、何を選ぶか、その基準は何かを考えさせ、単に値段や見た目・味の好みだけでなく、それらの商品を科学技術の目でとらえることが自分にとって大切であることを学ばせたい。これは社会科や家庭科とも関連性のある内容なので、総合的な学習の時間に扱うのもよい方法だと考えている。このような内容を取り入れつつ、科学の面白さを味わせるために実験や観察を多く行い、得た知識を用いて科学的に考えられるように育てることで科学技術立国に役立てるだろう。

 消費者が、科学技術に関心を持って商品を選ぶようになった時、大切になるのが科学技術の仕組みや効果を消費者に正しく・わかりやすく伝えるメディアを整備することだ。今、店には科学的効果をうたった商品が溢れている。先にあげたマイナスイオンやナノテク、ハイブリット、抗菌、ポリフェノールやイソフラボンやセラミドなどの成分を商品の目玉としてアピールしている。しかし、消費者は不十分な表示や説明しか与えられず、本当に効果があるのか不確かなまま商品を選んでいるのが現状である。信頼できるマーク、「効果が科学的に証明されていること」を示すものがついている商品もあるが、数が少なすぎてあまり力がないのが問題である。もっと消費者の側に立った、選びやすくて信頼できる表示方法を確立すべきである。

 また、様々な科学技術をわかりやすく取り上げるテレビ番組が増えているが、消費者に与える効果が大きい分、もっと科学的な方法で証明を行うなど注意すべき点が多い。
 このように、一般の人の力は大きい。科学技術立国など自分にはあまり関係のないことだと思っているような人々の意識を変えていくことが必要である。